私は追放された冒険者達を放っておけません!
私の名前はアンといいます。冒険者が多く集まるという街に本日引っ越してきました。冒険者が沢山集まると聞くだけあって、街は賑わっています。
何故私が冒険者の町と言われる場所に引っ越してきたのかというと…、そう!冒険者として活躍するため!!…ではなく、先月亡くなった祖父が経営していた冒険者ギルドを引き継ぐためです。
私の大好きで尊敬する祖父は、いつも会うたびに、自分のギルドの冒険者たちの自慢話をしていました。祖父が亡くなり冒険者ギルドはなくなる予定でしたが、祖父があんなに大切にしていたものが無くなるのを、私は黙って見過ごすことが出来ず、親の反対を押し切ってまでギルドマスターの座を引き継ぐことにしました。肝心のギルドはそこまで大きいものでもなく、街の中でもせいぜい中堅がいいとこだったそうですが、私にはそんなの関係ありません。祖父の残した物を守っていられれば、それでいいのです。
さて!長話もなんだし、そろそろギルドへ向かいましょう!
「え?ここのギルドはマスターが亡くなってからメンバー全員他の場所に行っちまったよ?依頼ならほかのギルドに頼みなさいな、お嬢さん」
「……………………………………」
なんということでしょう、ギルドは残してもらうように頼みましたが、まさか外側だけとは…
ギルドに入った途端、「え?マスターの孫娘かい?!可愛い嬢ちゃんだ!」なんて言われたら照れるどうしようとか考えてたのに?
いやいや、ここから立て直してなんぼよね!がんばれ私!
私はなんとか自分に言い聞かせ、ギルドの中へ入る…
「な、なによこれ……」
私が見た光景は、驚くほどに荒れたギルドの内装だった。机はボロボロで何日放置されているか分からない飲みかけの酒のジョッキと食べ物が置いたまま、椅子は全て壊れており、ちゃんと立つ椅子がない、照明は当然つかないし、においもきつい。
「あのクソジジ…おっといけないいけない、仕方ないけど片づけますか」
まったく、なぜこんなに荒れているのかしら。少なくとも掃除と片づけだけで三日はかかりそうだわ。
私は三日間もの間、ほとんど休まずギルドを清掃した。
「これが最後の部屋ね…でもこの部屋はあまり散らかってないわ」
最後の部屋の掃除に取り掛かると、そこでいろいろな物を見つけた。
これ、私の写真?それにこれ、昔おじいちゃんと一緒に遊んだボールだ。そっか、ここがおじいちゃんの部屋だったのね、懐かしい匂いがする気がする。
ん?これは木の板?何か書いてある…『ギルド はぐれもの達の集まり』?
見つけた物はギルドの名前を彫った小さな看板だった
『はぐれもの達の集まり』。そういえばお父さんが言っていた。おじいちゃんのギルドは行く当てのない人たちの集まりだったって。身寄りのない人を放っておけないなんて、おじいちゃんらしいや…
三日間ほとんど休まずギルドを清掃した私は、その日は深い眠りについた。そして次の日…
「よし!これで準備オッケー!」
祖父の部屋で見つけた看板を立てて、本日よりギルド、はぐれもの達の集まりは復活した
のはいいんだけど…ギルドマスターの仕事なんて何すればいいんだろう?というよりまずは冒険者集めないと何も始まらないわよね…?よし!まずは人集めだ!
と意気込んでいたんだけど、人が全く集まらない!というか原因は分かっている。祖父が悪いんだ。ギルドを探している者たちに声をかけても「はぐれもの達の集まりだけは嫌だ」「俺は道を踏み間違えない!」「その名は出すな…トラウマが…!」「話しかけんな!」などと…。
「一体何をしていたクソじじいぃぃぃーーーー!!!!!」
もう尊敬もクソもない。やめだやめだ!こんなギルド売っぱらってやる!!
