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4:キャベツ


「キャベツの種を農村に送れ」


リュテンはそれを聞いてすぐそばいたオルベーガルに向き直る。


「だそうです」

「お前が手配をしろ!!」

「はあ、それだと時間がかかりますが」


それを聞いて俺はミシュシュに話しかける。


「ミシュシュ」

「なんだ」

「このムツレ魔王領の農村の位置は分かるか」

「うむ、分かる」

「じゃ、そこに俺を連れて行ってくれ」

「おう」


ミシュシュと手を繋ぎ、ぱっと景色が変わる。

そこは赤貧と言うのがふさわしい、村だった。

何も植わっていない畑、ぶら下がる草。

矮躯のホブゴブリンの一人がこちらに気付き訝しげな顔を見せる。


「最上級魔族様が来るところじゃ、ありやせんよ」


皮肉っぽい言い方に笑いながら、俺は話しかけた。


「あんたはこの村の村長?」

「いや、違う。村長に会いに来たならこっちだ」


そう言われて連れていかれたのは傾いている家だった。

いや、家と言うにはあまりにもおこがましい。

板が立っている、上に、皮がかぶせてあるもの。

そこに通され俺は、何もかもが小さいと思った。


「あー、最上級魔族様、どうなさいました?」


そんな家(仮)にいたのは白髪の目立つしわくちゃの緑肌のボブゴブリンだった。

ここに俺たちを連れて来たホブゴブリンは消え、俺は溜息を吐く。


「国の異変には気づいたか」

「はい。魔力が十分に行き渡り、雲が消え去り、土も生き返り……息をするのがつらくありません」

「そうか。俺はこのカウンタル魔王領の魔王になった。これからはムツレ魔王領だ」

「そ!!それは、失礼を!!」

「いいかまわん。俺はこの国を変えたい」

「はっ!」

「そのためには食糧事情を改善したいと思っている」

「はい」

「ここにキャベツの種がある」


俺はあらかじめ用意していた大きな革の袋を地面に置く。


「これを畑に蒔け」

「キャベツですか。育ちますか?」

「土の管理のできるものはいるか」

「私が管理しています」

「ではお前をドルイドとする」


ぽんと音がして目の前にいたホブゴブリンが背を高くした。

俺の腰ほどしかなかった矮躯のホブゴブリンがすらりとした高身長になり若々しい姿に……驚いた顔を見せる。

ん?なんだ?


「……なにが起こったんだ?」

「あー……レベルが上がったんじゃろう」

「レベルが上がると身長が伸びるのか」

「魔力が高くなったんじゃ。それで、最下級の魔族から中級魔族になった」


村長は土下座をして俺に感謝の念を伝えてくる。


「ありがとうございます!ありがとうございます!これで村を守れる!!」

「なにか、害獣がいるのか?」

「猪は草と言う草をむしってしまいますし……鹿は木の皮を剥いでしまいますし……」

「そうか。土の管理は出来るな?」

「はい」

「それなら、クニシゲ魔王の名のもとに命じる。キャベツを量産しろ」

「は!!クニシゲ様万歳!!」


俺は万歳をする村長を置いてミシュシュに手を伸ばす。


「次」

「ほいほい」



すっかり夜になった城下町に戻ると賑やかだった。主に城の前が。


「何の騒ぎだ?」

「クニシゲ!!」


城の広場の方から叫ばれ、人垣が割れる。

多種多様な市民たちはしんとして、こちらを見ている。


「レベル1?」


ざわざわとざわめきが広がるとオルベーガルが俺を手招く。

そちらに行くと俺は紹介された。


「こちらが、新しい魔王、クニシゲ・ムツレ様である!よく尽くす様に」

「レベル1ごときに?」


その言葉を聞いて俺は溜息を吐き、城に向かった。


「待て待て待て!!クニシゲ!!儂の顔に泥を塗るつもりか!?」

「おべんちゃらに付き合う気はない」

「いいか!お前は儂よりも非常にひっじょーーーーーーに強い!!だから、国民を気にかけてくれ!頼みの綱はお前だ!!」


その言葉に俺は手を振って城に入る。

執事に案内され執務室に着くとリュテンがソファに座っていた。


「さて、手紙を書いていただきます」

「ああ、そうだな」


執務机に着き、俺は万年筆をとる。


「……文字が書けないんだが」

「はい?」

「文字を知らないんだ」

「えっ」


リュテンは適当な紙に何か文字を書き、それを俺に見せる。


「これ、これが読めない?」

「あれ、知らない文字なのに読める。『アホ』……このアマ」

「魔法文字と呼ばれるものです。形式は何でもいいので、集中して書いてください」

「……集中とか関係あるのか」

「魔力を込めるんですよ。魔力を込めることで、意味が相手に伝わります」

「なるほど」

「えー……まずは、辺境伯、ティージェンユカン・ケルン卿」

「主産業は?」

「ティージェンユカン・ケルン卿が治めるマッチェティティ地方は交易……まあ今は魔石とか鉱石とか布とかいろいろと」

「ふーん……人間界に向けて通路を作ります。よし」


その言葉を聞いたリュテンは珍しく悲鳴染みた声で叫ぶ。


「良くありませんが!?なんですかそれ!?」

「人間界と交易して金を稼ぎたいし、食糧を供給したい」

「はい!?ダメですよ!!あの山消す気ですか!?」

「いやトンネルを掘ろうかと」

「危険ですよ!!!あいつらは野蛮で……っ!!」

「どっちも野蛮だ安心しろ」

「こいつぅううううう!!!」


叫ぶリュテンとそわそわとこちらを見るオルベーガル。

ミシュシュはつまらなそうにソファに座っているしアルンはそわそわしている。


「向こう側に砦を立てて兵を駐屯させる。それでもダメか」

「まあ、人間の積み荷を行きと帰りで確認するなら、いいんじゃないですか?」

「じゃ、次」

「公爵テンラジェン・ランリル卿」

「どこら辺の公爵なんだ?」


リュテンは地図を取り出しそれを執務机に広げる。


「ここです」

「王都の上」

「はい。このオウゲレル地方を治めています」

「おっけー」

「本当に大丈夫ですか?」

「知らねえよ」

「……ランリル公爵閣下は私の叔母です」

「なるほど?なら、味方か」

「いえ、魔王の座を狙ってます」

「おいこら」

「でもまあ、魔力が低いのでそんなものオルベーガル様からすれば雑魚ですよ。つまり、貴方からするとクソ雑魚ナメクジです」

「じゃあ、いいか。ちなみにいくつだ」

「今年で500歳です」


ふーん。アニバーサリーじゃん。


「今何月」

「4月です」

「4月でこの寒さ?」

「7月下旬から急激に暑くなりますけど」

「なんで」

「知りませんよ。で、10月の下旬から急激に寒くなります」

「クソ気候」

「はいそうです」

「そのテンラジェンさまはいつが誕生日なんだ」

「6月です。6月6日」


ほーん。


「お誕生日会、するよな?」

「ええ、パーティーを開きますね」

「それ、俺、参加したい」

「ではそのように手続きをいたします」

「テンラジェンは美人?」

「傾国の美女とまで呼ばれています。先代あーいえ、先々代の魔王陛下が妃を探しておいでの時、名乗り出たほどです」

「あれ、その先々代の魔王陛下はどこに?」

「消えました」

「ええ……?無責任じゃないか」

「まあ、消えたんでしょうがないですよ」


そんな事よりと名前が読み上げられる。


「こいつ男?女?」

「男ですが」

「じゃ、適当でいいや」

「下衆め」


オルベーガルの声を無視して手紙を書きまくった。


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