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22.暴きと足掻き

 *


「ゴ─────ル!!!なんとぶっちぎりでゴールしたのはマサラヤマン島代表ミミルキーとコリーンペアだ───!!」


 歓声が鳴り響く中ゴールアーチを潜った先にオレンジ色の髪が揺れているのが見えた。ウィンダム王子が転移動して待っていてくれたのだろう。コニーさんが速度を落とし次第に歩きピタリと止まる。息切れ一つしていないコニーさんに少し驚きつつも、背から降りようと片足を鐙から外そうとしたが身体がガチガチに固まっていて降りられない事に気がついた。


「あ、あれ?」

「いい、動くな。俺が降ろすから」


 すると私のこわばっている手から握っていた手綱を取り、鐙から足を離して抱え上げゆっくりと地面に降ろしてくれるウィンダム王子。だが、足に力が入らなくて跪きそうになる。


「おっと、腰が抜けたか?なら俺が抱っこしても良いよな?」


 私の返答は聞かずそのまま抱き上げいつもの片手抱っこスタイル。


「よくやった、頑張ったなコリーン。やっぱり君は最高だ」

「──…っ ふふ…全部コニーさんのおかげです」


 私の周りには沢山の獣人が押し寄せ褒め称えてくれた。コニーさんには金銀の派手派手しいブランケットと華やかな生花がたくさん付いた優勝レイが掛けられた。


『スゴーイ!キラキラダヨー♪』

「ふふっ似合ってますよコニーさん」

「記録としては四十キロメートルを三十分以内で走り抜けた。つまりミミルキーは時速八十キロ以上で走れるって事になるな。これは凄い発見だよ」

「(私はそれ以上の衝撃的事実を知ってしまいましたが)良かったです」

「ふうん…秘密か?」

「…え?」

「はは、まあいい。今は気分が良いからな。このまま君を抱きしめてグルグル回りながら島中を飛び回りたいくらいだ」

「いや、今それやられたらウォーター(吐き)しながら気絶できますから」


 いまだに身体に力が入らないほど体力が消耗している。時速八十キロを生身で体験するとは…落ちたら大怪我で済まなかったな。でもきっとそれはあり得なかっただろう。

 私には、この信頼する大魔法使いが付いているのだから…


 しばらくするとゴール辺りがザワザワと騒がしくなる。どうやらブレッド氏がゴールしたようだ。ふらつきながら白馬から降りた彼に目をやる。

 下を向く彼の美しい亜麻色の髪は乱れ、表情は見えないが分厚いまつ毛に隠れてなぜか少し不気味さを感じた。そのブレッドさんがジワリと私達の前まで歩いて来ると下を向きながら私に聞いてきたのだ。


「…ミミルキーなんて…あんた、いつの間に調教してたのよ…」

「えっと…五日前、からですけど」

「──っ! 五日!!たった五日ぁあ!ふざけんじゃないわよ!!」

「何をふざけると言うんだ。祭りの前に無理な理由でコリーンに決闘を申し込んでおいて、挙句に負けたら文句か?言っておくが俺はこのレースで彼女とミミルキーに魔法は一切使っていない。ウィンロードの名に賭けて宣言しよう。これはまごうことなき彼らの実力だ」


 空にはまだ到着していない走者を写す幾つかの映像とは別に、私達の映像が大きく浮かんでいる。周りには先ほどと同じように飛び交う鳥。その中からスイッと降りて来た黒い鳥がウィンダム王子の肩に足を停める。


「カァ」

「……そうか…分かった。ブレッド・ホース・ガランデ。ゴールした祝いに教えてやろう。第五島のゴーアリナにある領主ガランデ家と各関係家門各所の摘発が先ほど終わったようだ。罪名はてんこ盛りだぞ?強盗、放火、暴行、傷害、脅迫、恐喝、凶器準備集合、詐欺、横領、偽造…オマケに内乱罪だ。これは他島からの直訴と別口の内々の嘆願書から発覚、半年前から調査していてな、今回詐欺について最後の証拠押収ができたので決行した。随分と好き勝手してきたみたいだなぁブレッド?」

