無口な殿下
異世界の話を書くつもりだったけど、異世界要素が全然なかった。
「アラン様、お茶のおかわりはいかがですか?」
「…もらおう」
控えていた侍女がすぐさま新しいカップを運んでくる。
午後のティータイム。
この国の王太子であるアラン様と、彼の婚約者である私は、
ここ、王立学園のテラスで週に2~3回、お茶の時間を過ごす。
見目麗しい殿下。有能で聡明でこの国の王となる器を持ったかた。
おそばにいられるだけで、こうして見つめることができるだけで
幸せだと思っていたのだけれど…。
「風が気持ちいいですね」
「…ああ」
「ご公務のほうは順調でございますか」
「…ああ」
「それはよろしゅうございました」
「うん…」
この時間は、親睦を深めるための時間のはずなんだけど…。
正直、全然深まってるとは思えない…。
話を振るのは私だけだし、返事が短すぎる。
「ああ」「うん」「いや」「そうか」ぐらいしか聞いたことがない。
無視されないだけでもマシなのかもしれないけど、あまりにも
返事が短いので、不安になってしまう。
殿下は本当はこの婚約を望んでないんじゃないだろうか。
私との時間が苦痛なのじゃないだろうか。
そんな疑惑がわいてきて、泣きそうな気持ちになってしまうのだ。
だめだめ!弱気になっちゃ!私は頭をふって気を取り直した。
少なくとも、嫌われている感じはしないし、少しでも殿下と
親しくなれるようがんばろう!
そうだ、お腹がすいていると、マイナスなことを考えがちだから、と
大好きなマドレーヌを手に取ってかじった。
ん?
もぐもぐしながら皿に並んだマドレーヌを凝視していると、
それに気づいた殿下がけげんそうな顔になった。
「どうかしたか」
私はあわてて首を振る。殿下が用意してくださったお菓子に、
問題があるように思われたら一大事だ。
「あっいえ、このお菓子、以前はもっと甘かった気が
しましたので、味が変わったのかしら、と考えておりました」
「そうか…」
殿下はちょっと考えるそぶりをして
「おかしな話だな」
と言った。
「…」
「…」
いや別におかしい話ではないような気が…
というかあの、もしかして今のは…
いや、まさか、殿下が… この、麗しく聡明な殿下が、
ダ…ダジャレなんて、まさか…
でもでも、確認したい!まさかとは思うけども!念のため!
私はごくりと唾を飲み込んで、思い切って言ってみた。
「アラン様、むこうの領地に、立垣が建ったらしいですわ…」
殿下の手がぴくりと動いた。私を見た。
「…」
「…」
私の期待を込めた目が殿下に映る。殿下は軽くせきばらいをして
「へえ…」
!!!!!!!!!
これは!!!
ダメ押しでもう一声かけてみよう。
「アラン様、領地の立垣は、囲ってあるそうですのよ」
「…」
「…」
「…カッコイイ…」
!!!!!
もうまちがいない!!!アラン様!アラン様は…!
喜色満面の私と、ちょっと顔を赤らめた殿下が見つめあう。
殿下との親睦が一気に深まるのを感じた、ある日の午後であった。
主人公の名前がなくてもなんとかなるもんだなあと思いました。




