14話「久瀬の怒り」
私は小学生の頃、クラスの委員長として皆をまとめる為に頑張ってきた。
そうすることでクラスが一丸となり、最高のクラスになると信じてたからだ。
だから中学でもそうしたいと思ったんだけど……それがいけなかった。
私は中学校生活の3年間、私の事を良く思わなかった1人の男子生徒、火野炎慈に虐められていた……正確には、火野が裏で取り巻きの女子生徒……リーダー格の塩山を中心とした数人の女子生徒を動かして私を虐めさせてたんだ。
「立花ぁ、あそこのコンビニで万引きしてこいよ!」
「い、いやだ……!」
「断ったらこれ食わす〜笑」
「ちゃんと火通してやるから笑」
「ッ……!」
そう言って沢山の虫が入った袋を私に見せつけ、それを食べたくなかったらコンビニで万引きしろと命令したり……
「教科書もーらい!」
「か、返して……!」
「うるせぇ教科書忘れたんだから仕方ねーだろ笑」
「私はシャーペンもーらい!忘れちゃったから〜笑」
そう言って適当な理由をつけて私の持ち物を無理やり奪ったり……
「なぁ、あのキモオタにこのジュース飲ませたいから持ってけよ笑」
「な、何が入ってるの……?」
「下剤だよ〜笑」
「断るならてめぇが飲めよ〜?学校にジュース捨てる所なんてねぇんだから笑」
下剤が入っている飲み物を気に入らない生徒に飲ませろと強要したり……結果、私は皆をまとめる立場からは遠ざかり、万引きをし、忘れ物の常習犯で、他生徒に危害を加える悪者になってしまった……。
私はなんとかして先生や親に弁明しようとしたけど、ここでも火野は根回しを欠かさず、私の声は周りの人達には通らなかった。
「先生!私達イジメなんかしてないですよ!」
「言いがかりです!」
「だって私達友達だもん!ね、立花さん?」
「……」
だから心の拠り所を求めて、アニメとか特撮とか、そういうものに救いを求めてオタクになったんだ。
当然、そんな事いじめっ子の人達に知られたら何をされるか分からないので学校ではずっと隠し通してきたけど……。
私はずっと一人ぼっちだった……両親と妹は私を気遣ってくれたけど、1歩でも家の外に出ればそこには地獄が広がっていた。
私は3年生になるまでずっと耐えて耐えて耐え続けて、3年生の夏休みの時……「このままもう学校に行きたくない」という思いに限界が来て、それから中学卒業まで不登校になった。
◇
「しばらく休んでなさい。そんな状態じゃ文化祭だって楽しめないでしょう。」
「は、はい……。」
私はメイド服からジャージに着替えた後久瀬さんに保健室に連れて来られて、保健室の先生に言われるがままベッドに寝かせられた。
「はるっち、後の事は私に任せてね。」
「ご、ごめん……。」
「気にするなって!はるっちの為なら私頑張るから!」
久瀬さんは私にそう告げると、一瞬だけ神妙な表情を浮かべて保健室を後にする。
後は任せて、とか、私の為に頑張る、とかって、メイド喫茶の接客の事じゃないのかな……?
◇
ドンッ!
「てめぇ、はるの何だ……ッ。あんなに怯えてるはる初めて見たぞ。」
俺は怒りのままに火野という男の襟を掴み、彼の背後の壁にその体を押し付ける。
連れている女子生徒はスマホを弄っていて、話と真面目に話をする気はさらさら無いようだ。
「俺は立花の友達だ。ただ、俺達なりの友達としてのアプローチを立花は曲解していたらしいけどな。」
「ふざけるな!あれが友達にする態度か!お前……はるを虐めてただろ……!」
「立花がそう言ったのか?」
「言わなくても分かるだろアホが!」
俺は完全に頭に血が登りきっていて、普段は人には言えないような言葉も言えるような状態だった。
だけど、昔俺と仲良くしてくれて、優しくて明るい性格だってはるを苦しめてきたコイツは許せないんだ……!
「なんか弱男が必死になってて草なんだけど〜。チー牛ボイスで喚くなよ耳障りだなぁ〜笑」
「黙れアマ!お前だってはるを虐めてたんだろコラ!」
あまりにも他人事のような女子にもその怒りの矛先を向ける。
次の瞬間、火野が俺の右手を握り、強く力を込める。
「いっ……!」
「おい、塩山になんて事言うんだ。」
「は……?」
ドサッ!
「ッ……って……!」
次の瞬間、俺の身体は中を舞い地面に叩きつけられていた。
背中に激痛が走り、痛みで悶える俺の顔を火野が見下し、そして……
「俺は何よりも絆を大事にする男だ。俺の友達を馬鹿にする奴は許さねぇ。立花は俺との絆を否定したんだ!だから虐められても仕方ねぇだろ!」
「てめぇ、に……そんな事語る資格あるのかよ……人を虐め、た……時点で……てめぇは絆なんて、もんとは……無縁の、クソ野郎だ……!」
俺は痛みに苦しみながら、なんとか声を発して自分の思いを火野のクソ野郎にぶつける。
「うっせぇよ弱男!てめぇみてーな!キモ男は!ただやられてれば!いいんだよ!」
俺の発言に怒った塩山とやらは怒りの表情を滲ませ俺の腹に何度も蹴りを入れる。
痛ぇ……けど、はるはもっと痛かった……もっと苦しかったはずだ……こんなもん、耐えられなくてどうする……!
「はははは!」
「おい。」
その時、その場に1人の女子が現れ火野と塩山を睨みつける……久瀬だ。
その顔を見た瞬間、火野は眉をしかめ、塩山は頬を引きつらせ後ずさりをした。
「お前は……西中の狂獣……!」
「んなクソだせぇ名前とっくに捨てたわ。今はただのギャルなんだが。」
自分の事を西中の狂獣と呼ぶ塩山に尚も2人を睨みつけながらそう返す久瀬。
俺は全く聞いた事ない名前だけど……そんなに有名な人だったのか……?
「……おい、大堂君をやったのはお前か……?」
そして久瀬は歩を進め火野に近づき、俺に暴力を奮ったのかと奴を問い詰める。
し、修羅場の予感だ……。