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3:新しい魔王


美女は玉座から降りてきて、こちらを見る。


「はん!レベル1の人間ごときが、勇ましいな」


大鎌を出現させた美女は叫ぶ。


「我が名はオルベーガル・カウンタル!魔王の一人だ!」

「俺の名は六連国繁。お前ら風に言うと、クニシゲ・ムツレだ」

「ふむ、勇ましき者よ!我が力の前に倒れ伏すがいい!!」


突風の様に突進してきたオルベーガルの鎌を掴んで蹴り飛ばすと彼女を玉座側に吹き飛ばし、ふらふらと立ち上がるなり、盛大に吐いた。


「おげええええ」

「うお、汚い」

「くっ!?強い……っ!!本気を出すぞ!!」


おお、ガッツはあるんだな。

皮膜のある翼を出し、角がもう一対出てくる。


「おりゃああああ!!!」


先ほどよりも速く突進してきて鎌を振り下ろすが、それを掴んで蹴り飛ばす。

吹き飛んだ先でうずくまり、血を吐き出すオルベーガル。


「うぐ」

「おい、大丈夫か」

「いたい」

「治してやる」


治癒してやるとオルベーガルは俺の傍まで来るときゅっと口を結んでから苦い顔を見せる。


「ん、なんで、強いんだ?」

「さあ?」

「レベル1だろ?」

「それってどうやってみるんだ?」

「ステータスオープンっていえば、自分の分は見れるな」

「ステータスオープン」


目の前に半透明のウィンドウがでてレベルの欄には1。

他の欄は筋力、魔力、精神力、器用さ、俊敏性……


「この数値はいくつなら平均なんだ?」

「人間のレベル1なら……」


オルベーガルが俺側に寄って来て、ステータス画面をのぞき込むと叫ぶ。


「なんだこれは!!!」

「ん?」

「魔力8穣!?あっあり得ん!!なんだこいつ!?」


卒倒するオルベーガルと爆笑するミシュシュ。


「そりゃ、余も呼べるわ!あっはっはっは!!」

「オルベーガルのステータスは?」

「儂の魔力は5000万……」

「へー」


一歩近づくとオルベーガルはひっと声を上げて後ずさる。


「さーて、魔王になるにはどうしたらいいのかな」

「儂は降りる!!魔王なんてやってられるか!!」


どこかに逃げようとするオルベーガルにぴっと指さし首に首輪をかける。


「あえっ」

「魔王を飼うのっていいよな」

「こ、こいつぅううう!!!」


心底軽蔑した目を向けられるが気にしない。

階段を上り玉座に座るとちょっと気分が良かった。


「こんなことをしている場合じゃねえな」


真顔ですっと立ち上がり、玉座から降りると、オルベーガルが叫ぶ。


「首輪外せ!!」

「はい嫌でーす。お前は俺の奴隷。んじゃよろしく。アルンは先輩だからな」

「ひえ」

「くそおおおおおおおおお!!!」

「で?魔王になるにはどうしたらいいんだ」

「もうなっとる」

「え?」

「角、生えとるぞ」


触ってみると後頭部から上に向かって角が一対生えている。


「鏡」


ぽんと姿見が出てきて俺はのぞき込む。

こびりつく無精ひげ、死んだ魚のような黒い目、ぼさぼさの黒い髪からのびる金色の角。


「……角の色が……金色なんだが」

「魔族になった証だの。それも最上級魔族」

「成金かよ」

「……うん。ぷはははは」


ミシュシュが爆笑し、俺は憮然とした表情を浮かべ、鏡を消す。


「さて、魔王になったらなにしたらいいんだ?」

「この領地の魔王になったからには、治める必要がある。アーゼント!!」


オルベーガルが叫ぶと天井から降りて来た女がすたっと着地した。

パンツ見え……


「オルベーガル陛下なにか」

「お前、見てただろ!?」

「だって、ねえ。私より強いオルベーガル陛下より強い人間なんて相手にしたくないでしょう?」

「最低な奴」


オルベーガルがはき捨てる様に言うが女は気に留めた風もなく涼しい顔だ。


「ええまあ、で?どうしたらいいですか?」

「こいつ……クニシゲに国政を教えてやれ」

「ああ、退位なさるんですね、オルベーガル陛下」

「うむ。負けたからな」

「ではその手続きを」


女は鈴を鳴らし使用人たちを呼び寄せると淡々と指示を出していく。

それが終わるとこちらに向き直り、深々とお辞儀をした。


「私の名前はリュテン・アーゼント。竜人族でございます」

「へー」

「宰相の地位についておりまして、これからは誠心誠意お仕えさせていただきます」


俺はリュテンを眺める。整った綺麗な顔、薄く微笑みを浮かべる表情、長い黄金の髪にルビーの赤い目、露出の多い豊満な胸にムチムチな太もも。

涎が出そうになる。鼻の下は伸びきってた。


