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あじゅ

あじゅ5

作者: 秋葉

浩は広島に戻っていた。


あずがついて来ている。


ーこの辺りにも用事があるんですか。


「もうすぐ、嵐が来るの。だから、加勢するのよ。」


ーそういう連携もあるんですね。


八岐(やまた)のおじさまの指示が出たの。これからは災害規模が大きく変わるので、力を合わせられるところは合わせていこうという、話らしいわ。」


「比治山の世話役に、ご挨拶に行くわよ。」


ーそれでこの沢山のストロー蒲鉾(かまぼこ)なんですね。ついて行っても良いんですか?


「もちろん。皆、見たいそうよ。そもそも、人とペアを組んでものすごく相乗効果が出るっていうのは、皆聞いたことも見たことも無いらしいの。」


ーうちは、最初からそういう家らしいですけど、他にはないんですね。知らなかった。


比治山は歩いて10分ほどの小山のような場所であるが、越してきて間がない浩はまだ登ったことがなかった。


あらかじめ案内があった山頂の放送設備の鉄製の無骨なドアを開けた。


そこには、千畳敷の畳と、沢山の人?がすでに正座で座っていた。


一番上座の男性が、正座のまま、すぅ〜っと、空中をこちらまでやってきながら


『ようこそ おいでになられた。わしが比治山の世話役をしている・・・』


おじいさん、話を止めてびっくりしている。


よく見ると、この前お好み焼きを食べに行く途中で時間停止していたおじいさんであった。


一旦間が空いたが空中を正座移動しながら世話役が続ける。


『・・・おおと、と申す。』


おじいさんは二人の前で、正座したまま目の位置まで高さを合わせた後で


『お会いするのは、二度目じゃな。』


世話役はくしゃっと笑った。


「はじめまして。浩とあずと申します。」


『そうか、そうじゃったか。あんたらじゃったんじゃな。力が漏れ出しとったおねぇさん。落ち着いてよか

ったのう。ささ、前のほうに来んさい。』


数百人居るだろうか?皆正座したまま移動して真ん中にすぅーっと道ができた。


先頭に正座した世話役、後ろに二人が続く。



叫ぶ声がする。


「わしゃ、認めんけぇのう!」


「そうじゃ、そうじゃ。」


「広島は広島でよそもんを呼ばんでも、やっていけるんじゃ!」



三人は歩みを止める。先頭の世話役が止まったので二人も自然と歩みが止まる。


世話役は二人の方に向きを変え、ニコッとしながら、


「あずさん、ちょっとだけ見せてやってもらえんかの?」


あずがうなづく。



三人を中心に円形に会場の真ん中が広がり、すぅっと半径10メートルくらいの円ができた。


あずは力を放出する。指揮するような手の動きでパリパリパリ...と放電現象が起きる。


会場から小さなどよめきが起こる。


世話役が『これだけでも相当な力じゃろうが!』会場全体に聴こえる大声で話した。


そして今度は2人に小声で話しかける。


『手を繋いでもらえるか?』


二人は頷き、手を繋いだまま、あずが片手で力を放出する。


バリバリバリバリ!


焦げ臭い香りとともに、大音響とものすごい振動。


畳が焦げてしまった。


会場は静まりかえっている。


浩が横を見ると、高校生くらいになったあずが居る。


ーええええ!


あずがこっちを見て、にこーとした瞬間


何故か真っ暗になって


刹那


浩は唇を塞がれた。


数秒


ぱっと、明るくなると、何事もなかったかのように前を見る大人に戻ったあずがいた。


「この前のを返してもらっちゃった。」


ーいいえ。奪われっぱなしですけど!。


世話役が続ける。


『ここにおる全てのものに言う。これ以上の力が出せるものは前に出よ!』


誰も出てこない。


三人は上座で全体を見渡せる向きに立った。


『これで分かったであろう。』


『我らの役目は土地守りじゃ。』


『元々そういう意味では広島も何もない。』


『今見たこの力を目指して各々精進されよ。』


ひと呼吸おいて世話役が続ける。


『今だけは認める。異存のあるものは前に出よ。』


誰も身じろぎもしない。


世話役はぐるり見回した後、


『本日ここよりは!広島は島根と力を合わせることとする!』


ウオー!!