私はギルドの再建を諦めて、実家に帰ろうと、ギルドにおいてある荷物を取りに帰ろうとした。その道中…
「はあ、追放とか……どうして、、、」
道の端っこで暗い顔をしている男冒険者がいた。そのあまりにも酷い表情を見た私は、放っておけず話しかける。こういうところは、誰に似たんだろうな…
「あの、君、大丈夫?こんなところにずっといたら風邪ひくよ?」
辺りはもう暗く、夜風が冷たい。
「いいんだ、放っておいてくれ…。どうせ俺なんて…」
「どうしたの?話聞くよ?とりあえずこんなところにいないで、家に来なさい」
私は半強制的にギルドに連れて行った。
「実は僕、あるギルドを追放されたんです」
「それで、あんなところで落ち込んでいたのね」
「はい…僕のいたギルド、自分で言うのもなんだけど、かなり強かったんだ。っていっても強かったのは周りの人たちなんだけど…」
「そっか…ねえあなた。しばらく他のギルドが見つかるまで、ここにいていいわよ?」
「ほ、本当ですか?お金も道具も、全部俺たちのおかげであるものだから全部返せって取り上げらて、行くところなかったんです。本当に助かります…」
彼は涙が出ていた。きっとかなり思いつめたんだろう。
「フフ、もちろんつけよ?」
「…は、はい!」
「私はアン!よろしくね!」
「僕はヒールといいます」
冗談を少し絡ませて、和ませる。私にできることはこれくらいだから。
「そういえば、ここに入る時表にあった看板って…」
「あー、ここはギルドよ、っていっても今は誰もいない無人ギルドなんだけどね、はぐれもの達の集まりっていう、私の祖父がマスターだったギルドよ」
「あのはぐれもの達の集まり?!」
「やっぱりそんな反応になるんだ…。そうだわ、せっかくだから私の愚痴にも付き合ってよ」
私はこの街に来た経緯や、今日起きたことをヒールに話した。ここに来てから誰とも話してなかったから愚痴が盛り上がってしまった。
「そ、そんなことが、、、アンさんも大変ですね」
「そーなのよ。でね、もう諦めようかなって」
「諦めちゃうんですか?!そんな…」
「もういいんだ。人も集まらないし…」
「…だったら、僕がこのギルドに入ります!」
「えっ…?」
ヒールがギルドに入ってくれるという。その一言が、諦めかけていたギルド再建への気持ちを再び呼び起こした。
「いいの?何の保証もできなわよ?」
「いいんです!アンさんには救われましたから!でもあまり期待いしないでくださいね、追放された
身ですから……」
「ありがとうヒール!早速仕事探してくる!」
「もう真夜中ですよ?!」
私はヒールギルドに入ってくれた喜びで舞い上がっていた。その日はもう真夜中だったので眠りについた。
次の日…
「ごめんなさいヒール、いい仕事とれなかった…」
「仕方ないですよ、最初はどこのギルドもこんなものですよ。徐々に信頼をつかんでいきましょう!」
「ありがとう…で、仕事なんだけど、内容は薬草の納品!うんしょぼいわ。おつかいかっ!てね。とりあえず森でとってきてくれる?」
「薬草なら僕の魔法で作れます」
「じゃあ、作って……え?作れる?」
「はい!何なら最上級薬草も作れますよ?」
「最上級薬草?!それで作られた回復ポーションは欠損した部位すら治すっていう幻の薬草じゃない!?買えば金貨100枚はするわよ…」
ラッキー!これで依頼は簡単にこなせたわ!え?でもこれを売りさばけば…いやいやそれはダメ、ヒールを金づるにしちゃだめよね…。でも疑問が残るわ、こんな薬草作り出せるヒールが何故追放されたんだろう…
「聞いてもいいかしら?なぜそんな力があるのにギルドを追放なんかされたの?」
「それは…」
「嫌なら無理して話さなくてもいいわよ」
「いや、話します。実は、前にいたギルドはもう僕なんかいなくてもお金に困らないほど大きくなっちゃんです。パーティーを組もうにも僕は薬草を作れるだけ、ポーションは持っていけばいいし、戦闘中はポーション飲むより回復魔法で支援した方が効率いいんですよね…。要は用済みってことです…」
ヒール、相当辛い思いをしていたのね。でも安心して、ここにはいたいだけいてくれていいから!
そんなこんなで今日の依頼はすぐに終わっちゃったわ。納品した薬草の中には少し上質なものも混ぜておいたわ。これで信頼と実績を一気に掴む作戦よ!
そして次の日
「ヒール聞いて!今日は薬草採取の依頼が3件も来ているわ!作戦通りよ!」
「良かったですアンさん!じゃあ今日も薬草作りますね」
「……いいの?」
「いいの?とはどういう意味でしょうか?」
「あなた、本当は外に出て魔物と戦ったり、採取をしたいんじゃないの?」
「……どうしてそう思ったんですか?」
ヒールったら核心を突かれた顔しちゃって…わかるわよそんなこと。
「あなたの魔法を使えば一生遊び続けられるお金が手に入るでしょうが、でもそれをしないのは何故?」
「はは、まいったな…」
「一応ギルドマスターですから、メンバーの気持ちくらい理解できないとね。っていってもメンバーはあなた一人だけだけど」
「ありがとうございます。でも今はアンさんの役に立つなら何でもいいんです!」
「そう?まあこんな事かっこつけて言っても、まだ魔物討伐以来とかは来ないんだけどね(笑)」
それから私たちは順調にギルドとしての実績と信頼を手に入れていった。メンバーも少しだけど集まってきて、徐々に大きくなるギルドがうれしくてたまらなかった。とは言えメンバーは全員路頭に迷う人たちでそんなに強くないんだけどね。私はやっぱり祖父に似ているのかしら。
