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24.詳細と自覚

 ***


 前日のガランデ家主犯の大規模な捕物劇は、数日前より騎士隊の半数が第五島へ潜伏。証拠や証人、会合現場などなど確保した結果、監獄へ収容された人数はおよそ百人以上だとされた。

 まさかこのウィンロードが治める国で内乱を企てる者がいるなど思わなかったが、どうやら国を介さず秘密裏に隣国との裏取引を行っていたようで内乱に向け武器などの密輸も行われていたのだとか。

 数年前から数度、無記名でガランデ家の告発があり、少しずつ調査をしていたが、半年前の事件をきっかけに嘆願書が届いた事により本格的に動き始めたとの事だった。


 始祖祭二日目の昼食時、ウィンダム王子からこの件のあらましを説明されたのだ。


「その嘆願書を送って来たのがサラなんだ」


 サラさんはウィンダム王子の婚約者候補から外された事により、実家であるガランデ家での扱いが酷くなったそうだ。未来の王妃の立場を逃した名家であるガランデ家の落胆は凄まじいものだったと言う。

 ウィンロードが魔力耐性のある女性でしか番に出来ない上に、能力値の高低で適性を測られる事。実際に何度か現王に側妃にと魔力耐性のある獣人に当てがおうとするも、能力値のおかげで突っぱねられており、ならば王太子へと話を持っていくも、ウィンダム王子の方が魔力量が多くお手上げ。下の王子達は歳が離れていた事もあり眼中に無かったのかその時期、接触は最低限だったのだが、その間に三人同時に番を見つけてしまい、王妃、王子妃へ縁者を送り込み王宮内の実権を握るという夢は潰えたらしい。

 一度夢見たものを諦めきれなかったガランデ家当主は強欲にも政権の奪取に方向転換する事になった、そんな感じの話だった。


「サラの双子のブレッドも魔力耐性体質である為、魔力を使う事が不得手で他の馬獣人より劣っていると見なされていた。だが奴はそれを反動に馬の調教という形で努力していたそうだ。それはもうなんと言うか…曲芸レベルまでな」


 なるほど…だから正座で馬に乗っていたのか…もしかしたらピッピちゃんも何か芸をするのだろうか…


「だが婚約者候補だったサラが故郷へ帰された事で狂い出した。それからは魔力耐性持ちは劣等種だと貶められてしまったらしい。……サラとブレッドの道はガランデ家の中で歪められ決裂したんだ」

「……」

「五年前、サラは王家からの斡旋で、ガランデ家と同等家門である第六島ロンドルナの領主のペルシュロン馬獣人の嫡男に嫁いだんだが、数年してからガランデ家の良くない噂が耳に入ったらしくてな。それからサラは双子のブレッドの状況を調べ始めたらしい」


 サラさんはもう嫁いでいたのか…そういえばウィンダム王子は幾つなのかな?私とは多分五、六歳ほど離れているのではと思っていたが…もう少し上なのかもしれない。


「その結果がこれだ。ブレッドはなぜかゲイになっていて、見目の良い奴隷を買い漁り、育てた優秀な駿馬は手続きなしに隣国へ卸されていた。それだけではなく拉致した子供の獣人を奴隷として売買していたんだ。更には武器まで大量に仕入れ大島を占拠する計画まで立てていた。

 そして半年前、サラと偽り王宮に入り込んだブレッドは……本当ならサラの友人であったデライエを拉致、人質として王家に対して優位に立とうと計画していたにも拘わらず、他国に行っていた俺が城に帰って来ていたのを知り、夜這いをかけた事で失敗してしまい…と、まあ奴が本能に忠実だったお陰で大島での警備が厳しくなり襲撃は回避出来たんだ」


 絶句…こんなとんでもない事が起こっていたなんて。


「怖がらせたか?まあ、全部が偶然じゃないんだがな」

「…え!」

「当然だ。俺はウィンロード、魔法使いなんだ」


 そう言ってニコッと微笑む彼の顔は今までの説明とはそぐわないほど無邪気に見えた。


「夜這いを掛けられたのもブレッドが俺の容姿が好みだと知っていたからわざと姿を見せたし、奴隷船で運び込まれた奴隷も魔法で動かしていた人形だし、拐かされた子供達も救出済み。武器も全て粗悪品に替え、交渉人と使った倉庫も監視状そこへ誘導したし……とまあ、奴隷斡旋や内乱幇助は国ぐるみで仕掛けてくれたから、今回隣国に国交交易上で優位な取り決めが出来たよ。もちろん魔法契約でだ」


 ええぇ~黒い…黒すぎない?

