俺、勇者(代理)になる。
「……いや、マジで無理だからな?」
俺は王宮の大広間で、腕を組んでふんぞり返る姉を睨みつけた。
「いやいや、悠真もそこそこ強かったし、いけるっしょ?」
「‘そこそこ’のレベルで魔王討伐できるわけねぇだろ!!」
姉はソファに寝そべったまま、ぶんぶんと手を振る。
「だ~いじょうぶ大丈夫。万が一死にそうになったら、私が助けに行くからさ~」
「それなら最初からお前が行けよ!!」
俺が叫ぶと、隣にいた王様が神妙な顔で口を開いた。
「佐倉 葵殿、貴殿が勇者として戦われるのが最善なのですが……」
「えー、やだ。働きたくない」
「いや、貴殿は勇者だぞ!?」
「でもニートだし~」
「ニートが勇者を名乗るな!!」
王様のツッコミが炸裂する中、俺は絶望的な気分になった。
……こいつ、マジで戦う気ないぞ。
「それじゃ、悠真、がんばってね♪」
「勝手に決めんなあああ!!!」
こうして、俺は勇者(代理)として魔王討伐に行くことになった。
魔王を倒すには、さすがに俺一人じゃ無理だ。
そこで、王様の計らいでパーティーを組むことになった。集められたメンバーは――
① アリシア(女騎士・ツンデレ)
「……ふん、あなたが勇者(代理)ね。どうせすぐに逃げ出すのでしょう?」
② ルナ(魔法使い・ドジっ子)
「わ、わたし、がんばりますっ! あっ、転んだ!」
③ カイン(盗賊・チャラ男)
「へへっ、勇者(代理)さん、俺に任せな!」
……いや、ちょっと待て。
「お前ら、俺が‘代理’なの知ってるの?」
「ええ、勇者様が働きたくないから、あなたが代わりに行くと聞きました!」(アリシア)
「え、マジ? そんな適当でいいの?」(カイン)
「うわぁ……大変ですね……」(ルナ)
完全に同情の目を向けられている俺。
そのとき、姉がポテチを食べながら近づいてきた。
「おー、みんな集まったね! じゃ、悠真、あとはよろしく~」
「お前は来ないのかよ!!!」
「うーん……めんどいし」
姉はそのまま王宮に残り、俺たちだけが魔王城に向かうことになった。
王都を出発し、俺たちは数日かけて魔王城へとたどり着いた。
「……いや、魔王城、デカすぎじゃね?」
眼前にそびえ立つのは、黒い稲妻が轟く巨大な城。RPGのラスボス戦そのものだ。
「勇者(代理)殿、いざ突入しましょう!」(アリシア)
「ふ、ふぁいと……」(ルナ)
「よっしゃ、サクッとやっちまおうぜ!」(カイン)
俺は震える手で剣を握りながら、一歩前へと踏み出した。
その瞬間――
「あれ? 悠真、もう魔王城ついた?」
突然、俺のスマホが鳴った。
画面には姉からのLINE通話が表示されている。
「え、電波通じてんの!?」
「異世界Wi-Fi、すごいよね!」
「すごくねぇよ!!!」
姉の声が響く中、魔王城の門が重々しく開かれた。
中から現れたのは――
「ふふふ……よくぞ来たな、人間どもよ……」
魔王、本当に出てきた。
やべぇ、どうしよう。
「悠真、さっさと倒しちゃいなよ~」
「お前が来いよおおお!!!」
こうして、俺の魔王討伐(代理)が始まった――。
(つづく!)