世話役の大きな声の締めに応えて、地響きのように大歓声が聴こえる。


気づくとあずと浩は比治山そばの土手に立っていた。


「お腹へったわねー。」


ーうん、何が食べたい。


「お好み焼き。」


ーいうと思ってました。


あずは実体化して歩き始める。


実体化したのが、なぜわかるかというと、老若男女全員と言っていいほど、ぽかんと口を開けてこちらを見るのである。


なんなら今、タクシーがキュっと軽くブレーキも踏んだ。


歩いている人が結構な確率でぶつかりあい、よろめく。


小さい男の子が、だだだっと、前に来て行く手を遮る。歩みを止める2人。


「おねえちゃん!かわいい!」


あずがにっこりと応える。「ありがとう!」


この前のお好み焼き屋さんに入る。


「とりあえず、豚玉とぉ、モダンとぉ、そば肉卵とぉ、ミックスとぉ、スペシャルで!」


ー偉いことになった。給料が足らなくなる。


女将さんが笑顔で言う。


『おおとさんから伺ってます。お支払いは大丈夫ですよ。』


二人は顔を見合わせた。


「世話役様だ!」


そして、数日後。


ものすごい雷とともに、滝のような雨が降り始めた。


ー被害が出ないと良いけど。


「無理ね。何もしないと未曾有の被害が出る。いいえ。これはもう、被害を止めようがないわ。」


ー僕ら二人でも無理か?


あずが無言でうなづく。


目に覚悟と緊張が映る。


ーそれほどなのか・・・。浩も身が引き締まった。


黒いカッパを着た男の人がチャイムを鳴らす。


インターホン越しで話し始める。


「おおとから伝言です。お力をお貸し頂けますでしょうか?」


浩が応答する。「分かりました。」


「行くよ。」あずが言う。


たくさんの人?々?が北へ向かっている。


この間の比治山の人?たちだ。


二人は手を繋いで、ビルの屋上から飛び立った。


ー前々から気になってたんだけど、誰も気づかないのかなぁ。


「都会はたくさんの人がいるから、飛び立つときは気をつけないとね。」


「だけどね。一直線に高いとこまで上がった後は誰も見ないわ。」


「雨が凄すぎて、目を開けていられないもの。」


アストラムラインを見下ろしながら烏城を越えて更に北へ進む。


広島インター辺りに沢山の人が集結し始めている。


真ん中に世話役がいた。


「すまんの。」


「いえ。最善を尽くします。」浩が応える。


世話役は大きくうなづくと、飛び去っていった。



ーあず。


「なぁに?」


ー僕はあず以外の誰かと手を繋いでも、力を分けてあげられる?


あずは悲しそうに首を振る。


「出来ないわ。」


「力の貸し借りそれは、浩と私の関係性があるから出来るの。」


ーそうなんだ。もうひとついいかい?


「うん。」


ー...消えるまで力を使わないで欲しい。


あずが真顔で目を合わせた。少し間をおいて。


「しないわ。」


ー約束だ。


「ええ。」


皆が動き出した。


雨はやまない。


川が越水するのも間近だ。


人?々?(やおろず)がそこに突っ込んでゆく。


ーあれは大丈夫なのか?


「大丈夫じゃないわ。一旦消えちゃう。勿論死ぬとかじゃないわ。でも、当分は戻ってこれない。」


「だから、次の雨が降ると困るの。数が足らなくなっちゃうわけだから。」


浩は絶句した。


あずは、一回、それをしたんだ。


「大丈夫よぉ・・・」あの時の悲しい記憶が聞こえる。


何が大丈夫なものか。浩は唇を噛んだ。



山が崩れかければ、山へ。


沢が溢れかければ、沢へ。


人?々?(やおろず)がものすごい数そこに突っ込んでゆく。


ー何かいい手はないんだろうか?


「現状、これが手一杯よ。」


ふっと見ると片手で操作をしている、あずが縮んでいる。


ーあず!いけない!


「ふふっ。大丈夫。」


言うか言わないか、唇を奪われる浩。


しかも


舌が侵入している。


ん〜〜〜、ん〜〜〜。思わず浩が抵抗する。


「動かないで。底まで(さら)っているんだから。それだけだから!」


理解し納得した浩は、この際、あずを抱きしめた。


「なっ、何すんのよっ!」


ーこれで僕の全部だよ。


ふくよかになったあずが


「ありがとうね。」と笑いかけて、操作に戻った。


雨が上がり、礼を伝えに来た相談役が深々と頭を下げた。


『なんと、こがぁにちいそうなってしもうて⋯』


あずは出会った時の大きさまで縮んでいた。


周りからたくさん人?々?(やおろず)の声が聞こえる。


「大丈夫ですか?」


「ありがとうございます。」


「またよろしくお願いします。」⋯


こちらこそ、これからもどうぞよろしく。


ーあず、お疲れ様。


「たいへんでちたね。」


ー帰ろうか。


明日(あちた)夜晴れるといいでしゅねぇ。」


ーああ、明日は月が出るのか?


「はい。十三夜でしゅね。」


ーじゃ、一番いい月齢だね。


「一緒にいてくだしゃいね?」



あずは僕と一緒なら月光浴で早めに復活できる。


浩自身は、今は空っぽだそうだけれど、実は自覚症状は、無い。


残量が多いか少ないかもわからない。


「ふふっ。ちってるのは、わたちだけでしゅ。」


あずが、うそぶいた。







最後までお読みくださって ありがとうございます。

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