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こぼれ話4 ◇兄弟◇



「おい、ウィントム」


 そう呼びかけ扉を開け歩いて向かって来たのは鼻眼鏡を掛け、オールバックに髪を撫で付けたウィンマムだ。ウィンマムはバムダ王国の第二王子でウィンダムの弟である。


「あら~ウィンマム兄さんお久しぶりぶり~ね?」

「…相変わらずだな、お前は」

「なにか用~?ああ、あのマジ(ばな)?」

「……聞いたか?」

「ほーんとバカちんな事をしたわよね~まあ、頭が足んない浅慮な者同士だったけど。でも仲は良かったから残念だわぁ。あ、ジャスミン茶でも飲むぅ?」


 茶葉瓶が収められている棚の引き戸をスッと開け、黄色と緑のロゴの入った瓶を一つ取り出す。そこに立つのはヘリオトロープ色の髪を短く刈り上げ、左側の顔周りに一房肩までの髪を垂らした細身の色白な優男。ウィンマムと色は違うが作りはそっくりのウィントムだ。


 ウィンマムはライラックの髪にピーコックブルーの瞳。ウィントムはヘリオトロープの髪とアッシュブルー。ついでにウィンニャムはオーキッドの髪でライトブルーの瞳だ。

 彼らは纏う雰囲気も違い少しずつ色も違うが、並んで立てばまごう事なき三つ子であった。


「もう~ウィンダム兄様に直談判はするなってうちの人も厳しく言ってたらしいんだけど~全然全くこれっぽっちも聞かなかったみたいだしぃ、いずれはこんな事になるとは思っていたのよね~」


 そう言いながら空中に熱い湯の入った蓋の開いたポットを浮かべ、茶葉をスプーン二杯そこに放り込む。


「まあ、結果的に良かったんじゃなーい?同じ形にしてもらえたんだし…ただウィンニャムの仕事をうちの人が引き継いだから忙しくなっちゃって、最近あんまり構ってくれないのが悩みだわ~」

「ああ、そうか。ウィントムの番殿は騎士隊に所属していたな。槍が得意で─「そうなのよぉー!ほんっと凛々しいんだからぁ~男前どんだけ~って感じ!」…あ、ああ、そうだよな」


 被せるように自分の番を褒め称えるウィントムは現王の三男。兄弟同様に珍しい色を持つ美男子で色白、口調も柔らかい…を通り越して少しオネエっぽいが別に男色ではない。

 彼の番は騎士隊の中のビースト部隊に所属している筋肉隆々なヒョウ獣人だ。

 当然女性である。顔はキリッとした切れ長の琥珀の深い黄橙色の瞳。目の下に横に、左の頬には幼少期に負った縦長に流れる切り傷が伸びている。プラチナブランドに黒い斑点のようなメッシュが入った髪を、顔周りの辺りで短く切っていた。

 身体能力に優れ、隊の中では冷静且つ素速い攻撃速度、変化(へんげ)無しの実力でのし上がって来た修羅の槍使いだった。そんな彼女が入隊時に検査を受け魔力耐性があった為、恒例の王宮でのお見合いパーティーに半ば無理やり出席させられる事になっていた。

 だが、彼女はそのパーティーをその大柄な姿に似合わず、目立たないよう気配を消して抜け出したのだ。着用していたのはパンツスタイルの騎士服であった為、巡回中の騎士に紛れ込んだ。

 正直、見合いには出席はしたので義理は果たしたつもりでいたらしい。だが、あまり早く寄宿舎に戻ると早々に帰った事がバレるので、しばらく王宮庭園の片隅で時間を潰そうと訪れたのだ。

 何があったかは別の話になるので割愛するが、そこで未来の伴侶であるウィントムと出逢ったと言うわけだ。


「ジェイット殿は頭の回転が早く、状況判断が的確だとウィンニャムが喜んでいたな…」


 騎士隊総大長であるウィンニャムがある事件の首謀者であった為、実の長兄より罰が与えられている最中である。つまりその間、責任者のポストが空く事になったのだ。

 本来であればウィンロードである王族が治まっていた地位である。実力主義の筆頭、そして統率力のある隊の尽力者で在るべき総大長の地位を巡り、各部隊長が浮き足立っていた。


「そうなのよね~ウィンニャムも騎士総大長としては冷静で采配も的確だった。だけど兄様が絡むとおバカになっちゃってさ。まあ、私達だって兄様に可愛がられてきたんだから、そりゃ一瞬は警戒もしたんだけど…コリーンちゃんを連れて来たのが兄様なんだから確実にそういう事だと分かってたんだしぃ~、第一兄様に触れられてたんだから皆んな分かるじゃない?番だって」

