姉、異世界で覚醒する。
「おい、姉ちゃん! なんでそんなゴロゴロしてんだよ!」
俺――**佐倉 悠真**は、学校から帰るなり、リビングでだらけている姉に向かって怒鳴った。
「ん~? だってニートだし~」
そう言いながら ポテチを頬張るのは、俺の姉・佐倉 葵、24歳・無職。
大学を卒業したあとも就職せず、家でゴロゴロする日々を送るダメ姉ちゃんだ。
「そろそろ働けよ。親も呆れてるぞ」
「いや~、私が本気出せばすぐにでも社会に貢献できるんだけどね~」
「はいはい、いつ本気出すんだよ」
適当に流しながら俺が部屋へ向かおうとした、そのとき――
「勇者召喚を開始します――対象、佐倉 葵。」
突如、部屋が眩い光に包まれた。
「んぁ?」
「は?」
光の中心にいたのは――まさかの姉ちゃん!?
次の瞬間、姉は光に包まれ、俺の目の前から消えた。
――異世界・アルザディア王国。
「おおっ! ついに来たか、我らの勇者よ!」
豪華な玉座の前、異世界の王と騎士たちが集まる中、光の中から現れたのは……
「……え、なにこれ?」
パジャマ姿のまま、片手にポテチ、もう片方にはリモコンを持った姉だった。
「おお、勇者よ! 我らの世界を救ってくださ――」
「待って待って待って、勇者ってなに? ってか、私いま家でゴロゴロしてたんだけど?」
「貴女こそ、異世界を救うために召喚された勇者なのです!」
「いやいや、勇者ってそう簡単になれるもんなの?」
姉はめんどくさそうに頭をかきながら、ポテチをぽりぽり食べた。
「……まあ、いいや。で、何すればいいの?」
「さすがは勇者! すぐに使命を受け入れてくださるとは!」
「いや、適当に言っただけなんだけど」
そのとき、王の隣にいた大臣らしき男が、姉に向かって厳しい顔で言った。
「しかし、本当にこの者が勇者なのですか? どう見てもただの怠け者にしか……」
「うっせぇなぁ」
姉がリモコンを振る――するとズドォォォン!!!
彼女の手元から光の衝撃波が放たれ、大臣の後ろにあった巨大な石像を粉砕した。
「え?」
「え?」
「え?」
場にいた全員が固まった。
姉もキョトンとしながら、自分の手を見つめる。
「……え、なにこれ、私すごくね?」
「勇者様! その力、まさしく伝説の勇者のものです!」
「……マジで? え、私最強?」
その後、適当に剣を持たされ、試しに城の訓練場で剣を振ってみると――
山が吹き飛んだ。
「え、ヤバくね?」
「勇者様! まさに伝説級の力!」
「え~、これで働かなくてもいい?」
「むしろ、働いてください!」
こうして、姉は異世界で最強の勇者として祭り上げられたのだった。
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