第6話「観客ゼロ!?届け、俺たちの歌!」
「……マジかよ、チケット全然売れてねぇ」
ライブ2日前。会場に貼られたフライヤーの前で、ユズキがつぶやいた。
今回のライブは、俺たち「BLACK SUGAR」にとって初の“オリジナルソング披露”となる重要な一戦。だが、現実は厳しかった。
ネットでは「レイのキャラ変、無理すぎ」「熱血とか古すぎて笑える」といった声もちらほら。
“アイドルに甘さを求める層”からの反応は冷たくなっていた。
「……正直、ビジュアルも強いグループじゃないしな。うちは。実力勝負しかねぇけど、それだけじゃ人は呼べねぇ」
ミナトの苦い声に、俺は静かに答えた。
「じゃあ、“呼ぶ”努力をしよう。俺たちの歌に意味があるなら、届け方も考えるべきだ」
「届け方、ねぇ……」
しばし沈黙。
だが、その夜。俺は一つ、かつての“教師の勘”でひらめいた。
(そうだ。人は、人の“本気”に動かされる――教室も、ステージも同じだ)
「ユズキ、スマホ貸せ。動画を撮るぞ」
「えっ、動画? どんな?」
「魂のやつだ。炎のやつだ」
「ざっくりしすぎっス!」
次の瞬間から、俺たちは深夜の公園、駅前、そしてライブハウス前でスマホを構え、パフォーマンスを撮り始めた。
自己紹介、熱いMC、ダンス練習風景、そして――未公開のオリジナル曲『まっすぐなままで』の一節を、アカペラで。
「俺たちは、嘘の笑顔をやめた。まっすぐ、お前らにぶつかるために」
スマホに向けて、汗だくで叫ぶ俺たちの動画は、翌日SNSで思わぬ拡散を見せた。
「……すごい……! “昔のヤンキーが更生してアイドルやってる”ってコメントついてます!」
「違う!更生じゃない!転生だ!」
「どっちでもええわ!」
冗談を言い合いながら、俺たちは見えない観客の心を信じて動いた。
そして――ライブ当日。
開演5分前。会場の外には、予想を超える人が並んでいた。
「うそだろ……? あの動画、そんなに効いたのか?」
「いや……多分、それだけじゃない。伝わったんだ。あの歌の“まっすぐさ”が」
開場と同時に、俺たちはステージへ飛び出す。
ライトが照らし、音楽が始まる。
――そして歌う。
「誰かの夢じゃなく 俺の夢で走る」
キンブレが揺れ、歓声が響く。
甘い言葉も、媚びるポーズも、ひとつもない。けれど――
「……泣いてる子、いるっスよ……!」
「ああ。俺たちの言葉が、届いたんだ」
俺の名は桐生レイ、75歳。アイドルだ。
誰かのために立った教壇を降りて、今度は――自分のために、夢を見ている。