第12話「新星GLINT登場!甘くない、アイドル界のリアル」
「おい、お前ら。今日はちゃんと爪を研いで来たか?」
レイの声がスタジオに響いた。
ファンイベントの成功から一週間。BLACK SUGARの名は一躍地下アイドル界で注目を集めるようになった。だが、それは同時に“敵”が増えるということでもある。
「次の対バン相手、“GLINT”って知ってるか?」
ミナトがスマホをタップしてメンバー写真を表示する。金髪のエース・レン、完璧主義のカイ、そして天才肌のショウタ。全員がビジュアル、歌唱、ダンスと三拍子揃った実力派グループだ。
「正直、ヤバいよ。地下って言っても、ほぼメジャー寸前の化け物揃い」
ユズキが珍しく真顔になる。
「ファン数も、再生回数も、全部上……ですよね……」
コウタの声が小さくなる。
「へっ、上等だ」
レイは不敵に笑った。
「数字で勝ってるからって、魂まで勝ってるとは限らねぇ。地べた這いつくばって、それでも笑うのが俺たちの仕事だろうが」
「……さすがレイさん」
ユズキが、ふと笑って言った。
「最近、俺もわかってきた気がする。“誰かのために頑張る”って、案外悪くない」
その言葉に、コウタの顔がぱっと明るくなる。
⸻
そして、対バン当日。
都内のライブハウス。立ち見までパンパンの超満員。GLINT目当てのファンも多く、熱気が渦巻いている。
「お前たち、気合い入ってるか!」
「「「おおおォッス!!」」」
リハーサルを終えたGLINTのメンバーと、楽屋で鉢合わせる。
「……ああ、あんたが噂の“熱血じじい”か」
金髪のレンがレイを見て鼻で笑う。
「地下アイドルで応援団コントしてバズってるって聞いたぜ。ウケ狙いのアイドルごっこじゃ、俺たちには勝てねぇよ」
ピリつく空気。だが、レイは一歩も退かない。
「上等だ。じゃあ、どっちの魂が熱いか、ステージで勝負しようや」
GLINTの三人が顔を見合わせ、口元を吊り上げた。
「おもしれぇ。じゃあ本気でやるよ、じじい」
⸻
そして、幕が上がる。
GLINTのステージは、まさにプロのそれだった。ダンスは完璧、歌もブレがなく、トークもキレがある。観客は黄色い声で埋め尽くされる。
しかし――
「行くぞ、BLACK SUGAR!!!今日も叫ぶぞ!俺たちは、生きてるぞォォォ!!」
レイの咆哮とともに、BLACK SUGARが登場する。
ダンスはまだ不格好、歌も完璧じゃない。だけど、観客席の一部が確かに揺れていた。
真っ直ぐで、泥臭くて、どこまでも誠実なステージ。
「お前の人生に拍手だァァ!!あんたの今日にエールだァァ!!」
レイの絶叫に、応援団時のファンたちが応じる。まるで“魂の交歓”だった。
⸻
出番を終えて、汗まみれの楽屋。
「……完敗だな」
GLINTのレンが、ぽつりと呟いた。
「でも、ちょっと……うらやましかったぜ、あんたらのステージ」
そう言って、彼は静かに背を向けた。
レイは静かに目を閉じる。
(甘くねぇな、アイドル界……でも、この熱があれば……まだまだ行ける)