6:トンネル開通
でかい山の麓。俺は集中して念じる。
するとごりごりと山の麓が半円状に削れていく。
「うーん。幅は馬車が4台すれ違えるくらいにしたい」
そう言うと削れる幅が広がる。
ゆっくりと歩きながら俺は隣のアルンを見た。
「お父さんのとこに帰りたい?」
とはいえ、お前は俺のもんだし、帰す気はないが……でも、どうしても帰りたいというのなら帰すこともやぶさかでない。
「いえ、私はクニシゲ陛下のものですので」
ぽっと頬を赤らめてそう言うアルンにふーんと返事を返し、先に進む。
後ろからミシュシュが叫ぶ。
「余も奴隷にせい!!」
「なんでだよ」
集中してるから馬鹿なことは言わないで欲しい。
ああいいやもう全自動で。
えいと念じて俺は立ち止まる。
ごりごりとトンネルを掘る魔法はかかったまま俺は振り返る。
「あのなあ」
「このミシュルーシュ・ランテルンはクニシゲ・ムツレに忠誠を誓う!」
かっと光り、ミシュシュの額に黒い宝石が付く。
「ふん」
得意げですが、何したんですか。
「何したんだ」
「忠誠の儀、というものです」
アルンがそう言い、ドン引きの目でミシュシュを見ている。
「忠誠の儀と言うのはドラゴンが長い生の中で一人だけに忠誠を誓うんです……ドラゴンロードですよね?」
「なんじゃ!余は悔いはない!」
「なんで俺の意思は反映されないんだ」
「なんじゃ!?余の忠誠が無駄だと思うのかや!?」
「いいや?俺を信用していいのかなって」
「ふんっ!」
なにが?もういいや。溜息を吐いて歩き出す。
壁を叩きながら歩きごりごり削れているのを眺める。
「魔法で強化しながらトンネル掘る技術が確立されたら、皆嬉しいかな」
「さあ、どうでしょう」
まあ分からんよなあ。
◆
あれから3時間。安全にトンネルを掘り終え、向こう側に到着した。
日もささないほど深い森の奥。
「よしよしこっちが人間界だな」
「そうじゃな」
「じゃあここに砦を立てよう。ちょっと離れてろ」
かっこいい砦!と念じるとぼっろぼろの砦が出来た。
「……」
「あーえー……」
「建築物とかはちゃんとイメージしないと出来ないものじゃぞ」
「あ、はい」
黒い頑丈なレンガ、中は空調のきいた広い部屋。
ぽんと音がして目の前にぼっろぼろの砦は消え黒いレンガで扉を開けると綺麗な部屋につながる。
「よしよし」
「駐屯地、ですか」
「うん。これから人間界と魔界で交易をしたいんだ」
「……私は反対です」
「うん。君がどんな目に遭ったかは知っている。でも、それってどちらにも言えることだよな?」
「え?」
「魔界だって安全じゃない。弱者は貧困に喘ぎ、食うにも困っているのに誰も手を差し伸べない。その上、奴隷だっている。それ、どっちも同じ」
「あ……」
はっとしたアルンは深く頭を下げた。
「申し訳ございません」
「いやいいんだ。君の心の傷を考えれば嫌がるのはよく分かる。だから、俺が人間界をうろつく際、君は魔界で待っていたらいい」
「いえ」
アルンは決然とした目でこちらを見た。
「私は、弱い。心も体も弱い。だから強くなろうと思います」
「そうか。その手助けをしてもいいかな」
「お願いします」
俺は微笑み、アルンの手を取る。
「なあ、何をしたい?例えば、剣士になりたいとか」
「騎士になりたいです」
俺は各地農村でドルイドを量産した。
その要領で、アルンを強くできる気がする。
「そうか、アルンは今日から騎士」
ぼふんと音がするとアルンが目を見開く。
「あ……私、私」
アルンは目を潤ませながらも震える声でステータスオープンと声を出す。
「あ、う」
「どうした?」
「騎士、になって、私……頑張ります!」
「期待してる」
「はい!」
「鎧、いる?」
「え、いいんですか」
「メイド服に被せる形で……」
「え……?」
豊満な胸を支える金属、ハイヒールは白い金属で白い手甲も追加。手の甲に紫の宝石をあしらう。
「よしよし、いいんじゃないか?」
「む、胸を強調しすぎなんじゃないでしょうか」
「問題ない」
「そ、そうですか」
手を差し出し念じると剣が出てくる。
「はい、剣。騎士と言ったら剣だよな」
「槍じゃないんですか?」
「え」
「え」
「どっちでもいいじゃろ」
ミシュシュの言葉に俺は首を縦に振り剣を押し付ける。
「剣の使い方は分かるか?」
「はい、訓練したことがあります」
「そうか」
真っ直ぐ樹をなぎ倒しながら歩き、街道まで出ると溜息を吐く。
「はあ、まあこんなもんか」
「さて帰るかの」
「ああそうしよう」
ミシュシュと手を繋ぎ瞬間移動した。
城に着くと執務室に向かい、机につくと書類を整理した。
「トンネルどうでした」
リュテンはそう聞いてきて俺は何ともないように言う。
「無事開通」
「うわっ」
「なんだよ」
「あの山を削れたんですか?馬鹿みたい」
「はいはい。で?書類は」
「大半は無視して大丈夫なレベルです。私が採決しておきます」
「大丈夫かよ」
サイコパスに頼むのは問題がありそうだが。
「は?」
「あ?」
お互い低い声を出し、威嚇しあうがミシュシュに鼻で笑われる。
「はん!そんな事よりなんか面白いことはないのかや」
窓の外をのぞくと3時過ぎの青空は広がり天気はいい。
「人間界、行くか」
「何をしに?」
「あ、トンネル人間界側に砦を作っておいたから、駐屯兵を送っておいてくれ」
「はいはい」
そう言ってリュテンは執務室から出て行った。
「じゃ、人間界に行って……あー、冒険者とかっているのか?」
「はい。魔界でもいますよ」
アルンにそう言われて俺は立ち上がり、オルベーガルを見る。
期待満面の顔ににこやかに伝える。
「お前はここで書類仕事」
「むきーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「この角って消せないのか」
「消せるぞ」
念じてみてからミシュシュを見ると頷かれる。
後頭部を触っても髪があるだけ。角はない。
「じゃ、人間界行ってみるか」
「はい!」
「むっ」
オルベーガルがむすっとしているが無視してミシュシュの手を握る。
「この服で大丈夫か?」
「まあ、ダサいな」
「……誰にも何も言われなかったんだけど」
「わざわざ、ダサいという奴などおらんじゃろ」
「……」
まあいいや。スーツは男の戦闘服。スーツにしよう。
ポンと音を立てて俺の服が変わる。
黒のストライプ、三つ揃えでネクタイは赤。革靴は輝いている。キッドスキンの手袋も問題ない。
「何じゃその格好」
「なんでもいいだろ。じゃ、人間界行くか」
「ふふふ」