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6.ミミルキーと蛇


 *


 それから私は数日を掛けて情報集めに奔走した。勿論ミミルキーの事だ。

 ウィンダム王子からも聞き取りをし、それを受け歴代の王が書き留めていたミミルキーの要約が作成された現存する管理書などにも目を通す。


 これらを受け今分かっている事を箇条書きでメモを取ると


 ⚪︎ミミルキーは魔力を吸う

 ⚪︎ミミルキーは耳鱗と呼ばれる耳の端に出来る石がある(繁殖時期雄のみに見られる)

 ⚪︎繁殖時は独特の求愛をする

 ⚪︎一夫一妻制で産卵授乳育児(卵は一度に一~二個産卵?)

 ⚪︎繁殖以降は巨大コロニーで集団育児(雄雌共)

 ⚪︎草食(主食があるらしい)

 ⚪︎成長は遅く五~七年程で成獣か?

 ⚪︎基本は森の中で小さな集団で生活している(おそらく血縁関係)

 ⚪︎寿命不明

 ⚪︎詳細な個体数不明(五百程か?)


 と、こんなところだろうか。しかし解っている事はあまりに少なく代々の王が管理しているにも拘わらずほぼ手つかずで放置されて来た島だった様だ。

 ミミルキーは魔力を吸い取る珍獣である。彼らが闊歩するこのマサラヤマン島は魔力耐性のある者か高い魔力を保持している者しか長時間滞在出来ない。つまり魔力のある獣人がじっくりと調査をするには難しいのだ。しかも魔力耐性があるのは女性はウィンロードの番になる可能性が高い。希少で大事な伴侶をミミルキーの生態調査に参加させる王族は過去に居なかったらしい。

 では何故密猟が行われたのか。答えは単純明快、人間の存在だ。人間は微量の魔力さえ持たないのだ。

 近年バムダ王国は全てではないが観光地として幾つかの島を解放した。その中にマサラヤマン島も含まれていたのだ。五年前までは一日に一便連絡船が出されていたがレンジャーは常駐しておらずコテージも建設されていなかった。長時間留まれる島では無いと獣人達からすれば精々浜辺あたりか森の手前までしか立ち寄らない小さな島と言う認識がされていたからだ。だがそれが仇となる。


「…ミミルキーは外敵が居なかった所為もあり警戒心が薄い。刈りやすいと判断されたのね…醜いな、人間って」


 誰にも迷惑を掛けずマサラヤマン島と言う小さな島の中で生き永らえてきた貴重な固有種を傷付けた犯罪者達は、今ものうのうとどこで暮らしているのだ。


「ものを言わぬ物なら傷付けて良いとでも思っているのかしら。ああ、でも私も生家や侯爵家の誰かに文句や口答えをした覚えが無いな…いつも流されて受け入れて。いつしか塵が滞留するかの様に身動きが出来なくなって…い…」


 ああ、駄目だな。私は頭を左右に振りキュッと目を閉じる。直ぐネガティブな思考に切り替わってしまうのだ。自分でもいけないと分かっているのにな…どうしても結び付けてしまう。侯爵家やあの人と…


「ふぅ~…さて、ミミルキーの事は一旦終わりにして、こんな時は本に没頭するに限るわね。ウィンダム王子からお借りしたこの貴重なマイマイ国初版!神話を題材にしたヌルル勇者冒険譚!『エスカールゴ帝国への珍道記・上・中・下巻』を今日中に読破するわよ!!」


 そう、私は今勉学の為ではない本を好きなだけ読む時間を手に入れたのだ。

 しがみ付いていた人や場所を離れこの国に流れ着いてから…このままこの先を自分の為だけに生きてみても良いのではないだろうかと少しずつだが思う様になった。


「不思議なものね…」


 そうして私は分厚いハードカバーの冒険記をゆっくりと開き、心ゆくまで堪能したのだった。


 *


 ミミルキーの個体及び生態調査に本格的に着手して行く事になった。それを受け正直得意分野からは離れているので空いている時間は実施までの間調査に基づく内容を吟味する工程作りの為図書室に通いつめた。数値化するのは私の専売特許だ。ここに来て今まで生業として来た事が活かされる事になるとは。

