10話「文化祭」
5月上旬、この日俺達は先生からある話を聞かされた。
来月学校で開催される、ある行事についての事だ。
「皆さん、来月はいよいよ我が校で文化祭が開催されます。今日はその文化祭でのこのクラスの出し物を決めようと思います。」
この学校では文化祭は一学期に催されるらしく、各クラスはそれぞれお店やお化け屋敷などの出し物をしなくてはならないそうだ。
「とりあえず今から候補を決めて、その中から多数決で決める事にします。他のクラスもそうしているので。」
先生がそう言うなり生徒達は次々に挙手して自分がやりたい出し物を立候補していく。
「私、たこ焼き屋さんがやりたいです!」
「やっぱメイド喫茶っしょー!」
「いやいや、演劇やろうぜ!」
各々自分がやりたい出し物を立候補していくが……俺は中学生の頃、こういうノリが苦手だった。
何せ友達がいない分にはこういうものはろくに楽しめないし……でも、今は少し違うのかもしれない。
「あ、あお君は何かやりたい事……無い、の?」
「そうだな……焼き鳥屋さんがやりたい……かな?」
はるが俺のやりたい事を聞いてきたので、俺は好物である焼き鳥のお店をやりたいと返す。
「じ、じゃあ立候補……しないの?」
「うーん、そうだな……はい!焼き鳥屋さんがやりたいです!」
俺は意を決して挙手し、焼き鳥屋を立候補した。
そうして出揃った候補は、たこ焼き屋、メイド喫茶、演劇、お化け屋敷、朗読劇、焼きとうもろこし屋、焼き鳥屋、綿飴屋、体育館でのバンド演奏、これらの9つだ。
「焼き物多いなー。」
「学生は皆好きでござるよ、焼き物は。」
「まぁ俺も焼き鳥とかたこ焼き好きだけどね。」
「メイド喫茶やりて〜!」
小倉と中守はそう話していて、久瀬はメイド喫茶を激推ししている。
「では、これらの候補の中から多数決で出し物を決めます。それではまず__」
そうして多数決が始まったのだが、この中で1番票を集めたのが……
「では、30人中12人で1番票が多かった……メイド喫茶で決まりです!」
「うおっしゃー!」
結果、1番票を集めたのはメイド喫茶で、1年B組の出し物はメイド喫茶に決まった。
男子よりも久瀬が1番喜んでいるのだが……
「男子エロい目で見たら殺すからなー!」
「そんな事しねぇよ!メイドってのはこう……尊いものだからな!」
「返す言葉それで合ってるのかよ。」
そんなこんなで1年B組は来月の文化祭に向けてやる気を出し、今日から色々な準備が始まった。
それから4日後……
◇
文化祭の準備は主に放課後に進められ、各作業の担当を任せられた生徒約15名がだいたい1時間ほど学校に居残って作業に取り組んでいる。
「裁縫部にメイド服作成依頼通ったよ!」
「よし!次はメニューだな!オムライスは王道だろ?」
「喫茶店って言うからにはコーヒーとかも欲しいな。」
「ポテトフライとか唐揚げ……は喫茶店ってのとは違うかな?」
「いや、良いと思うよそれ!何せ油っこいものはウケ良さそうだもん!」
クラスのリーダー格的な人達が怒涛の勢いで作戦会議をしているのを聴きながら、俺は作業班として教室の前に立て、人の目を惹く為の看板を作っている。
「ここは青色使った方がいいかな?」
「いやいや、可愛いおにゃのこ達がメイドやってるんだからピンクっしょ!」
「助言ありがとな、そうするよ。」
そういう事に詳しい久瀬からアドバイスを貰いつつ、俺は看板を作っていく。
その時、裁縫部に行っていたはるが教室に戻ってきた……かなりやつれた顔で。
「は、はる!?何があった!?」
「……う、うぅ……全身隈なく調べあげられて……あちこちベタベタ触られて……!」
「な、なんてセクハラを……!」
「いや、スリーサイズとか測定しただけじゃね?」
「う、うん……3年の女子の裁縫部部長さんに……なんか「肉付きいいね」とか「安産型だね」とか言われて……」
なんだ身体測定か……いや、セリフがかなりセクハラじみてる気もするが……。
「私の番いつー?」
「えっと、次の次らしいので、準備しててください、だって。」
「おけまる!」
どうやら女子は順番に裁縫部の部室に行って身体測定をするそうだ。
とにかく俺は自分の作業に集中しよう!ここはピンクで塗って、差し色に黄色とか塗って、色紙を花の形に切って貼り付けたりして、はるは肉付き良くて、安産型で……
「っ違う!!」
くそー、裁縫部部長め……余計な情報で俺の思考を邪魔しやがって……!(裁縫部部長は何も悪くない)
◇
「ふぅ……」
昨日はあまり作業に集中できなかったから、昨晩は脳をリセットしてやった……今日は集中できるはず!
「今週中に看板作りきろう。」
今日は昨晩の脳のリセットが効果を発揮し作業を効率的に進める事ができた。
その最中、中守が担当しているメニュー表がどれぐらい進んでいるのか気になって、パソコンをカタカタしている中守に声をかける。
「中守、そっちはどうだ?」
「問題ないでござるよ。この通り。」
中守は俺にメニュー表のデザインを見せてくれたが、派手すぎず、かと言ってシンプルすぎる見た目でもない中々いい物だった。
「やるな中守!」
「当然でござるよ。中学生の頃は修学旅行のしおりを作るのを担当した事がありまするので。」
こっちも問題なさそうなので一安心した……次は料理班の小倉でも見てくるか。
そう考えた俺は、調理室でメニューを作る練習をしている料理班の所に様子見に行く事にした。
「おーい、小倉__!?」
その時、俺が調理室で見たのは……床に倒れ伏す何人もの生徒の姿だった……!
「死んで……いや、気を失ってるだけか。おい小倉!どうしたんだよ!」
俺がそこに立っていた小倉と、そして小倉と一緒にいた女子の方を見てみると……調理台の上には「ダークマター」が置かれていた。
「も、もうやめよう吉沢さん!試食担当の人みんなダウンしちゃったよ!その卵割るのやめよう!一旦置いて!ね?」
「いえ!私はやれます!何故なら私は中華店の店長の一人娘なのだから!次こそ!次こそは〜!」
「……なんだこれ。」
その光景を見て、思わずそう言わざるを得なかった。