こぼれ話2 ◇ウサギ◇
ウィンダムはコリーンと婚約後一つの修羅場を迎えていた。
彼の前に座るのはウィンニャムの番、王子妃のデライエとオーキッド色のウサギだ。
「デライエ殿。話とはなんだ?」
「は…い、この度のお詫びと、かの件でお願いに…上がりました」
「詫びか…サラと仲が良かったのは知っている。友人として気の置ける相手だったのだろう。……だがコリーンの事を書いた手紙を故意にガランデ家へ送った落ち度は見逃せない。貴女が人間のコリーンをよく思わないのは致し方ないが、結果罪も無い者の命を危険に晒したのは事実だからな」
「……仰る通りでございます…でも私はウィンニャム様を…何とかお赦し頂けないかと相談をっ」
そう言って涙をポロポロ溢すデライエ。黒兎の家系で、中でも可愛い容姿をしたデライエは男女共に庇護欲を掻き立てられる。長い黒い艶々の耳が震える様は、理由などどうでも良くなるほどだ。そんな不思議な雰囲気を持った女性の隣に座るウサギですらデライエの太ももに手を突き鼻を鳴らしている。
が、残念ながらウィンダムには通用しない。なぜなら彼は力の強いウィンロードであり、半年前から内密に調査を進めていたのだ。中途半端な弁明は逆に空々しい。
「……しばらくはウィンニャムを戻す事は無い。それだけの事をしたのだからな。貴女が余計な事をした事も重ねて刑期が伸びたのだ」
「そんな……!どうかお赦し下さいウィンダム様…どうか…っ」
項垂れるウサギとシクシク涙を流すデライエを前にウィンダムはゆっくりとある提案をした。
「……そこまでウィンニャムが恋しいならば、貴女も同じようにしてやろうか?」
「…え?」
「どうする?揃いにしてやっても良いぞ?その方が嬉しいだろう?世話は変わらず侍女にさせればよい。ウィンニャムも喜ぶ。…どうする?」
そう言ってウィンダムはフッと笑う。まるで何かを試すように…
「………ウィンダム様にそんな権利は…」
「ある。この件に関して全て俺の権限になっている。これは貴女が希望するかどうかの話だが、番というものは生涯離れる事が出来ないものだろう?ウィンニャムの罪は消えない。ならばそれに添う形にしてやろうという温情だ」
「……兄弟ではありませんか…もう良いではありませんか」
「仮令兄弟と言えども賓客に対し赦されざる所業だった。それにこれでもかなり軽い刑執行ではないか?本来であれば賓客の身の安全を預かった俺が問答無用で切り捨てても可笑しくはないんだ。そう簡単に考えてもらっては困るなウィンニャムの番殿。貴女も情に訴えるだけでなく、貴女自身が準王族である以上理解し受け入れなければならない。ウィンニャムのようにな」
ウィンダムはあくまで理路整然と話の筋道を立て説くつもりであった。だが実際このような直談判は手紙を含め五回目だ。その都度説き伏せてはいるが、流石にもう良い加減にして欲しい。後、なぜか訪問される度にデライエの服装が薄着になって来ている気がする。ギリギリ外に出て良い服装だがドレスの裾が限り無く短いので、ムチムチの太ももが丸見えだ。
情と色香と庇護欲刺激で何とかするつもりのようだが、正直言ってデライエより番のコリーンの方が歳下で初々しく、それなのに最近急に色気が出てきてドキッとする事も多い。ようやく婚約者として今必死に距離を詰めようと頑張っているウィンダムにとっては、かなりどうでもいいし煩わしい。
ふぅ、と息を吐き髪をかき上げソファの背にもたれながら最後の言葉をデライエに告げる。
「……貴女がコリーンを巻き込んだ事…番の俺が許すと思うか?夫婦揃ってこれ以上俺の手を煩わせるなら次は有無を言わせず処分する」
その言葉を受けデライエは震えながらキッとウィンダムを睨み付け立ち上がる。フリフリのシフォンレースがゆらゆらと彼女の太ももにかかる。確かに魅惑的だ。だが仁王立ちするその姿からはわがままな印象を受ける。そしてそれは間違いではなかった。
「──わたくしがここまでして差し上げているのですよ!なんですのその興味を示さない目は…それにあのような脆弱な人間の小娘が王太子の番なんて!この国の未来はどうなるのですか!ウィンニャム様があの人間に下した判断は間違いではありませんわ!人間を王太子妃にするなら継承権を放棄して下さいませ!いずれウィンニャム様が王太子になら──」
パチンッ
「今処分すると言ったばかりだろう全く……まあ、最後のは聞かなかった事にしよう。王室内で反逆とも思われる明確な意思表示は無期投獄だ。……貴女は魔力耐性があるからいつ戻るかわからんが、俺より力が劣っているのも間違いないから自力で解除は難しいぞ。それに二人は夫婦だしまず問題は無いな。ウィンニャムも番を失うのは本意ではないだろうから…これは俺の最後の温情だ」
指を弾いた後そう言い残し、ウィンダムはゆっくりと立ち上がる。応接室から出て扉の外で待機していた近衛と侍女に一声掛けると転移動で姿を消した。
デライエの侍女が慌てて中に入ると、悲痛な声を上げてキーキー鳴く黒ウサギと、目を閉じてジッと動かないオーキッド色のウサギがソファの上に佇んでいた。
これが後に
「ウサギは子沢山腹だから安易に夫婦を獣化させてはいけない」
という教訓が王宮で囁かれる事態になろうとは、ウィンダム本人も思ってもいなかった…