 とは言え生態調査と言っても様々で、第一期の今回は一頭ごとに識別タグを付ける事を優先。次に主食植物や繁殖、養育状況など基礎的データを蓄積する。


「コリーンは優秀なんだな!この計画書完璧じゃないか!見やすいし簡潔明瞭な表を使ったこんな書類は初めて見たよ。文官並み、いやそれ以上だ!」

「へへ、ありがとうございます」

「ああ…ずっとやりたいと思っていた事が実現するなんて本当に嬉しいよ。頼りになるパートナーのコリーンとも一緒にいられるしね。だからゆっくりいこうな」

「? はい?はい」

「調査は今のところ週に二~三日を予定している。体力があれば休みの日は観光しようか。俺が国中のおすすめの場所に連れて行くよ」

「ふふ、はい助かります…あ、でもウィンダム王子お忙しいのでは?王子様だし…」

「君に割く時間なら問題無い。俺は弟達と違って独り身だしな」


 そう言ってカラカラと笑う彼。友人となった私との時間が惜しくないと言ってくれるなんて…ウィンダム王子の気遣い上手は相変わらずだ…ん?


「…ん?ん?ん?」

「ん?何?」

「え?弟…王子様達は全員ご結婚されてるんですか?」

「してるよ全員。上手い事見つけられたんだ、生涯の番をね。しかも三人同時に」

「えー!その話を詳しく聞いてもいいですか?」

「ああ、いいぞ~あれは確か──」


 彼は本当に優しくて親切で気さくな方だ。初めて出会ったあの日、私の状況を察して強引に城に連れ帰ったのも彼の優しさからだったのかもしれない。役目を与えてくれたのも、護ると言ってくれたのも実はすごく嬉しかった。やっぱり一人だと不安だったし怖かった。

 私に魔力耐性があり、ウィンロードの子供を孕む事が出来るかもと知った時は囲われる恐ろしさから逃げようと思ったが、彼からはそういったアプローチはないし少し気負い過ぎたみたい…正直安心している。


「…ふふ可愛い。傷付いた子猫みたいな警戒心をゆっくり解いていくのもまた楽しいなぁ」

「…ん?何か言いましたか?」

「いや、なんでも。ああ、そうだこの計画書使わせてもらうよ。騎士団から最低人員数確保が出来次第マサラヤマン島に入る。よろしくなコリーン」

「わあ、はい!」


 ***


「次々と契約更新の見送りの書状が届いています。侯爵様…」


 文官が震えながらトレーの上に載った十数通の手紙を差し出して来た。侯爵は青い顔をしながらそれを確認する。まだ更新時期ではないものまで再契約について至急コリーンに面会したいと書かれていた。


「あのミッドラン公爵の犬がぁ!コリーンの不在を広めよって!!たかだか小娘一人居なくなっただけでこうも騒ぎ立てよってからに…クソッ!おい!コリーンの所在はまだわからんのか!」

「いえ…実は…こちらの手紙を…」

「何か分かったのか!」


 トレーに載った手紙の中にコリーンの実家である子爵家からのものを指差す文官。侯爵は「チッ」と舌打ちし中を開ける。

 改めて裁判の内容に変わりはない旨が書かれ、早急に受諾するよう促す内容。一方で賠償金さえ払えば訴えを取り消すともある。

 だが本人から第二夫人になるという証言があれば持参金の返金だけで済むのだ。コリーンさえ懐柔出来れば…


「ふんっ!金に汚い奴等め」


 自分の所業を棚に上げ苦々しく嘲罵を吐き捨てる侯爵。現時点で正当性は子爵家にある為侯爵側に勝ち目は無い。ぐぬぬ…と唸っていると文官がおずおずと手紙の最後を読んで欲しいと言ってくる。侯爵が薄目で最後の行に目を移すと


『王家のご配慮によりコリーンの所在が通達で明らかにされている。バムダ王国のマサラヤマン島で正式に何かの調査隊として入っているとの事』


 と書かれていたのだ。


「お、王家?どう言う事なんだ…い、いやそれよりこれはチャンスだ。正確な場所が分かった!コリーンを連れ戻すぞ!そうだ…マサラヤマン島なら飛行船で行けば数日で着く。すぐに手配しろ私が直々に赴いてやる!!」

