第5話「教師魂で作詞せよ!レイ、初めてのオリジナルソング」
「レイくん、次のライブでオリジナルソングやるって話、聞いた?」
ミナトがふと告げてきたその言葉に、俺は思わず手にしていたプロテインシェイカーを落としかけた。
「オリジナルソング……? そんなもん、俺らに作れるのか?」
「作詞は持ち回りらしい。今回、レイの番だってさ」
「…………は?」
控室が静まり返った。ユズキが目を丸くし、マネージャーの中山が申し訳なさそうに補足する。
「ええと、事務所の方針でして。メンバー自身が言葉を紡ぐことで“等身大のメッセージ”を届けたい、とのことで……」
「なら、俺の“等身大”(75歳)でいいのか?」
「そ、それは……ご自身で工夫を……」
苦笑する中山の言葉を聞き流し、俺はノートとペンを握った。
(作詞。……詩なんて、人生でまともに書いたことねぇ。だが、歌は“言葉”だ。言葉なら、何度も戦ってきた。教壇の上で、生徒と、親と……)
俺は静かに、深く、思い出を掘り起こす。
“本気でぶつかった生徒たち”の顔が浮かぶ。
泣きながら逃げ出したあいつ。怪我して諦めかけた子。
だけど、諦めず前を向いた奴らは、最後には笑って卒業していった。
(そうだ……“前を向く”って、そういうことだ。折れても、迷っても、立ち上がる。それを歌にすればいい)
気づけば、ペンが止まっていた。
⸻
『まっすぐなままで』
誰かの期待に 答えようとしすぎて
鏡の中の自分 見えなくなったんだ
でも 間違っていい 転んでいい
本当の自分を 抱きしめていけ
誰かの夢じゃなく 俺の夢で走る
⸻
「……おおっ……!」
歌詞を読んだユズキが、目を潤ませる。
「なんか……熱いっス。泣きそうになりました」
ミナトも無言で頷いていた。
「悪くねぇ。こういうのも、ありかもな」
「“あり”じゃなくて、“やる”んだよ。お前らの心に火をつける、それが歌だろう?」
次のライブは、いよいよ“自分たちの言葉”で挑む。釣り営業も甘い笑顔も、必要ない。
拳と魂で書いた歌――“まっすぐなままで”。
俺は今日も、アイドルとして、教師として、“まっすぐ”を貫いていく。