 いや、それより……ちょっと待って。それって…


「あの…私なんかが…き、聞いて良い事じゃないですよね?」

「そうか?俺の傍にいる奴は皆知っているんじゃないかな?」

「ええ…」

「それに発端はサラの内部告発と嘆願書だな。ガランデ家と弟を止めて欲しいとリークしてきたんだ。色々な罪の無い者達を長年巻き込んでしまったとな。ブレッドは…もう病んでいて手遅れだったが、あの時コリーンに止めてもらえて良かったよ。罪を償う罰を与える機会を奪うところだった。ありがとう」


 そこまで言うとウィンダム王子は目の前にあるコーヒーのカップを持ち上げ一口飲む。バムダの第六島では温かい高温多湿の気候でコーヒーチェリーが良く育つそうだ。


「……サラさんの嫁いだ先って…」

「コーヒーノキを育てているよ」

「そうなんですね」

「夫になった男は穏やかな気質で随分大事にされているようだ。毎日泥まみれになりながら樹木を育て、子供達と遊び、大きな声で笑うんだと…幸せそうだったよ」

「……良かったです」

「俺もそんな家族を作りたい。そう思った」

「……きっと作れますよ。ウィンダム王子も…だって…」


 綿密に計画してサラさんの思いを叶えてあげたでしょう?それは罪滅ぼしだったのでは?


「……だって、何?」


 王太子妃に出来なかったウィンロードの(さが)の所為で、サラさんをガランデ家に帰す事で辛い目に合わせたから…


「ウィンダム王子もカラカラと豪快に笑うでしょう?「笑う門には福来たる」って本で読んだ事があります。タイトルは確か…『わっしょい!知って得する世界のことわざ事典』だったかな?笑いの絶えない家には自然と幸福が訪れるという意味だったはず」


 だからこそ貴方は幸せにならないといけない。


「ふふ、なるほどそれは良いな。じゃあいつも俺を笑わせてくれないかコリーン」

「私がですか?」

「ああ、君が」

「私、面白い事言えませんよ?」

「笑うのは面白い事だけじゃないだろ?」

「? そうなんですか?」

「そうだよ…」


 そう言って彼は優しい顔で澄んだエメラルドの目を向けてくる。


 ああ…私…この瞳が好きだ。


 その時、扉をノックする音と共に、本日の祭儀の用意の為にウィンダム王子は席を立つ。このまま夜まで会う事は無い。


「じゃあまた後で」


 そう言って彼は部屋を出て行った。


「…はい、行ってらっしゃいませ」


 貴方が幸せに…幸せになる姿が…

 とても見たいと思う。


 面白くなくても笑わせられるかな?幸せになってくれるかな?


「彼が望む本当の幸せって…何だろう?」


 *


 この日は夜の始め頃まで大島では各島の山車のパレードが行われたり、大道芸が各地で披露されたり、美術館や博物館など公共の建物の利用も終日無料。大通りや公園には食べ物の露店が所狭しと並んで大変な賑わいだった。

 恥ずかしいが五人の護衛(昨日の事もあり付けないと外出の許可が降りなかった)を引き連れて城下町へ出る。


 陽気な音楽が流れ、皆が手を取りダンスを踊る。お揃いのケープを身にまとった子供だけで構成された声楽隊もとても可愛くて上手で綺麗な歌声だった。

 騒ぎに落ち着かないのか汽水湖では貝魚が一層ピョンピョン飛び跳ねていたり…


 この国に来て味わった景色は私にとって晴天の霹靂だった。この世にこんなにも可愛く愛しい珍獣や、奇妙な魚。不思議な植物が存在しているなんて知らなかった。多種多様の姿の獣人達と歴史。そして魔法も…

 でも長い間人間の世界とは隔離されていたこの島は、実は独自の進化を遂げつつも世界で一番強く逞しく面白い。きっと私の後の人生を注ぎ込んでも解明しない謎がいくつも出てくるのだろうと思うとワクワクする。


 私は今幸せだ。過去の自分と比べても誰が見てもそう言うだろう。


 愛されたかった、そう思うのはそれしか心が満たされないと思い込んでいたからだ。血の繋がりがなくても、心が繋がる方が尊い。特別なものを私は手にしているのだと思い、報いる為に努力した。だが別になくても幸せになれるのだ。心は目に見えないからこそ、どこにでも向けられる。自由になれる。鎖など初めから付いてはいないのだから。


「……もう大丈夫」


 そう一人呟いてふぅっと息を吐く。

 実は今日は私の区切りの最後の日だった。

 生まれた日など物心ついた頃から誰かに祝ってもらった記憶にはない。それでも一年の区切りとして覚えている日。

 明日からバムダ王国で新たに国民としてこの命を生きていく。そう決意し、密に生きた十代の私にひっそりと別れを告げる。


「今日の祭儀はどれくらいまでかかるものなの?」

「大体十九時頃までですなも。その頃にあのお城の上から王達の魔法が降りて来ますなも」


 今日の護衛は近衛隊長であるカラス獣人のシンバ君を筆頭に編成されているようだ。他国に武者修行に行っていたシンバ君は帰国後謎の訛りがなかなか取れず大変だったみたい。今は大分直ってきたけど、語尾にまだ「なも」が付いている。


