表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/23

第3話「地下アイドル初ステージ!釣らずに魅せろ、俺の魂!」

ライブハウスの空気は、思った以上に熱かった。


 照明の下、薄暗い会場に数十人のファンがひしめいている。メンバーの名前を叫ぶ声、キンブレの光、立ちこめる熱気。そして、ステージ袖には緊張で青ざめるメンバーたち。


「いよいよ、出番……っスね……!」


 最年少のメンバー、ユズキが震える声で言う。細い腕が小刻みに震えていた。見た目は派手でも、中身はまだ15の少年。緊張するのも無理はない。


 俺はそっと背中を叩いた。


「大丈夫だ。深呼吸しろ。声を出せ。腹からな」


「……はい!」


 今の俺にできるのは、やはり教師としての励ましだった。


「BLACK SUGAR、準備できましたー?」


 スタッフの声。いよいよだ。


 ――この場は“釣ってナンボ”、そんな空気が充満している。


 客のほとんどは、推しとの距離感を楽しみに来ている。アイドルたちも、ウィンクやハグ、甘い言葉を交えながら“営業”をこなす。それが常識。


 だが俺は――やらん。絶対に。


(見せてやるよ、“魂”のライブってやつを!)


 音楽が鳴り響く。ライトがステージを照らす。


「BLACK SUGAR、いっくよぉ〜!」


 メンバーが一斉に飛び出す。客席から歓声。俺も遅れて飛び込んだ。


 1曲目『SUGAR BOMB!!』


 派手なダンスと、決められた振付。だが、俺は途中で“変えた”。


 型通りの笑顔なんかじゃない。全力で、真っ直ぐ前を見て、声を張る。


「みんなーーっ!!今日この瞬間、お前らの記憶に、俺たちを焼きつけるッ!!」


 拳を突き上げて叫ぶ。ファンサどころか、魂の応援団のようなパフォーマンス。ファンの間にざわめきが広がる。


「なんか……今日のレイくん、怖いけど……かっこいい……?」


「目ぇバキバキなんだけど……でも、すげぇ、声通ってる!」


 2曲目。激しいダンスに合わせて、俺は観客を“煽る”ように叫んだ。


「立て!声を出せ!アイドルは見せ物じゃねえ!お前らと一緒に、夢をつかみに来てるんだよ!!」


 ――歓声が変わった。

 黄色い悲鳴じゃない。驚きと熱に包まれた、“本気の応援”だった。


 ラスト曲が終わった瞬間、俺の身体は汗でぐっしょりだった。


 息が上がる。足が笑う。それでも……充実感で胸がいっぱいだった。


 ――この舞台で、魂をぶつけるのが「アイドル」なんだ。


 控室に戻ると、ミナトが言った。


「……バカみたいに暑苦しかったな、今日のお前。でも……観客、盛り上がってた。ウチら、今までで一番ウケてたよ」


「本気は伝わるんだよ。口先より、行動で示せ」


「やっぱ変わったな、お前」


 ああ。変わったさ。というか、入れ替わってんだよ、中身がな。


 俺の名は桐生レイ(中身・柿本権造、75歳)。嘘を売らずに、夢を届ける。


 それが、俺の“アイドル道”だ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