「は?そんなの嘘よ!わたくし達は最古の由緒ある血統種族の一つよ!代々優秀な馬を輩出してきた名誉ある家系なんだからぁ!!」

「名誉なぁ…ちなみに貴様の屋敷の別館地下牢に見目麗しい鎖に繋がれた人間の男を含む獣人達が入れられていたのも発見されたそうだが…?」

「!? ちょっと!わたくしの子猫ちゃん達をどうする気!わたくしはちゃんとお金払ってるんだから!!」

「……ほう?一体誰に?」


 人間の…男?何?何の話?


「そ、それは……」

「第五島に隠れて接岸されていた某国の奴隷船、もちろんすでに摘発済みだ。まあ安心しろ。大元も日を置かず叩くつもりだから。…そこからわんさかガランデ家との取り引き証拠も出てくるだろう。なかなか巧妙な手口ばかり使っていたようだが、武器の密輸までとは…看過できないところまで来ていた。まだまだこれから罪状が増えるだろうな」


 そう言って可笑しげに小首を傾げるウィンダム王子。対象に血の気が失せて呆然と彼を見上げるブレッド氏。


「わかり易く言うと、貴様の名誉ある家門は跡形も無く霧散して消え失せるって事だ。残念だったな、ブレッド。……全ての動物は俺の目だ。ウィンロードの治めるこの国で秘密の悪事は出来ないんだよ」


 空を飛ぶ鳥は一体何羽いるのだろう。地を這うネズミは一体何匹いるのだろう。暗闇に潜む動物など数えきれないだろう。

 つまりウィンロードである彼の情報網は無限だと言えるのだ。私はそれに気づきゾッとした。あの空に浮かぶ映像もその内の一つなのだろうと。

 それに半年前から、と言うと…ブレッド氏がウィンダム王子に夜這いを仕掛けた頃?軽罰に留めたと言っていたけれど…それも何か意図があったのかもしれない。


 ああ……もう頭が一杯だ。


 私はくたりと頭をウィンダム王子の肩に委ねた。でもまだ寝るわけにはいかない。とにかく頭を冷やしたい。


「よしよし、コリーンは疲れたよな?ララ、ダナン、彼女を頼む。レースの表彰式まで休ませてやってくれ。ウィンマムの部隊は今出払っているから近衛はこのままブレッドを捕縛、地下牢へ収容後、所定のウィントムの部隊に伝達と引き継ぎ警備を頼む。俺はこの後の式典の準備に入るから」


 私の頭を優しく撫で撫でしながらテキパキと指示を出すウィンダム王子。なぜか周りは静かに…いや、ヒソヒソと小さく声が聞こえ始めた。不思議に思い、重だるい目を開けると皆がこちらを向いて目を見開いている。何を驚いているのか不思議に思い、キョロキョロと辺りを見回したがやはり私に目線が向いているようだ。


「?」


 するとブレッド氏がブルブルと震えながら私を睨み付け、言い放つ。


「──っ! あんた!なんでウィンダム様に触られて平気なのよ!!なんでサラじゃなくて人間のあんたが…っ!」

「!?」


 そうだった…サラさんは王子と手を繋ぐだけで体調を崩してしまったと聞いていた。なんで?なんてそんな事…私に分かるわけがない。

 私が言い淀んでいるとウィンダム王子がギュッと私の頭を抱いて一言。


「そう言う事だ!」


 と、お返しとばかりにそう言い放ったのだ。


「ん?」


 何が?と思ったその瞬間地を震わせるような歓声が周りから湧き上がった。


「───!?!?」


 その返答を受け、ブレッド氏は目を見開き次いで黒い瞳に光が無くなった。瞳孔が開き切っていて険しい形相に変わる。と同時に腰ベルトに手を伸ばし、スルッと引き抜いたのは刃の形が湾曲した小さなナイフだった。「え?」と思う間もなく彼はその長く細い足をバネにこちらに向かって、そのナイフを振り上げたのだ。


