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こぼれ話5 ◇熱(上)◇

 婚約後三ヶ月頃。


 第八の島の名はハーメルナ。

 この島は地上に露出した洞窟群、そして原生林を数多く残した東側。東の連なる山岳より流れる川を挟んで西側に獣人の家屋や商業施設などが偏り東西でくっきりと線を引いたような景観だ。

 主な特産は麦や米で農耕地がひろがる。


「西はほとんど平地。対照的に東は大小様々な山岳に覆われている。そしてこの洞窟群の中の一番高い位置にある場所に、古代の魔素の影響を受けた固有種の氷属性の蒼い花が咲いているんだ。王族のウィンロードはそこに赴き、伴侶となる番と共に各一輪ずつその花を持ち帰り始祖墓標に奉納する習わしでな」

「洞窟に、花が?」

「ああ…特別な花だ。それこそウィンロードであり、王族でなければ伝わらない秘匿の花、『シルーラライ』。実は俺も見た事が無いんだ。弟達は自分達の婚約時に全員で取りに行ったから知っているんだけど…二週間以上掛けて何とか手に入れて持ち帰って来たんだが、奉納するとその場で消えてしまうらしいんだよな」

「消える?しかもそんなに日数がかかったんですか!?」

「山の中は暗く洞窟までは深い森の中。番を連れ立って行かねばならないからな。たとえ飛行出来たとしても担ぎながら木の間を通り抜けるなんて事も出来ないから歩くしかない。まあ、身体強化魔法を掛けて番を担いで歩いたみたいだが、それでも日にそう進めなかったようだ。大きい滝があって迂回したり、魔獣に追われたり…あ、ウィントムの番殿は技術的にも体力的にも問題無かったから、荷物持ちもしてたみたいだけど。まあ、そんな感じでかなり苦労したみたいだぞ?で、その洞窟の花を取りに今度二人で行こう」


 散々苦労話を聞かせておいて、そんなサラッと近所に遊びに行くみたいに言わないで欲しい。もちろん行かなければ花は手に入らないなら行かねばならないのだが…


「……えっと…登山の用意をしなくてはいけませんね。何が必要なのかしら」

「ん?登山?」

「道なき道を登るのではないのですか?」

「おいおい、君の婚約者は誰だ?」

「…あ、もしかしてパッと転移動で行けちゃうとか?」

「担いで道なき道を歩いた方が良いか?」

「いえいえ、とんでもありません」

「まあ、場所はハッキリとは分からないんだけどな。歩く内に道が出て来て導いてくれるらしいんだが…とにかく行ってみれば分かるそうだ。一応不測の事態用に非常食とか山の上だし防寒用の服装は少し準備はしておくよ。まあ、いざとなれば転移動で帰れば良いだけだ」

「はい。ウィンダムがいれば怖いものなしですね!」

「頼りにしていいぞ?俺の番殿?」

「ふふ、了解しました。では当日はお任せしますね?」


 ……なんて簡単に他人任せにしていた私を叱りつけてやりたい…です。


 その日は朝から快晴で、とても清々しい一日の始まりを感じていた、日だった。が、もちろん山の鬱蒼とした木々の中は、モザイクにこぼれ落ちる微かな灯火のような日が差す程度。そんな中を私は少し先にあるぽっかりと口を開けている洞窟を目指し、ウィンダム王子に肩を貸しながらふらふらとよろけつつも何とか歩いて向かっていたのだ。

 その発端は目的地周辺に転移動した後、少し歩いた先に突然目の前に現れた美しく清涼な滝であった。

 まるで軽やかに妖精が踊るかのように湖面に光る様々な光に誘われるように私達は滝壺近くまで歩く。


「素晴らしいですね…なんて神秘的で心が揺らされる光景なんでしょう……」

「ああ…凄いな……」

 高所からの湧水が降り注ぎ、滝壺には霧がかかる。少しの日の光がそこに見事な虹を幾つも作っていた。


 するとウィンダムが誘われるように滝の河道を回ったり、滝面を見つめたり滝崖を見上げたり…思った以上に興味を示した。その内浮遊魔法でふわりと浮き上がり、滝から落ちる水を魔法で捕まえ飲み始めたのである。私はギョッとしてその姿を見つめた。好奇心?もちろんそれも考えられるが…なぜだか違和感があった。彼にしては随分不用意な行動だと思ったのだ。不安になった私が「ウィンダム?どうしましたか?」そう彼の名を何度か呼んでみるけれど、滝の瀑声に掻き消された私の声は彼には聞こえないようであった。

 しばらくしてふわりふわりと私の元に降りて来た彼は……顔を真っ赤にして、まるでお酒に酔っ払った人のように宙を千鳥足?で跳ねて楽しそうにしていた。


「ん?…え…なんで?」


 しかし私の疑問の言葉を無視され、そのまま覆い隠すように私の身体をガバッと抱きしめたかと思ったらそのまま抱き上げて


「はははははははっ~これは凄い!なんて気持ちいいんだ~!」


 と、言いながらふらふらと踊り出したのだ!


