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こぼれ話 1 ◇首輪◇

 ◇首輪◇


 ララはあの日の光景を忘れない。


 イザムとダナンが決闘で対決したあの時だ。黄金に輝く艶のある鱗は神聖なものを感じるほどだった。

 生きてきた年数、出会った獣人の中でこれほど目を奪われた事は無かった。正に心酔するほどに神々しい……あの…


「ララ~~!待たせてすまない。君は早いな。まだ十分前だぞ?」

「十五分前行動は当たり前ですから」

「五分くらい前で良いと思うぞ?」

「落ち着きませんから」

「そ、そうか…俺も配慮するよ」

「貴方だって十分前に来ているではありませんか」

「俺はララと早く会いたいから嬉しくて、最速で走って(這って)きたんだ」


 そう言ってははは、と照れ笑いをする美丈夫はララの婚約者になったダナンだ。

 今日は揃いの首輪を買いに行こうと約束していた。二人の揃った休みがなかなか取れなかったのは、ガランデ家の不正の発覚後のこれまた一週間後に、今度はコリーンの元婚約者の来訪により、過去ミミルキー密猟の件が浮き彫りになり、ウィンダムが多忙になったからだ。近衛兼側近であるダナンも走り(這い)回っていた。

 もちろん侯爵家への拷…尋問にも携わった。


「バタバタしてしまったがようやく落ち着いたな。コリーン様は息災か?」

「ええ、とても精力的にされてますよ。マジックフルーツに興味をお持ちのようで…」

「子供の菓子に?まあ、人間には物珍しいものだろうからな」

「……それだけでは無さそうですが」


 ララにとってコリーンは王太子の婚約者である以上に、可愛い子蛇のような存在になっていた。

 初めて姿を見た時、か弱い庇護すべき少女で薄汚れてどこか他感している目、だが同時に端々からは高貴な所作をしている事にも気付いた。

 訳ありな上に獣人でも無い。それでも王太子がわざわざ連れて戻り、尚且つ肩に触れている姿を見た瞬間、何を置いても護ろうと決めた。

 元々ララは人間に対して選民思考など持ち合わせてはいなかった。弱い者が生きづらいなどと言う事は分かっている。獣人であれ人間であれ仮令それが死に直結する事であっても仕方が無いと思っていた。自分の知らない場所でコリーンがどうなっても……

 だが存在を認識し、護ると決めたからには誰であろうと全力で護る。このような感情は生まれて初めてだったので諸々戸惑ったが、今は間違いではなかったと自負している。コリーンがもたらした感情は意外にも周りに影響を与えている事を、彼女は気付いていなかったが…


「婚姻式は半年後だから今の内に用意するのは住まいや家具だな。使用人の募集もしなくては…奇しくもウィンダム様と同じ時期なんて、嬉しいやら忙しいやらで複雑だ」

「わたくしはもっと後で構いませんよ?」

「嫌だ!今すぐ結婚したいのに更に伸ばすなんて選択肢は俺には無いよ」

「そうですの…」


 獣人のダナンは幼馴染だ。幼い時から知った顔で、昔は可愛らしい顔だったのが今では美しい…らしい容姿になっている。身体も大きく剣の腕も隊で一二を争う腕前。王太子とどこか雰囲気が似ているのは身体の大きさもあるが、自信の現れと、どこか憎めない素直なところ。それと自分に対しての一途な……愛。


「ララ、宝飾品店の希望はあるか?何軒か回ろうとは思ってるけど…好きな宝石とかデザインなどは…」

「全て黒でお願いします」

「く、黒?地味だな…」

「お仕事中に外してもよろしいの?」

「嫌だ。ずっと着けていて欲しい。分かった……ならキットチールの店に行こう。あそこは宝石の種類が豊富だからな。黒い宝石の取り扱いもあるだろうし」


 そんな事を話しながら宝飾品店に向かった二人。獣人によってはお互いに送り合う物は様々で、主流は指輪やバングル、額飾りなどが人気だ。中には尻尾に着ける鈴なんてのもあるが邪魔なのは少数派だ。二人は蛇獣人であり腕も指もあるのだが、昔から蛇は首輪と決まっていたので、ダナンは将来はララに自分と同じ首輪をして欲しいと夢に見ていた。

 店に着いてすぐ黒い宝石について店主に見せてもらうよう頼むダナン。


「一口に黒の宝石と言いますが、ブラックダイヤモンド、スターサファイア、オニキス、スピネル、黒翡翠、ジェット、ヘマタイト、黒蝶パール、黒曜石、セレンディバイト、シャーマナイトなどなど種類はたくさんございます。参考品をお持ち致しましょうか?」

「あ、ああ。そんなにあるなんて…無知ですまん、よろしく頼む」


 先ずはどんな宝石にするか。それを決めてから添ったデザインを選ぶのが基本だ。黒は婚約事に送り合う装飾品としては人気のある色ではない為、完成品の既製品は無く、オーダーメイドになる説明も受ける。

 ふむふむと相槌を打ちながら真剣に話を聞いているダナンを横に、ララは静かに彼を見ていた。


 どうしてわたくしなのでしょうか…


 ララはダナンの事は好きでも嫌いでもなかった。一時期婚約の話は両家で成されていたが、全くその気になれなかった。家格で言えばララの実家の方が上だった為、その話は無しにしてもらい、城に上がったのだ。ララに取って結婚などどうでも良い事だった。家には兄弟が居て、わざわざ無理に他家に嫁入りするほど困窮もしておらず裕福だったからだ。やりたい事をやる為に外へ出たというのに、ダナンは追い掛けるように騎士伯の称号を受け近衛になった。……ダナンは嫡男だったと言うのに、だ。すでに家門は妹が婿を貰って継いでいるらしい。


「ララ!どうだ?この中で好きな宝石はあるか?黒と言えどもどれも意外と美しいな。知らなかったとは言えイメージで毛嫌いしていたよ。反省だ」


 そう言って爽やかな笑顔をこちらに向ける見知った男の顔。


 好きでも嫌いでもない。

 結婚する気も無かった。


 だが、今は少し違う。


「……そうですわね…」


 並べられたルースを見つめながらララは少し頬を緩める。


 わたくしの色をこの男に付けさせるのも悪くはない。光り輝く鱗を持つキングコブラのくせにワンコみたいなこの男に…そんな事を考えながらララは一つの黒く光る石を摘んだ。


 *


「……黒いな…ゴツいし…」

「そうなんです!ララが選んだんですよ?あのララが!デザインまでしてくれて俺は世界一幸せ者です~~」

「そ、そうか。幸せそうで何よりだ…が」


 数週間後、ウィンダムの執務室で意気揚々と得意げに首輪を披露するダナン。


 その首輪は何と言うか、かなり厳つかった。先の尖ったスタッズが端から端までギッシリ、更に太めのチェーンまで付いていて周りを威嚇している。所々に黒い宝石が嵌め込まれているので光に反射してギラギラして、見ているこちらの目がチカチカする。婚約の贈り物としては少し…いや、かなり番犬スタイルで奇抜だ。


「……良いのかそれで?」

「もちろんです!」

「…そうか…うん、なら、まあ…」


 思わず何度も聞いてしまうウィンダム。ララのデザインしたものだと聞いて更に頭に?マークが浮かぶ。今朝見かけたララは確か黒い皮に一つ黒い宝石が付いたあっさりしたチョーカーを着けていたはずだ。揃いと言えばそうなのかな?という程度。


「…温度差が激しいな…いや、ダナンがチョロいのか。なんか俺も頑張ろう…」



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