「ああああ───渡さないぃ─────っっ!!」


 それは刹那の刻。

 まるで時間や空間、感情を閉じ込めた一つの絵のように見えた。声などもちろん出ない無音の世界。ただ一つ。私が襲われると冷静な思考だけが横切る。

 だがそれは杞憂だった。なぜならその絵の中にはものすごい勢いで下から入り込んできた足が…


 ドバァンッッ!


 その場で衝撃波が起こり、私の髪が空に引っ張られるようにヒュワッと舞い上がった。


「!!」


 すると私の目の前に居たはずのブレッド氏が宙を舞い遠く後方に吹き飛ばされていく。


「──…ふぁ?」

「貴様ぁ~っコリーンに刃物を向けやがってぇぇぁああ──!一度ならず二度までも…あーもう赦さん!!!」


 振り上げたウィンダム王子の指先からバチバチバチッと小さな青い煌きが渦を巻きながら次第に細長い棒…いや先が尖った槍のような形に変わっていく。キキッキキッと何かを締め付けながら回る高い音が何度も鳴り、光が弾ける。


 ……こ、これは…どう見ても危険!


「ウィ、ウィンダムお──」


 だが止める間もなくそれは真っ直ぐにブレッド氏へと向けられた。


「貴様の刑執行は……今だ」

「だ……っだめっ!駄目です!!」


 青筋を何本も立てて怒るウィンダム王子を止めようと咄嗟に彼の腕から飛び出し、ガバッとその怒りの顔を頭ごと自分の胸に抱き込んだ。


「た、確かに、確かに危なかったです!でも、でも、安易に殺してはいけません!罪は本人に自覚をさせて生きて償わせるべきなんです!!」


 バチバチと稲妻のような光が舞う青く光る槍は、前方数メートル先で泡を口から出して転がるブレッド氏の上で微動だにせず止まっている。


「わ、分かってくれましたか?」

「……ぁぁ」

「良かったぁ」

「………う」

「《《あれ》》消して下さい!」

「……はぃ……」


 ブレッド氏の上で垂直に立てられたまま止まっていた光の槍はパチパチと音を鳴らしながらもスゥ…っと消えてなくなった。私はホッとして彼の頭を抱きしめていた腕の力を緩める。すると私の両脇腹をガシッとウィンダム王子の大きな手で掴まれ思わず「ヒャンッ」と謎の声を出してしまう。


「うぅ…っ、ウィンダム王子?」

「……うん、名残惜しくて…」

「ん?」

「ふわふ…柔ら…いや…何でもない」


 彼の肩に手をついて改めて顔を見ると額や耳が赤くなっていたのだ。

 しまった!私締め付け過ぎてしまったんだ!いや、その前に王族の頭を力まかせに抱き締めてしまったのだ!なんて事を…っ前にも不用意に叩いて事件にしてしまったのに…!

 頭からサアッと血の気が引くのが分かる。ビャッと彼から両手を引っ込めて胸の前でギュッと握りしめる。


「ごめんなさい王子!私…無意識で…っ悪意は無くて…っ」

「ん?いや、そうじゃなくて──」


 上手く言葉が出ない。どうしよう…とアワアワしながら固まり焦る私。すると後方からスルスルと地を這う音がして次いでララさんの淡々とした声で…


「……破廉恥な」


 その言葉にビクッと反応したのは私より先になぜかウィンダム王子だった。


「ち、違う違う!俺は何もしてないからな?そりゃ気持ち良かったけど…い、いや違う!気持ち良いのは間違いじゃないが、決して先っぽに噛みつこうとかしてないから!ちゃんと自制できた…ぞ?」


