第13話「コウタの初センター!?揺れる心と覚悟のステージ」
「――コウタ、次のステージ、センターやってみろ」
その言葉に、スタジオの空気が一瞬で凍りついた。
「ちょ、ちょっと待ってよレイさん。コウタってまだデビューして数ヶ月の研修生でしょ? いきなりセンターって……!」
ユズキが焦ったように言う。ミナトも、無言のまま腕を組んだまま目を細めている。
「無茶言ってるのは分かってる。でもよ――コウタの“今”を見せてやりてぇんだ」
レイの目は真剣だった。いつもの怒鳴り声ではなく、静かな、けれど魂を揺さぶるような声だった。
「誰だって、最初は未完成だ。でも、自分が“誰かの真ん中”に立つって決めた瞬間、人は変わる。変われるんだよ」
「レイさん……」
コウタは小さく唇を噛んだあと、俯いた顔をゆっくりと上げた。
「――やります。怖いです。でも、やりたいです」
その瞳は、確かに揺れていた。でも、その奥には、かすかな決意が灯っていた。
⸻
数日後。都内で行われるライブイベント「NEO STAGE FRONTLINE」。
BLACK SUGARは、新曲『Shout of Tomorrow』を披露することになった。
作詞はレイ、作曲はミナト。歌詞には“泥だらけでも、笑って前に進む”というメッセージが込められている。
そしてその楽曲――センターを務めるのは、コウタだった。
⸻
「……コウタ、いいか。センターってのは、一番光が当たる場所だ。だけど同時に、一番恐ろしい場所でもある」
ライブ直前。袖でレイが、そっと声をかける。
「観客の目が集まる。失敗すれば目立つ。逃げたくなる。だけどな――逃げなかったっていう事実は、一生お前の武器になる」
「はい……! レイさん、ありがとうございます」
深呼吸して、コウタは一歩、ステージへと踏み出した。
⸻
イントロが鳴る。ライトが落ち、青い照明が会場を染める。
そして、中央に立つコウタが、ゆっくりとマイクを構える。
「『踏み出す今日に 意味があるなら』」
まだ震えるような声。でも、確かに届いている。
ユズキが後ろから支えるようにハーモニーを添え、ミナトが力強くリズムを刻む。
そして、サビへ――
「『叫べ、叫べ、自分だけの明日を!!』」
その瞬間、照明が彼に集中する。汗が飛び、声が張り裂ける。
観客席のあちこちでペンライトが揺れ、コウタの名前を呼ぶ声が飛ぶ。
「コウターー!!」
その叫びが、彼の中の“迷い”を吹き飛ばした。
⸻
ステージを終えたコウタは、楽屋で泣き崩れた。
「悔しいです……! まだ思った通りに動けなくて……!」
「そうか、じゃあまだまだ強くなれるな」
レイは笑った。力強く、そして優しく。
「お前の“覚悟”はちゃんと届いたよ。立派だった、センター」