「降りてくる?」

「楽しみにしてて下さいなも!」


 昨日のバラの花びらのようなものだろうか?だったらもう一度見れるのは嬉しいな。


「あ、そうだ。私コロロコロンを買いたいのだけれど…」

「ご案内しますなも。でもなぜコロロコロンですかなも?」

「一度じっくり観察してみたいの。ヒント探しをしているのよ」

「ヒント?」

「そう、ヒント」


 変身と翻訳効果を持つコロロコロン。バムダ特有の魔素の影響を受けたマジックフルーツ。私はこれを細かく調査し、まだ可能性の話だが、一つの目標である観光事業の拡大に使えるのではないかと判断している。まだまだ時間は掛かるだろうけど諦めず頑張りたい。

 それから私達は日が暮れ始めるまで買い物をしたり観覧したり休憩したりと祭りを楽しんだ。

 ふと見上げた先の遠くにそびえる城に目をやる。あの中で今ウィンダム王子は何をしているのだろう。ウィンロードとして、次代の王として何を背負っているのだろう。


 彼はいつも気さくで表情豊か。少し不器用でちょっとやらしくて…ちっとも王太子らしくない。その癖すごい魔法をヒョイヒョイ使うし計算高いところもあって、でも素直だしお礼も言えるしちゃんと謝れる人。傲慢なところは無いように感じる。優しくて頼り甲斐のある…力を持った王族だ。


 だけどきっと…心の奥に人に言えない思いを秘めている。俺を笑わせて欲しいと彼は言っていた。あれは彼の本音なのだろう。笑えない何かを隠し持っている。それが私が思い当たるものであるかは分からないけれど…


 一緒にずっと…なんて言葉は私が口にして良い事じゃない。傍にいても手など届かない高貴な存在。胸が痛くてたまらない。でも越えられないし資格がない…だから言わない。


 ああ…ああ…どうして…言葉にして想ってはいけないのに。考えてはいけないのに…ダメだと分かっているのに。


 私は…取り返しのつかないほど…



 彼が好きだ。



 私が彼を幸せにしたいなんて。

 一番側にいて私が彼を笑わせてあげるなんて…出来ないくせに…


「あ!ほらコリーン様!始まりましたよ!!」

「…え?」


 夕暮れと夜の狭間。それは黒くそびえる城の上の朱色の暁の雲が次第に渦を巻き、私達の足元からも風が速く通り過ぎていく。


「…これは…一体何が?」


 その時、雲の中から何本も雷が走りゴオン…ゴゴゴゴ…と空が鳴り出した。


「何?これが、魔法だっていうの?」

「そうですよ~雲の中で『創り』降ろす事が出来るのは国王様とウィンダム様だけですなも」

「…創る?降ろす……なに…」


 そう言い掛けた時、突如八本の光る筋が天に向かって飛び出した。


「!!」


 ワ────────ッと歓声が上がり、私は音の流壺の中に放り込まれた。皆が両手を挙げその光る何かに向かい喜んで叫んでいる。その熱量に押され護衛に周りを固められながらも私は空を見上げ続ける。それは蛇行しながら城の上をぐるぐると回っていたが、突如四方八方に向かい飛んで行った。その中の一本がこちらに向かい近づいて来る。


 歓声が一段と上がる。近付いてくる。翼が見える。羽ばたいている。

 それは…それは…凄く大きい…まさか…


「──っ ドラゴン!?」


 身体が発光している。顔は凶悪で長いギザギザの歯がたくさん生えている。ごつごつした皮膚は爬虫類を思わせる。色はよく見えないが黒っぽい。

 そしてその眼は爛々と金に光っていた。


「こ、こわっ!!」

「怖い顔でしょ~でもそれが良いんです。ドラゴンは国力の象徴。可愛い顔してたら他国への抑制力になりませんから~なも」

「な、なるほど…」


 頭の上を通り過ぎて行くその姿は距離感が分からないほど大きい。かと思ったらあっという間に遠くへ飛んでいってしまった。


「いや~行っちゃいましたね。ドラゴンを創れるのは王族でもお二人だけですなも。ちなみにこれは内緒なんですがウィンダム様は同時に六体創り出せるんですよ凄いでしょ?…惚れ直しましたか?」


 六体?そうだ!先程の光は八つだった。その内の六体を彼が創ったって言うの?あんな大きな空を飛ぶドラゴンを一人で…


力の強い王(ウィルドルド)は巨大なドラゴンを同時に三体創る事が出来、波打つ侵略者を打破し魔獣を殲滅したと伝えられています』


 「待って?ララさんが美術館で説明してくれたウィルドルド王が創られたドラゴンは…三体じゃなかった?」

「……気づかれました?そうなんです。ウィンダム様は過去歴代のウィンロードの中でも最大量の魔力を持って生まれていらっしゃったのですなも」









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