 と、慌てながら早口でそう返したのだ。


 その言葉を聞き、私を含め辺りはしばらくポカンとしていたが、やがて誰からともなくざわつき始める。


「全く!耳が汚れます。さあさ、コリーン様はこちらへ」


 ヒュルッと私の腰にララさんの尾が巻き付きウィンダム王子から離される。

 私を見送るウィンダム王子の行き場の無くなった手がワキワキ動いていたが、やがて頭を抱えて座り込んでいた。


「……ねぇララさん…」

「はい、なんでございましょう?」

「…先っぽってどこ?どこに噛み付くの?」

「世の中には知らない方が良い事もございます」

「…そう…」


 私はこれ以上聞いてはいけない事なのだと素直に理解し、そのまま豪華な選手関係者用の仮設テントに運ばれてソファに座らされお茶を淹れてもらい表彰式まで過ごした。その間にも私に客人がたくさん訪れた。


「コリーン様…怖い思いをなさったでしょう。申し訳ございませんでした。まさか刃物を持っていたとは…レース前に身体検査は行われるのですが、小さい為あのナイフは固定された飾りだと認識されたようで」


 そう言って謝罪してきたのは警備隊の責任者と言う熊の耳を持つ大柄な獣人だった。


「…いえ。恐らく殺傷出来る物では無かったと思います。精々顔や身体に傷を付ける目的だったのかもしれませんね」

「……その、冷静でいらっしゃるが、恐ろしくはありませんか?」

「そうですね、もちろん一人であったなら…私はただの人間ですから。でもウィンダム王子の傍に居ましたから、きっと何があっても大丈夫でした」


 そう言い切った。彼は私を護ろうとしてくれる。命を賭けるとそう約束してくれた。嬉しくて信じる事に何も障害が無い。


 だから私の心は平気なんだ。


 その後、正直連日の練習で疲れていたし体力的にも限界間近で眠気はあったが、先程の騒動で指示が出たらしく、ウィンダム王子の近衛達がテントの中に外にとガッチリ囲うように警備に付いてくれていたので流石に横になれる訳もなく…徐々にゴールに帰還してきた選手に選ばれたコンパクト部隊の獣人やララさんや侍女、ダナンさん達と讃え合い労いお喋りしながらその時を待った。

 因みにコニーさんはマサラヤマン島から採取してきていたパニパリリ草をたらふく食べて、早々に私の隣で立ったままプースカと寝ていた。彼も凄く頑張ってくれたのだ、疲れただろう。ちなみにお花が付いた優勝レイが気に入ったみたいでずっと付けたままだ。ピンクの体毛の相乗効果でファンシーで寝ていても可愛い姿だ。


 その内、表彰式が始まると連絡を受け私達はテントから表に出る。そこには白く大きな表彰台が設営されており、焦茶色に金の刺繍の入った騎士服を着た騎士が囲うように等間隔に並び、少し間を空けて観客がこちらに向かって台を見上げている。コニーさんの手綱を握りながら少し怖気付いた。

 私は獣人ではない。元々観光の為に訪れた母国や侯爵家から逃げて来た唯の人間の小娘だ。幸運にもこの国の王太子と出会い、たまたま魔力耐性なんていう体質だったから、ミミルキーと深く触れ合う機会が訪れただけ。レースだって実際に走ったのはコニーさんの意思で力…そんな私が表彰台に上るのは烏滸がましいのかもしれない。


 ……だが、これはただのラッキーでは無いのだ。


 私は今一人ではない。一人で全て背負い孤独に生きて来た数ヶ月前の私ではない。期間は短いが沢山の者が密に小さな努力を積み重ね頑張った結果なのだから。だからそんな皆の為にも私は胸を張ろうと思い直し、顔を上げ夕日が顔を出し始めた空を見つつ喧噪の中へ一歩踏み出した。































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