5:食糧事情
朝になり昨日行った農村に行ってみようとした所、ミシュシュとアルンが俺を見る。
「どちらに?」
「昨日行った農村めぐりに」
「余が連れて行ってやろう」
「瞬間移動したいからいい」
「はあ!?余が連れて行ってやろう!!!!!」
「う、うん……」
圧が、圧が凄い。
ま、いっか。
「アルンはどうする?城の散歩とかしたい?」
「いえ、ご一緒したいです」
「じゃ行こうか」
ミシュシュがぎゅっと手を握って来て俺はドキドキした。
瞬間、景色が変わり昨日、最初に立ち寄った農村にたどり着く。
「家が……」
家が建っている。
あの板を立てただけのものではなく、この農村の中では立派な家だ。
土の壁、藁ぶき屋根の家は赤貧の農村では贅沢であろう。
「クニシゲ様!!クニシゲ陛下!!ようこそおいでくださいました!!」
驚いて立っていると村長が飛び出してきて俺を歓迎した。
「畑を見てください!!」
畑?昨日キャベツを植えたところか。
一緒に連れ立って歩くにつれ異変に気付く。
「キャベツが……なってる」
一面の緑。みっちみちに詰めて植えたためキャベツの形は歪だが、一つ一つが十分な大きさがある。
「どういうことだ?これはここでは普通の事か?」
困惑して村長に聞くと彼は首を振る。
「いえ、クニシゲ陛下が土壌を改良してくださって、その上で私がドルイドとしての魔法を使ったことによるものです」
「お、おう……種はとれるか」
「はい。3分の1はこのまま育てて種をとろうかと」
「そっか。じゃ、ここはもう大丈夫だな」
「はい!自活できるようになりました!!」
「キャベツより小麦のがいいか?」
「小麦のがいいんですかね?」
「あー……加工場は分かるか?パンにしないと」
「ライ麦の黒パンなら街で見たことがありますが……」
いい情報!!
「おー!!じゃ、ライ麦育てよう!!」
「でも、小麦って白パン作れるんですよね?」
「あ、そっか。でも栄養価で言うとライ麦パンの方がいいんじゃないか?」
「うーん……白パンへのあこがれはありますね」
あっそっかあ。日本人で言う玄米か白米かの差かな?
「じゃ、両方育てろ!」
「はい!!」
魔法で巨大な革袋を二つ作り、一つに小麦をもう一つにライ麦をいれた。
「こっちが小麦。こっちがライ麦」
「はい」
「じゃ、期待してるぞ!」
「はい!」
次の農村も同じような結果だった。
キャベツがみっちみちになっていて、ドルイドにした村長がにっこにこで迎えてくれるという図式。
「そうか、よかった」
「ありがとうございます!クニシゲ陛下!!」
この様子ならほかのところも同じだろうとどんどん瞬間移動していき、昼過ぎには全部見終えた。
王都に戻って王城に行くと執事がさっと現れる。
「陛下、執務室で宰相閣下がお待ちです」
「そうか」
執務室に3人で向かうとオルベーガルが執務室の前で立っていた。
「がるるるるるるる」
「はっはっは。そんなことしても奴隷は取り消さないぞ」
「くそ野郎」
「はっはっはっ」
オルベーガルを無視してドアを開け、中を見る。
落ち着いた調度品。散らかった書類。穏やかに紅茶を啜るリュテン。
「おいこのアマ。ちらかしんてんじゃねえ」
「あら。昼間まで遊びまわっていたくせに」
それにたいして口を開けるとリュテンがドアを指さす。
「散らかしたのはオルベーガル様ですよ」
閉めたドアを開けてオルベーガルを引き入れると胸を鷲掴んだ。
「きゃあああああああああああ!!!!!?????」
「おう、セクハラされたくなきゃ、馬鹿な真似はよせ」
「ば!!!馬鹿野郎!!!」
「はいはい」
「揉むな馬鹿!!!」
ぱっと離すとオルベーガルが顔を真っ赤にして部屋の隅に行く。
「意外と小さい」
「あ゛?」
「見た目より、小さい。お前パット入れてるだろ」
「……」
オルベーガルがしゃがみこんでしくしく泣きだしたのを無視して執務机に着く。
「で?」
「各魔王からの反応をお持ちしました」
「魔王って12人いたよな」
「クニシゲ陛下を入れると13人ですね」
「魔界ってそんなに広いんだな」
「ええ、惑星の北側は全部魔界ですから」
手紙を出すとリュテンはにこやかに言う。
「あの雲を消去した魔王は随分と評判がよろしいようで」
「なに?」
封蝋を割り中を見ると俺は額に手を当てる。
内容は、無駄なことをしやがってと無為に力をひけらかしやがってという2点。
「あ、ああ……どうしよう」
「まあ、戦争を仕掛けられてもクニシゲ陛下なら大丈夫かと」
「戦争してどうする」
「魔王が一人減って、国が手に入りますね」
「あのなあ」
事も無げに言うリュテンに俺は溜息を吐く。
「この、なんだ……レウェシュケユン・ホランディア魔王陛下だって強いんだろ?」
「あら、クニシゲ陛下からしたらクソ雑魚ですよ。隣国の魔王です」
「地図」
ばさっと地図が出され、今いる王都からすすすと細い指が動かされる。
ここから東の国。マッチェティティ地方に接している国は広い。
東の海まである国の国土はこの国の2倍はある。
「どうです?魔界統一なんて」
「いやいい。興味ない」
「そうですか」
地図が丸められて執事がそれを受け取る。
「じゃ、各領主からの反応を」
「おう」
「まあ、農村の生活の質が上昇して、どんどん食料が運ばれている状況です」
「お、いいじゃんいいじゃん」
「なので、食料が値崩れしました」
「あ……」
そうだよなあ、あの量のキャベツが運ばれたらなあ。
「国で支援して、食料の値段を一定に保て。余った食料は倉庫に放り込んで保存の魔法をかけろ」
「はい?保存の魔法は分かりますが」
「だから、農村を支援するんだよ。農業を舐めるな」
「えっでも……」
「なんだ?金がないか」
「金はありますが……そんなことをして何になるんですか?雑魚がどうなろうとクニシゲ陛下には関係ないでしょう?」
弱肉強食が理のこの世界でこれは異端だと事の時はじめて気づいた。
「いいか。下が潤えば、上も潤う」
「?」
よく分かっていないリュテンに続ける。
「農村はこの国の命綱だ。スラムの者はもう農村に行ったか?」
「今、各地に向かっている最中です。昨日今日では着きませんよ」
「そうか。すぐに効果が分かるとは思わない。でも、長い目で見れば、これはいいことなんだ」
「はあ……まあ、国庫には余裕がありますし、そちらに割いても問題はありませんが」
「この国では何が通貨なんだ?」
「各魔王国では人間界と同じく金貨、銀貨、銅貨が通貨です。銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚ですね」
「なんで同じ通貨なんだ?」
「ああ、どちらにも顔の利くドワーフたちが通貨の鋳造を行っているからです」
「ドワーフか」
「はい。潰しますか」
「潰さないよ!?怖いな」
「えへへへ」
「えへへへじゃねえよ」
怖えな。サイコパスかよ。
「そういや、ドワーフの奴隷はいなかったな」
外見知らんけど。
「まあ、人権が保障されていますからね。ドワーフの王国はかなり裕福ですし、やらかしがあっても金で解決させてますし」
「ふーん」
あ、と思い出す。
「トンネル堀りに行かなきゃ」
「……それ本気だったんですか」
「ええまあ」
「はあ……」