5話「心の傷」
俺とはるはジュースとお菓子を食べながらDVD鑑賞を始めた。
さっきは色々あったけど、とりあえず今はDVDを見るのに集中しよう……。
◇
「今のシーン変身音間違えてるよね」
「あ、うん、DXのおもちゃ1万回ぐらい遊んだからすぐ気づいた。」
「多くね……?」
◇
「まさかこのシーンがTV本編で伏線回収されるとは思ってなかったなー。」
「わ、私もそう思った。」
「この映画上映期間中に見といて良かったわー。」
「色々大変な時期だったけど、ちゃんと映画やってくれたのありがたい、ね。」
◇
「俺この実写映画、実写の中では割と成功した方だと思うんだけど……はるは?」
「わ、私は、うーん、まぁ原作改変されてるシーンとかもちょくちょくあってそこはどうかと思ったけど、総合的に見れば良い作品ではあるかなー、と思う。」
「だよな。」
◇
と、俺達は次々に作品を見ていって、5本目の特撮映画を見ている時にはもう夕方の5時を過ぎていた。
この映画を見終わったら借りたDVDは全部見終わった事になるから、そしたら家に帰ろう。
「……ねぇ、あお君。」
「何?」
突然はるが俺の服の裾を掴んで俺の名前を呼ぶ。
「わ、私、あお君に昔……酷い事を言った、んだけど……。」
「え、そうだっけ?」
「覚えて……ないの?」
「いや、全く……はるとはあまり喧嘩しなかったような気がするし……。」
はるの言う事が全く記憶にない俺だったが、続けてはるは
「私、昔、あお君が仮面ファイター好きって言った時、私……仮面ファイターなんて子供が見るものって言って、馬鹿にして……。」
「そうだっけ?」
「ごめん、なさい……。」
はるの言う昔というのがどれほど前かは分からないが、はるはその事をひどく気にしていたそうだ。
「き、気にしてないよそんな事。もう忘れちゃったし。そんな事で謝るなよ。」
「ご、ごめん……」
「だから謝るなって。気にしてないって言っただろ__」
「っ……。」
次の瞬間、俯いているはるが涙を流していた事に俺は気づいた。
「はる……?」
「きっと……罰が当たったんだ……私があお君の趣味をバカにしたから、私は一人ぼっちになって、皆から……!」
はるは肩を震わせながらそう呟いた。
俺がはると離れ離れになっていた3年の間に何があったのかは俺に差し図る事はできない……けど、もしもはるが何か辛い思いをしていたのなら……。
「っ……!」
「わっ……!?」
俺ははるを安心させたくて、その為に意を決して俺の服の裾をつまんでいたはるの手を握り返した。
「あお……君……?」
「大丈夫。高校生になってやっと再会できたんだ……もう、大丈夫。はるを泣かせるやつがいたら、俺が守ってやる。」
「……」
俺は泣いているはるを安心させたくてついそんな事を口走った。
半分は見栄っ張りだけど、半分は本心だ……もうはるのこんな顔は見たくない……。
「だから……その……オタクになろうとはるははるだから……昔みたいに笑っていて……欲しいな。」
「……あお君……。」
俺は昔のはるを……天真爛漫に笑っていた昔のはるを思い出し、しかし今のはるを否定する訳にはいかず、なんとか言葉を絞り出してはるにお願いした。
「……うん。これからまた、よろしくね……あお君……。」
「あぁ、俺達今はオタクなんだ。昔とは違った今の楽しみ方をやっていこう、な!」
それがはるの返事だった。
はるは目元を赤くしながらも笑っており、テレビから聞こえる音声をよそに俺達は笑いあっていた。
[平成オールファイターキーック!!]
[バ、バカなァーッ!!]
[ドカァーンッ!!]
◇
「おかえりー。」
「ただいまー。」
俺は自宅に帰ってきて、すぐにはるとメッセージアプリ、RINEで連絡をとった。
さっきはつい中学生時代の辛い事を思い出してしまいああなってしまった、とはるは言っていた。
俺ははるに「俺達は友達なんだから、困った事があったら何でも言ってほしい」と送り、はるはそうすると返したが、やっぱり少しモヤモヤしてしまう。
嫌な事って言うのは、多分……はるは女の子だ……良くない事が色々と思い浮かんでしまう。
でも俺とはるはこうして再会する事ができた……それで何よりじゃないかな。
余計なお世話かもしれないけど、俺がはるのトラウマに寄り添いたい……どれだけ時間がかかるか分からないけど、その傷を癒してあげてい、と思ってしまう……。
「あー、どうしたもんかな。」
「どうした我が弟よ。」
「ね、姉ちゃん帰ってたのかよ!」
俺は突然部屋に入ってきた姉の言葉ではっとする。
姉、大堂李夢は隣の県に住んでいて、たまに帰ってくるのだ。
とある美術系の大学を卒業しており、今は有名漫画家のアシスタントの仕事をしている。
「突然部屋に入ってくるな!」
「別にいーじゃんかよー!エロ本はちゃんと見つからない所に隠してるんだろー?」
「うるせー!」
「あ、でも最近は紙よりもWebサイトで見る方が家族に見つからないし楽に見れるからそっちの方がいいのか。流石にスマホは不可侵領域だからなークソー。」
「何がクソーだ。」
こんな姉だが、外では真面目でおしとやかな性格を貫いてやがる。
常人の振りをできる狂人が1番恐ろしい。
「ねー高校デビューで彼女できた?いや1週間では流石にできないか。いやさわやかナイスガイの青司ならワンチャン__」
「出ていけぇい!」
「この反抗期めー!べーだ!」
俺は姉に鉄拳制裁をお見舞いし、不貞腐れた姉は逃げるように俺の部屋を出ていった。
「全く……。」
姉が出ていき静かになった部屋で、俺は今後のはるへの身の振り方を考えてみた。
どうしたらはると一緒に楽しい時間を過ごせるか……どうしたらはるの辛い思い出を払拭できるか、って……。
「俺がやらなくちゃいけないんだ……。」
気がついたら、高校デビューで友達を作りまくる、よりも大事な目標ができていた……。