「今日はついてきてくれてありがとうヒール」
「いえいえ、このくらいどうってことないですよ」
この日、薬草納品の帰りの買い物にヒールがついてきていた。少し話をしながらギルドまでの道を歩いていると、少し前に見たことある景色に遭遇した。
「なに…あの人達…」
右に左に真正面にと、とても暗い顔した冒険者が約三名いた。暗い顔の三人は口をそろえてこう言った。
「「「通報はないやろ…」」」
「アンさん…あの人達から、何やら少し前の僕と同じようなものを感じます」
本当どいつもこいつもこの世の終わりみたいな顔しちゃって…
「こらー!下向くなそこの三人!行くとこ無いなら家に来な!まとめて面倒見てやるよ!」
私は三人をギルドに連れて行った。ギルドについてすぐに晩御飯にした後、みんなボロボロだったのでギルドにある風呂に入ってもらった。
「いやーー助かった!本当に餓死寸前だった。ありがとう!」
「食事に風呂に、感謝する…」
「ありがとう女神様…」
女神なんて照れる…悪い気はしないけど
「自己紹介が遅れて悪い。俺はタンカーっていう者だ。人一倍頑丈で、前のギルドじゃタンクをやっていた。ま、攻撃を受けるタイプのタンクはもう古いって追放されちまったが…」
「拙者の名はリュウと申します。とある貴族に雇われていたのだが、給金があまりにも少なく、増額を打診したところ、文句を言う奴はいらぬ、代わりなどいくらでもいると解雇されてしまいました」
「私はノアといいます。鍛冶屋の端くれなんですが、前のギルドでは地味な奴はいらないって…ぐす…」
その日の夜は、新しい三人のメンバーと話が盛り上がった。
話を聞く限り、この三人ただものじゃない。タンカーのいた前のギルドは街一番のギルドだし、リュウとノアは異国出身らしく、リュウは竜の里出身で、里一番の竜騎士だったとか、ノアはドワーフ王国出身で王国一番の鍛冶職人の娘だと言う。
こう言った人材を見捨てるなんて、一体どんなギルドなんやら…。でもこれで、強い魔物退治の依頼がこなせそう。最近人増えてきて資金不足だったし…
タンカー、リュウ、ノアの三人が新たに加わり、この日からはぐれもの達の集まりの快進撃が続いた。
ノアの作った武器、防具はとても素晴らしい性能しており、強くないメンバー達でさえ、パーティーを組んで大型の魔物を倒せるほどだ。それに万が一深い傷を負って帰ってきても、すぐにヒールの作ったポーションで全回復。みんな長期の休みなしで依頼をこなしていく。
そして、わがギルドのエースパーティーは街で一気に名をあげた。ヒール、タンカー、リュウ、ノアの四人パーティーだ。
リュウは自慢の槍と相棒のドラゴンで相手を蹴散らす。正直一人だけでどんな相手でも倒せそうなほどだ。タンカーはどんな攻撃も巨大な盾で防ぎきる。少し地味だけどすごい頼りになる男だ。ノアは自分で作り上げた魔導銃火器で遠距離攻撃、ヒールは薬草に限らずあらゆる効能の植物を作り出し、みんなのサポートをしている。
私は思う。このパーティーならてっぺんを取れると。
それから半年…
はぐれもの達の集まりは街一番のギルドになった。メンバーもたくさん集まり、ギルドも増築をして、前の10倍は大きくなった。でも、どんなにメンバーが増えてもヒールとの出会いは忘れない。あの出会いから全ては始まったから……
「帰ったよアン!」
「おかえりなさい!今回は随分と長かったわね…」
「依頼中偶然出会った魔王を倒したからね…」
「へー魔王…魔王?魔王?!」
「僕は支援しかしてないけどね」
「それでもおかしいわ…」
偶然出会った4人組に急に倒された魔王可哀想…
「それでね、魔王なんだけど、連れてきちゃった」
「へ?」
「なんでも、部下たちに裏切られて路頭に迷ってたんだって…だからアンならこうしたかなって…」
「そうね、いいわよ!家で面倒見てあげるよ!魔王でも神でも何でも来い!」
ギルドはぐれもの達の集まりはどんな者でも来るもの拒まずです。何か困ったことがあったらいつでも来てください!
ちなみに…ヒールのいたギルドはヒールがいなくなったことでポーションが作れず、依頼失敗が続いたらしい。なんでもポーションでできることは魔法でもできるという考えだったそうだ。
タンカーのいたギルドは元々街一番なだけあって今でも大きなギルドなんだけど…追い出したタンカーが新しい街一番のギルドのエースパーティーいることを悔しそうにしている。タンカーもタンカーでたまに前いたギルドを冷かしに行っている。
リュウを雇っていた貴族はリュウの実力を完全に見誤っていたようで、新たに雇われた者たちは、リュウがこなしていた最難関依頼を全くこなせず、その貴族は最近リュウをまた雇おうと必死になっている。リュウは全くその気はないようだけど…
ノアのいたギルドの冒険者達は、ノアの作っていた装備でこなしてきた依頼を自分の実力だと勘違いしていたようで…。ノアの作った装備が壊れてからは全く依頼をこなせていない。ノアは曰くだれが作った装備でも下手が使えばすぐ壊れるそうだ。
何はともあれギルドのみんなが今幸せそうで嬉しい!これからも大変そうだけどきっと乗り越えていけるわ。だってギルドにはみんながいるから!
ノリで書きました。
よくいる追放者4人もいれば世界くらい余裕でとれるっしょ!