第18話「頂点への挑戦!新人アイドルグランプリ、開幕」
全国新人アイドルグランプリ――それは、東西の代表が競い合い、真の“次世代トップアイドル”を決める大会だった。
年に一度、音楽番組各局が注目するイベント。決勝会場は、夢の武道館。
「こりゃ本気で、地下から地上どころか空まで行けるなァ!」
レイの叫びに、BLACK SUGARの面々も思わず笑ってしまった。
だが、その表情には緊張も混ざっていた。
それもそのはず。東日本代表決定戦の会場は、超有名な大型ライブハウス「Shining Stage」。ここには、実力派のライバルグループたちが名を連ねていた。
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大会当日。BLACK SUGARはバックステージの控室で待機していた。
「なあ、隣の控室にいるグループ、聴いたことある?」
ミナトがタブレットで対戦相手の動画を再生する。
「“G☆PRISM”。SNSフォロワー12万、月間配信リスナー30万越え。……正直、格が違う」
ユズキがうなる。
「でも……」
コウタがゆっくり言葉を継いだ。
「実力があるからこそ、勝つ意味がある。俺たちは、“地下だから”って甘えてちゃダメなんです」
その言葉に、レイが頷いた。
「そうだな。叩きのめされても構わねえ。“魂”でぶつかる。俺たちのやり方を、全国に見せつけるぞ!」
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ステージ裏。
いよいよBLACK SUGARの出番が迫る。
出場者紹介のアナウンスが流れるたびに、歓声が上がっていく。
「次の登場は――応援団アイドル、BLACK SUGAR!!」
歓声の中に、明らかに“初見”のざわめきが混ざる。
それでも、レイは胸を張った。
「聞こえるか? これが挑戦者の音だ。ビビるなよ」
「ビビってません!」
コウタが背筋を伸ばす。
「俺たちは、夢を応援するために、ここに立ってるんですから!」
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照明が落ち、舞台に登場する五人の影。学ランをまとい、拳を掲げて立つレイが、マイクを掴む。
「押忍!! 地下から這い上がって来ましたッ!! “誰かの背中を押すため”に、今日も全力で叫ばせてもらう!!」
第一声で観客がどよめいた。
音楽が鳴る。ダンスは洗練されていないかもしれない。だが、その一歩一歩が、汗と努力でできていることが、観る者に伝わっていく。
「キラキラした夢なんて、最初から持ってなかった! でも、手を伸ばせば、誰だって光に触れられるんだ!」
コウタの歌声に合わせて、観客が次第にペンライトを振り始めた。
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パフォーマンス終了後、楽屋に戻ったメンバーは放心状態だった。
「出し切ったな……」
ミナトがソファに座り込み、息を吐く。
「ヤバいな、体より心が震えてる」
ユズキが笑う。
レイは壁にもたれながら、ふっと空を仰いだ。
「……あの頃、学校で教壇に立ってた自分に言ってやりてぇよ。“お前、75歳でアイドルやってるぞ”ってな」
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間もなく結果発表。
審査員票と観客票、両方で競われる形式。
「……東日本代表に選ばれたのは――」
司会の声がホールに響く。
そのとき、レイが呟いた。
「行くぞ、武道館。いや――“みんな”で、行くぞ」