「……確かに」

「そういう大事なところ度外視して襲わせたんだから、そりゃ赦せないでしょ。今まで番が現れなかった兄様にとってどれだけ待ち望んだ相手だったか…私達家族が一番喜ぶべきなのにね。兄弟の尻拭いさせちゃってうちの人には申し訳ないけど…」


 ウィントムの番ジェイットを臨時の騎士隊総大長に任命したのはウィンダムだった。

 第四王子の番であり準王族、だが彼女は地位を鼻にかける事無く徹頭徹尾、自分の信念を貫き、周囲の意見に左右されることはなかった。その姿勢を買われたのだ。

 もちろん反対意見もあり、その筆頭がデライエだったのだが、結局今回ウィンニャムと同じ罰を受けてしまったのである。


「兄様はもちろん私達の兄弟で仲の良い家族だけれど、やっぱり次元が違うのよね~」

「……それでも、いつでも僕達の兄上でいてくれるだろ?」

「そうね…だからあの子も大人しくしてれば兄様の婚姻式までには元に戻してくれるでしょ。私もそれまでは寂しくても我慢するわ~……そうじゃなかったらウィンニャムのあの長い耳を捻り潰すわよ」


 クイッとジャスミン茶を煽りながらふんふんと鼻を鳴らすウィントム。

 そんな弟を仕方がないという風に目を向けながら同じく茶を啜るウィンマム。


 ウィンマムの番はズグロミツドリの獣人で、名はカリーリア。彼女は所謂『雌雄モザイク』だった。


 これは一つの個体に雄の特徴と雌の特徴を持つ部分が混在している状態の事で、ただの雌雄同体ではない。姿形に明確な雄と雌の境界を持って生まれて来た実に珍しい容姿をしている。

 彼女は左側が髪の色がコバルトブルーで男、右がエメラルドグリーンの髪を持つ女の姿だった。違う色、性別が寄せ集まった姿。これが『雌雄モザイク』と呼ばれる所以だ。

 非常に珍しい現象だが、植物から他の鳥や昆虫や甲殻類といった動物たちでも確認されている。

 そしてこの姿は番になる者の性別により、次第にどちらかの性別に統一されるのである。

 こちらも互いが番だと通じ合った後、山と谷を繰り返し乗り越えて、ようやく最近落ち着いて夫婦生活を送れるようになったばかりだ。もちろんカリーリアは時間はかかったが完全な女性に変態を遂げた。


 面白い事に、三者三様特異様々ではあるが三つ子王子達はこのお見合いパーティーで同時に将来の伴侶と出逢ったのだった。


「だがまあ、これでようやく兄様も心置き無く魔力譲渡の儀に身が入れるだろう。……兄様は魔力が高いから女性経験が乏しいのが少し心配だが、求婚を成功させたんだから大丈夫とは思う」

「ガっついて嫌われる可能性はあるわね~。でもね、それぐらいあげあげで良いと思うのよ。やっぱり人って愛されてるって感じられるのは自分を求められてる時なんだし~」

「全ての者がそうではないだろうが、確かにな」

「ふふふっ、これから番相手に泥臭く必死に格好付けながら追いかけ回す兄様が見れるのね?楽しみ~~!」

「………それは、見たいな」

「でっしょぉ~~?」


 こんな感じで一部の兄弟でお茶会が催されている事を他の兄弟は知らないわけだが、実は彼らは彼らで仲良く行動を共にしていた。


 *


「おーい、帰るぞ~戻ってこーい~」

「キュッ」

「楽しかったか?」

「キュキュッ!」

「ふっ、すっかりミミルキーと仲良くなって…」


 ウィンダムの目線の先にはミミルキーの背に乗り、目を輝かせマサラヤマン島を探索しまくるオーキッド色のウサギの姿があった。


「全くお前は…仕方がない奴だなぁ。これは罰なんだぞ?」


 ミミルキーの背からオーキッド色のウサギを優しく抱えて降ろし自分の肩に乗せる。


「まあ、良い機会だと思って今まで出来なかった事をやってみるのも手だな。お前は浅慮だと皆に言われているが…それは経験が少ないからだ。人のなりを良く観察しそれに関わる輪を感じ、人の想いを見極める。この姿の間はそれを念頭に置きながら過ごしてみてはどうだ?」

「キュ…キキッ」

「生まれ変わったお前を楽しみにしてるよ、な?()()()()()

「キ───ッ!」

「はははははっ」


 今日もマサラヤマン島ではウサギを揶揄ってウィンダムはカラカラと笑う。それは優しさと慈愛を感じさせる姿だった。

 


 


 


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