第17話「結果発表と……武道館への第一歩」
雷音ホールの楽屋前ロビーは、独特な緊張に包まれていた。
観客投票の集計が終わり、いよいよ“勝者発表”の瞬間が近づいている。
GLINTのメンバーは余裕の笑みを浮かべ、スマートに整ったスーツ姿で談笑していた。一方、BLACK SUGARは汗で少し湿った学ランのまま、壁際に整列していた。
「……結果はどうあれ、俺たち、全力出しました」
コウタがふっと口を開いた。
「いや、まだ終わっちゃいねえよ」
レイが笑う。
「ステージの勝負は一瞬。だが、アイドルの勝負は“心に残ったかどうか”だ」
その言葉に、全員がうなずいた。
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スタッフに促されて再びステージへ。
中央には司会者が立ち、左右にBLACK SUGARとGLINTが並ぶ。
「それでは発表します! 今夜の観客パフォーマンス投票――勝者は……!」
会場の照明が一度落ち、ドラムロールが響く。
そして――
「……BLACK SUGAR!!」
一瞬、静寂。次の瞬間、会場が沸き立った。
「うおおおおお!! マジかァァァ!!」
ユズキが飛び上がり、コウタは呆然と立ち尽くす。ミナトが微かに笑みを浮かべ、レイは両腕を高く突き上げた。
GLINTのリーダーが小さく拍手し、悔しげながらも潔くステージを下りていく。
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楽屋に戻った後、しばらく誰も言葉を発しなかった。
レイがぽつりと呟く。
「……勝った、のか」
「勝ちました。俺たちの“応援”が、届いたんです」
コウタの言葉に、じんわりと実感が染み込んでくる。
「思えばさ、最初は地下アイドルってだけで馬鹿にされて……レッスンもまともにできねぇスタジオで、汗だくだったよな」
ユズキが遠くを見ながら言った。
「でも、俺たち、本気だったもんな」
ミナトが静かに続ける。
「見てろよって、ずっと思ってた」
「……でも、今日だけは言わせてください」
コウタが笑顔で言った。
「ありがとう、みんな。レイさん、ユズキさん、ミナトさん。本気で一緒にやってくれて」
その瞬間、レイの目元がわずかに潤んだ。
「おう。……おうよ、コウタ。お前がいたから、ここまで来れた」
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数日後。
マネージャーの泉が、いつもより早く事務所に姿を現した。
「みんな、座って。話がある」
全員がテーブルを囲むと、泉は一枚の封筒を取り出す。
「これ、全国新人アイドルグランプリ・東日本代表決定戦の招待状。推薦枠でBLACK SUGARが選ばれた」
「……マジか」
ユズキがぽつりと呟いた。
「この大会を勝ち上がれば――決勝は、武道館だ」
泉の言葉に、室内が静まり返る。
「武道館……」
レイがその言葉を噛みしめるように繰り返した。
転生したあの日の“目標”。“地下アイドルが、武道館に立つ”。誰もが笑った夢。だが、いま――それが現実の射程に入った。
「やってやろうじゃねえか」
レイの拳が、テーブルを叩いた。
「地下でも、年寄りでも関係ねえ!魂ぶち込んで、武道館に乗り込むぞッ!!」
「「「押忍!!!」」」