三章ー6 怪異
作者「どんどん投稿しちゃうぞ! 調子いい時に書いとかないと、またいつ止まるかわかりませんからね!!」
シャミル「無理は……しないでね……」
その日の夜――駿也は眠れずにいた。
ほとんど事情を語らなかった彼女だが、助けたこと自体に後悔はない。ああして苦しんでいる者を見捨てたがために、駿也は――
「……はぁ」
暗欝な気持ちは晴れない。これはきっと、自分が一生かけて償っていくものなのだと自覚している。
母親はそんな自分を痛ましい目で見ることがあるが、それでもこうして誰かや動物たちを保護するのを止めたりしない。そのことには、感謝せねばならない。
と、その時であった。時刻は12時を回ったところである。駿也の部屋の扉が、開かれたのだ。
「母さん? ……って」
暗闇に浮かびあがったのは、左右の瞳の色の異なる少女、シャミルだ。別室で眠っていたはずなのだが、どうして自分の部屋に?
「シャミル? どうかし――」
問いかけている最中に、彼女は寝転がっている駿也に覆いかぶさってきた。さらに、ことらのパジャマの上の方のボタンを器用に外していく――
「シャミル!? ちょっとどうし――」
「……ごめんなさい」
何度目かの、彼女の謝罪の言葉。
その中でも特に今回のは、強く彼女の感情が出ているように思えた。
そして、彼女が行ったのは――首筋への口づけではなく、あろうことか首筋に噛みついたのだ。
「ッ!?」
鈍い痛みと共に、血液が彼女の口内に流れ込んでいく。
出血はさほど激しくないのか、鈍く痛むだけで大したことがない。問題は、何故彼女がそんなことをしたかだった。
そこで、学校の面々の様子や、アーサーの反応を思い浮かべる。
宗司と駿也を除く皆は、怪異に肯定的だった。加えて、アーサーの発した言葉。
あれは、怪異は実在し、そして彼女は人間ではないということだったのではないか。
彼女が人外で、人の血を求める種族だったとしたら――駿也はそれを、愚かにも招き入れたことになる。
だが、なんであろうと、あんな状態の誰かを放っておけるはずがなかった。
だから――後悔はない。
駿也はそっと、両手でシャミルの長い髪を撫でた。
少女が、ぴくりと震えて――そしてそっと、唇を首筋から離す。
「シャミル――大丈夫?」
できるだけ優しく言ったのだが、血を吸われたせいか貧血気味なのと眠気で美味くろれつが回らない。けれども、酷く戸惑っている彼女の表情を見れば、それが伝わっていることがわかった。
「……駿也、どうして? 私が恐くないの……?」
「僕は、君を見捨てないって言った、その言葉にうそはないよ」
「……馬鹿……」
それっきり、彼女は駿也の胸の中で大声で泣いた。下手をしたら、母親を起こしかねないような音量だったが、それでも駿也はシャミルの髪を撫でつづける。
「聞いてもいいかな……? シャミル。君はなんだい?」
泣きぐずりながら、彼女はぽつぽつと話してくれた。
「私は――人間が四分の一だけ混じった、吸血鬼なの」
「吸血鬼……あれ? 太陽光に弱いんじゃ……?」
「そうなんだけど……私は人間も混じってるから平気みたい。弱点のない吸血鬼なの。それで――固有で使える力も強力だから、いろんな人に狙われて……」
少女があんな状態だった理由が、駿也にも理解出来た。ああでもして潜伏せねばならない状態だったのだろう。
「駿也……その、急に襲いかかってごめんなさい。血もあんまり吸わなくても大丈夫なんだけど、流石に吸わなすぎて飢えてて……」
「ああ、気にしないで。僕が死なない程度にならまた吸ってもいいから」
シャミルは目をぱちくりさせる。
「いいの?」
「他の人だったら、吃驚して逃げたりしちゃうでしょ? 僕なら、そういう心配はないから」
「本当……駿也は優しいね」
「違うよ、これは――」
贖罪だ。と言いかけて慌てて駿也は口を塞ぐ。流石にこれは言うわけにはいかない。
「駿也?」
「なんでもない。それより、早く部屋に戻りなよ。母さんに見られたら面倒だ」
「そうね。今度……色々話すから……じゃあね。おやすみなさい」
「うん。おやすみ」
シャミルを自室へと導いて。駿也は首筋を押さえる。
若干血が垂れていたが、きっとシャミルは加減してくれたのだろう。根は優しい子のように思える。でなければ、襲いかかる相手に「ごめんなさい」などと言いはしない。
彼女が何を話すのか、それを楽しみにしながら――駿也は夢の世界へと落ちた。
作者「という訳で、駿也君がシャミルちゃんに襲われる話でした」
駿也「ちょっと痛かったけど、彼女はやさしい子だと思ったから、怖くは無かったよ」