「!?!?」


 これは…可笑しい…どころじゃない!


「ウィンダム…ぅっ、落ち着いて~!」


 そんなこんなで五分くらい振り回された私は頭がクラクラ揺れながらも何とか彼を座らせる。荒い息を吐き頭を振りながらようやく冷静になり、ウィンダム王子に目をやると、何と大の字になって眠ってしまっていたのだ。


「えぇ……なんなの~…」


 この土地に予備知識が全く無いまま来てしまった私は、この惨状とも云うべき事態に恐怖さえ覚えていた。

 いや、先ずはきちんと事態を把握しなくてはならない。今、実質動けるのは自分だけだ。彼は寝ている。それも酔ったかのように…だ。その原因は…おそらくあの時彼が飲んだ滝の水?

 私は恐る恐る滝から降りしきる水飛沫の一粒を手に受け、匂いを嗅ぐ。だが無臭だった。更にペロッと舐めてもみたが無味。


「……つまり、これはただの水だよね?じゃあ一体何故…?理由は別にあるのかな…それよりここに留まるのは良くないな。厚着しているとはいえ冷えるよね…」


 チラッと寝てしまっているウィンダム王子の方を見つつ、次いでその周りを見回してみる。すると少し先に洞窟と思われる黒い空間が目に入った。この場からとにかく移動しよう。このままでは身体中が飛んでくる飛沫でずぶ濡れになってしまう。


「ウィンダム起きてください!移動しましょう!」

「……ぅ…ん…」

「立って!肩を貸しますから頑張って!」

「……あぁ…うん…」

「寝ちゃダメ~お願いします~~っ!」

「う…わ、かった…」


 そう言って彼は身体を傾け弱々しくも何とか立ち上がってくれた。急いで右側の脇に入り込み彼の腕を肩に掛け、ふらつきながらも前へ進む。多分長くは保たないだろうから少し急ぎ足になるが、ウィンダム王子はついて来てくれた。そうこうする内に私達の前にぽっかりと空いた四メートルほどの洞口が見えてきた。やはり洞窟だ。外からは中は見えないが今はそれで良い。奥にまで入るつもりはなかった。とりあえずの避難場所だからだ。


「ウィンダム、頑張って」

「………」

「もう少しですよ」

「ぁぁ…」


 洞窟の入り口に辿り着くと、奥にはなだらかな地下に降りる為の階段のような物があった。人工的に作られていたのだ。私はホッと息を吐く。野生の動物が住処にしていたらどうしよう、と不安に思っていたが様子を見る限りそれは無さそうだ。もしかしたらこれが例の花が咲いている洞窟なのかも、と一瞬よぎったが、ウィンダム王子がこの状態では花どころではなかった。

 どうにか寝転べそうな平坦な場所を見つけて、着ていた冬用のふかふかのマントを脱いで石の上に敷き、ウィンダム王子を転がす。


「はぁ~…何とか屋根は確保出来ましたね…ウィンダム、水飲みますか?」


 そう語りかけるが返答は無い。彼は再び寝入ってしまったようだ。私は持っていた水筒を取り出し一口、口に含む。


「ここは…やっぱり人工的に作られている以上何かを祀っているとかなのかな?少し奥を見に行ってみようかしら」


 彼は相変わらずスヤスヤ寝ている。魔力の高いウィンダム王子がこれほど酔っ払ったようになってしまったのには、私が考えつかない何かがあるはずだ。滝からの水は私にはただの水だった。つまり魔力耐性のある私には効かない何かとなれば、それは魔素や魔力の類いだろうと推測。


「そう言えば…古代の魔素?がどうとか言ってたっけ…ああ、ちゃんと聞いていれば良かったな」


 それがどんな効力があるのかは分からない。大魔術師を酔わせるほど強いもので、誘われるようにわざわざ口にしに滝に近付いたのも魔素の所為なのかもまだ分からないが、恐らく関係はあるようだ。


「……まあ、ジタバタしても仕方がない。今は彼が起きるのを待ちながら、探索をしてみよう」


 マントは私のくるぶしまで位の長さで、ウィンダム王子には小さ過ぎるが無いよりマシだ。寝ている彼に気休め程度にマントを巻き付けてから、踏まないように長いスカートを右端でギュッと縛り、私は広い洞窟の奥に向かって歩き出した。

















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