「では執務室にご案内します」


ぞろぞろと玉座の間からでて、向かいの部屋に行くとリュテンは躊躇いなく開ける。

そこは重厚な部屋で、豪奢な感じではなく、落ち着いた部屋だった。


「ここが、執務室です。ここで、方々に手紙を書いていただきます」

「うん?」

「各地の領主、各国の魔王に手紙を書いていただきます」


執務机に着きながら、話を聞く。


「各国の魔王に向けては交易品は変わらないとの旨をお伝えいただければと」

「何が特産なんだ?」

「カウンタル魔王領では鉱山からとれる、アダマンタイトが主産業です」

「枯渇しないのか」

「……まあ、今はあまりとれないですね。その代わり魔石が結構採れます」

「はあ?なら、農業は」

「魔界には上空に分厚い雲が覆っていて日照時間が短い上に栄養のない土壌。農業には向きません」

「食料はどうしているんだ」

「他の領地からの交易で何とかしていますが……」


リュテンは目をそらす。


「つまり、市民にはほぼ行き渡っていないと」

「はい。まあ、中級以上の魔族は魔素があれば食事が無くても一応生きてはいけますね」

「魔王なら、金を作れたり出来ないのか」

「作れますが、総スカンを食らいますね」

「まあそうだよな」


物流を考えるか。


「運搬はどうしてる?」

「運搬は護衛兵をつけて、各地の街からアンデッドボーンの馬、アンデッドボーンの御者で運搬しています」


俺は悩む。


「農業を確立すれば、いい商売になるか?」

「ですが、分厚い雲が……」

「ちょっと試してみよう」


俺は執務室からバルコニーに出て上を見上げる。

分厚い雲がこの地域を覆っている。

俺はこぶしを突き上げ念じた。

雲よ無くなれーーーー!!

ぱっと雲が無くなり日差しが差す。


「え?」


バルコニーに出て来たものが誰ともなく呟く。


「どうやって……」

「あれは神に呪われた大地である象徴だった!!どうやって!?」


オルベーガルが叫び悲鳴染みた声を上げる。

俺はそれを見てから溜息を吐いた。


「どうやっても何も、念じた」

「ねん!?念じた!?たったそれだけで!?」

「次は土壌だな。ムツレ魔王領は農業をする!」

「鉱山はどうしますか?別に、ほかの鉱石はとれますけど」


リュテンの言葉に俺は考える。


「ここは、奴隷はいるのか?」

「カウンタル魔王領には労役奴隷もいますし、普通の奴隷もいます。あ、今はムツレ魔王領か」

「労役奴隷は鉱山に回せ、スラムはあるか」

「はい。貧民街が各地にあります」

「よし、そいつらを農地に回す。農業の方法を知っている者はいるか」

「一応、農村があります」

「じゃあそこにスラム街の者を回せ。食糧事情を改善させるのが最優先だ」


リュテンは言いにくそうな顔を見せる。


「ですが、種がありません……」

「土壌を改善すれば、どんな農作物が育つんだ?」

「気候が寒冷地なので……」

「気候を変えちまおう」

「出来ても止めてください。土着の植物が死滅します」

「ああ、そうか……」


寒冷地で育つ農作物。

俺はスマホを取り出し父に電話した。


「もしもし」

「んー?なんだー!こんな時間に電話なんて仕事辞めたか!!」

「仕事辞めた!」

「そうか!でなんだ?金ならいくらか送るぞ」

「いや、寒い所で農業しようかと思って」

「ほう!!何育てる?」

「何がいい?」


父は沈黙した。


「ほうれん草、ブロッコリー、キャベツなんかはいいな。あと、土がいいならニンジン、大根、ビーツ」

「キャベツか。やってみるよ」

「おう!また聞きに来い!!」

「じゃ」

「ん」


俺はエントランスから降り立ち、歩き始める。

大きな城から出ると街の者たちが空を見上げて口をあんぐり開けている。


「新しい魔王様だ」

「オルベーガル様は亡くなられたのか?」

「我々はどうなる?」


皆不安な表情を浮かべている。

俺は黙って城下街外から出てスラムを通り、様子を見てから城塞から出る。


「ふーん」


土の状態は悪い。栄養がなさ過ぎてもはや砂一歩手前である。

俺はしゃがんで土に手を当てる。そして念じた。

豊穣の大地を!!


変化は著しかった。


「なんと……」


緑の大地は草原を広げ、向こうに見える枯木の山も緑が見える。

確かに、涼しいなあと思っていると恐れと憧憬の眼差しをリュテンが向けてくる。


「クニシゲ魔王陛下」

「苦しゅうない」


そう言うとリュテンは苦笑した。





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