第3話「地下アイドル初ステージ!釣らずに魅せろ、俺の魂!」
ライブハウスの空気は、思った以上に熱かった。
照明の下、薄暗い会場に数十人のファンがひしめいている。メンバーの名前を叫ぶ声、キンブレの光、立ちこめる熱気。そして、ステージ袖には緊張で青ざめるメンバーたち。
「いよいよ、出番……っスね……!」
最年少のメンバー、ユズキが震える声で言う。細い腕が小刻みに震えていた。見た目は派手でも、中身はまだ15の少年。緊張するのも無理はない。
俺はそっと背中を叩いた。
「大丈夫だ。深呼吸しろ。声を出せ。腹からな」
「……はい!」
今の俺にできるのは、やはり教師としての励ましだった。
「BLACK SUGAR、準備できましたー?」
スタッフの声。いよいよだ。
――この場は“釣ってナンボ”、そんな空気が充満している。
客のほとんどは、推しとの距離感を楽しみに来ている。アイドルたちも、ウィンクやハグ、甘い言葉を交えながら“営業”をこなす。それが常識。
だが俺は――やらん。絶対に。
(見せてやるよ、“魂”のライブってやつを!)
音楽が鳴り響く。ライトがステージを照らす。
「BLACK SUGAR、いっくよぉ〜!」
メンバーが一斉に飛び出す。客席から歓声。俺も遅れて飛び込んだ。
1曲目『SUGAR BOMB!!』
派手なダンスと、決められた振付。だが、俺は途中で“変えた”。
型通りの笑顔なんかじゃない。全力で、真っ直ぐ前を見て、声を張る。
「みんなーーっ!!今日この瞬間、お前らの記憶に、俺たちを焼きつけるッ!!」
拳を突き上げて叫ぶ。ファンサどころか、魂の応援団のようなパフォーマンス。ファンの間にざわめきが広がる。
「なんか……今日のレイくん、怖いけど……かっこいい……?」
「目ぇバキバキなんだけど……でも、すげぇ、声通ってる!」
2曲目。激しいダンスに合わせて、俺は観客を“煽る”ように叫んだ。
「立て!声を出せ!アイドルは見せ物じゃねえ!お前らと一緒に、夢をつかみに来てるんだよ!!」
――歓声が変わった。
黄色い悲鳴じゃない。驚きと熱に包まれた、“本気の応援”だった。
ラスト曲が終わった瞬間、俺の身体は汗でぐっしょりだった。
息が上がる。足が笑う。それでも……充実感で胸がいっぱいだった。
――この舞台で、魂をぶつけるのが「アイドル」なんだ。
控室に戻ると、ミナトが言った。
「……バカみたいに暑苦しかったな、今日のお前。でも……観客、盛り上がってた。ウチら、今までで一番ウケてたよ」
「本気は伝わるんだよ。口先より、行動で示せ」
「やっぱ変わったな、お前」
ああ。変わったさ。というか、入れ替わってんだよ、中身がな。
俺の名は桐生レイ(中身・柿本権造、75歳)。嘘を売らずに、夢を届ける。
それが、俺の“アイドル道”だ。