「は、はい!」


 こうして侯爵は発足したばかりの投資先である飛行船事業先に圧力をかけ、無理矢理機体を確保させバムダ王国へ向け用意をさせる手はずを指示した。数人の侍従に侯爵とバレリオ。新妻は置いていかせ後はコリーンを捕縛する為の人員を詰め込む予定だ。一刻も早く彼女を捕まえなければ今期の事業利益は回収出来ず水の泡になる。

 最悪…コリーンの印章を手に入れなければ侯爵家はまたも借金で落ちぶれ、先は無いのだ。


 ***


「ララ!ちょっと待ってくれっ」


 そう声を発したのはキングコブラ獣人であるダナン騎士伯である。その風貌は白地に金の刺繍が眩しい騎士服の上からでも分かる筋肉質で均整の取れた身体を上半身に持ち、虹彩は金、毛量の多い褐色に乳白色のクッキリしたメッシュが入る髪を肩口で結い、黄緑色の輝く鱗の長い尾を持っていた。見かけは人間で言うところの二十代半ば。誰もが認める堂々とした美丈夫だ。


「はい、ダナン様。何用でございますか?」


 第四回廊にある第六執務室へ向かう途中で声を掛けられたララは上半身だけをクルリと後ろに向けダナンを見上げる。


「はは、本当に君は移動が速いな。しかしこんな所で姿を見掛けるとは思わなかったよ…例の客人の用事かい?」

「守秘義務がございますのでお答え致しかねますわ」

「そうか…すまない。ああ、実は君の次の休みの日を聞きたくて…それは教えてくれるだろう?」

「わたくしの休みですか?つまりそれはデートのお誘いでございますか?」


 そう言ってララはコテンッと小首を傾げる。


「んっ!んん…っ可愛っ…いや、その、いつもながらストレートだね。まあ、そう言う事なんだけれども…」

「? ダナン様、わたくしはまだ発情期を迎えた者ではありませんわ。お間違えでは?」

「発情!って、ち、違うよ!…そうじゃ無くてララ、デートは二人の仲を深める為にするものなんだ。俺は紳士だからそういう意味で誘っている訳では無いからね。ただ、君に何か贈りたいんだよ出来れば君の欲しがる物をね。だから一緒に街まで行かないか?」

「欲しがる物、でございますか?」

「そう、ほら、例えばそろそろお揃いの首輪とかを…」

「別に欲しくはありませんし貴方から頂く物ではありませんわ」

「ぐっ…っ!その気の無いツンとした素振りも胸に来る!」


 …実はブラックマンバ獣人のララには過去婚約者候補が居た。それがこのズバズバと切り捨てる言葉で手厳しく扱われている彼、ダナンだ。実際には恋人では無いのだが同じコブラ科の遠い親戚で婚姻も出来る近種の為、二人は幼い頃から交流があったのだがララには全くその気が無かった。女学校卒業と同時に突然王宮勤めを志願し入宮。城に出仕している間は例え身内であろうと本人の意志無く連れ帰る事は出来ない規定がある為、ララとの縁談は仕方無く見送られる事になった。


 だがダナンは諦めなかった。


 キングコブラは普段気性は穏やかで自ら争う事は避ける。だが一度火が付くとその強靭な生命力と威圧で周りを圧倒して活躍し、実力で騎士伯の称号をもぎ取り最速で王太子付き近衛兼側近にまで登り詰めて来た。それもこれも全てはララに近付く為。自らを鍛え上げ彼女を追い掛けて来たのだ。…彼は少年時期から美しいララに魅了され恋をし切に妻にと望んでいた。

 つまりダナンは一見華やかな容姿の優男に見せてはいるが蛇の様に執念深く…いや、蛇である故その性質から執着しまくりの初恋を盛大に拗らせた男なのである。

 当のララには全く相手にされていないのが玉に(きず)だが、彼は仕事は真面目で周囲からの信頼も厚く、温厚な性格である為両親や友人、近衛の間からは生暖かくこの一途な恋を応援されていた。


 だがそんなぬるま湯に浸る(ぬる)いアプローチをする日々は、ある日ある男によって劇的に変化する事になる。




 

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