コント『工場』
子「親父、俺に工場を継がせてくれ!」
父「なんだと?久しぶりに実家に帰ってきたと思ったら、ふざけたことを言いやがって!絶対にだめだ!」
子「お願いだ!俺に親父の工場を継がせてくれ!」
父「ダメだ!」
子「頼むよ!」
父「絶対にダメだ!」
子「なんでだよ!」
父「なんでって?なんでって…俺の工場ってスーツの袖にボタンを付けるだけの工場って分かってるのか?!」
子「わかってるよ!」
父「こんな、なんで付いてるか分からんようなボタンを付ける工場なんて、俺の代でお終いだよ!」
子「そんなこと言うなよ!俺はスーツの袖にボタンを付ける親父の背中を見て、ずっと憧れてたんだ!」
父「どうして憧れちゃったんだよ!」
子「俺は工場で1人で黙々と作業する姿に憧れたんだ!」
父「人を雇うお金がないから、1人でやってるだけだよ!」
子「あえて小さな工場で作業をする職人なところとか!」
父「あえてじゃない!お金がないから小さいだけだ」
子「手作業でボタンを縫い付けるところなんて、本当にカッコ良いし!」
父「もう何年か前に機械買ったよ!今は機械にセットしてスイッチ押したら誰でもボタン付けれるわ!」
子「親父、俺さ…小学生の時に親父の働く背中に憧れて、ずっとこの工場を引き継ごうと努力してたんだ!」
父「ああ、まぁ…そう言ってくれると、父親である俺も嬉しいだけどさ」
子「小学生の時は、親父に早く追いつきたくてボタンを縫い付ける練習ばっかりしてたよ」
父「そうだったな…父親としては外で遊んだり、ゲームとかしてて欲しかったけどな」
子「それで中学生になったらボタンを縫うだけじゃダメだって思ってさ、手芸部に入部して自分で服を作ったりしてさ」
父「俺の仕事はボタンが縫い付けれたら良いんだけどな、むしろそれ以外のスキルは要らないくらいだ」
子「中学の時は服ばっかり作ってさ、友達は全然作れなかった」
父「ダメじゃねぇかよ!俺のせいで息子が孤立しちゃってるよ!初めて知ったわ!」
子「服は作れるのに、友達は作れないって!はははっ、笑っちゃうだろ?」
父「笑えない!全然笑えない!」
子「高校生になったら、また手芸部に入ってさ、そこでも服ばっかり作ってたよ」
父「もう服作るのはいいって!ボタンだけ縫い付けれたら誰でも出来る仕事なんだから!」
子「誰でもは出来ないだろ!」
父「出来るよ!今はポンってスイッチ押すだけなんだから!」
子「それで手芸部で2年になった時に、後輩の女の子に告白されてさ」
父「ええ!やったじゃん!」
子「でも俺には工場を継ぐ為に、腕を磨かかないとダメだったからさ」
父「え?」
子「君に割いている時間はないって断った!」
父「なんで?!もうやめてくれ!俺の工場のせいで孤立しないでくれよ!」
子「でも聞いてよ!頑張っていたおかげで3年生の時に、服の製作のコンテストに出品したら優勝したんだよ!」
父「本当か!凄いじゃないか!…あれ?でもなんで父親である俺は、それを知らないんだ?」
子「知らないのは当然だよ。工場を引き継ぐ俺には、優勝なんて肩書き必要のないものだから、賞状やトロフィーは学校で捨ててきたんだから」
父「やばい!やばい!服しか作ってこなかったから、俺の息子が心の無いモンスターになってしまってる!」
子「高校を卒業した俺は、服が作れるだけではダメだ!っと思い、アメリカで経営について勉強する為に留学したんだ」
父「行かなくていいって!ボタンだけ縫い付けれたらいいんだよ!」
子「アメリカでは大学に通いながら、バイトで服のデザインをしたりして生活してたんだ」
父「凄いことしてるな?!もう俺を超えてるよ!」
子「実は親父が今着てる服も、俺が立ち上げた会社で作った服だよ」
父「えー!!これ、お前が作ったやつだったのか?!」
子「胸にあるロゴにボタンって刺繍されてるだろ」
父「カタカナで書いてあるけど、ボタンってそういうこと?!え?じゃあお前は今、社長なのか?」
子「いや、俺にはこの工場を引き継ぐ使命があるから、社長になるのは断ったよ」
父「もういいって!こんな工場より、絶対にその会社の社長になった方が良いって!」
子「それくらい俺が、この工場を継ぎたいってことだよ!俺の覚悟、分かってくれよ!」
父「そうか…そうだな…分かった!そこまで覚悟があるなら、俺の工場はお前に任せる!」
子「え?良いのか?!親父?!ありがとう!」
父「ああ!俺の工場を頼んだぞ!」
子「うん!この親父の思い出の詰まった、俺の大好きな工場は絶対に守るよ!」
父「おう!期待してるぞ!」
子「任せてくれよ!手始めにこの工場を潰して大きな工場を建てることにするよ!」
父「手始めに大好きな工場を潰すなよ!!俺の息子、やっぱり人の心を無くしてるな!!」