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告白は最大の防御  作者: 暗黒星雲
シュレーディンガーの猫と有馬記念
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第5話 『シュレーディンガーの猫』と有馬記念の関係性について

「ミミ先生落ち着いてください。当たってますから」

「まあいいじゃんかミミ先生。一番安いのでも当たってるんだ。2220円ついてるから、6点張りでこれなら上等な結果だと思うんだけどな」

「分かっているのだが、やはり信じられない。まるでパラレルワールドに分岐してしまったかのようだ」


 トリニティと知子の慰めも効果がない。三谷は自身の理論を根本的に砕かれたような無力感を味わっていた。


「パラレルワールドとか存在するの? ミミ先生。これでも、えーっと、3330万あるから借金は余裕で返せるじゃん」


 知子の指摘に皆が頷いている。三谷の借金は二千万ほどなので、差し引き一千万以上残るからだ。突然星子がぼそりと呟く。


「それは『シュレーディンガーの猫』の事だな。相反する事象が重なり合っているのだ」

「あ、星子まで訳わかんないこと言いだしちゃったよ。何それ?」

「うーん。これ大佐が言ってたんだよね。意味わかんないけど」


 一見的を得ているかのような星子の言葉はアニメのセリフだった。


「そうか、競馬とは『シュレーディンガーの猫』だったんだ」

「ギー先生も意味不明です」

 

 義一郎の言葉が理解できない知子が不満を漏らすが、トリニティが何か納得したように頷いている。


「なるほど。量子力学におけるコペンハーゲン解釈の事ですね」

「トリニティ。それ、意味わかんね」

「それはですね。量子力学における確率場の理論なのですよ。『シュレーディンガーの猫』とはですね。概ねこんな事なのです」


 トリニティの説明は続く。


「量子力学、即ち、素粒子を扱うミクロの理論では、全ての事象が確率で表現されます。ところが、マクロの世界、つまり現実世界でその理論を適用するならば、確率で表現されている幾つも存在しうる事象が一つだけ現出している事になります。しかし、観測者がその結果を確認するまでは、その存在しうる幾つもの事象は全て存在している事になる……これは矛盾しているのではないかという論拠を示した思考実験が、いわゆる『シュレーディンガーの猫』なのです」


 義一郎と三谷はその説明にうんうんと頷いているのだが、知子と波里、星子のJK三人組は全く理解できないようで、酷く首を傾げていた。


「トリニティ。スマンが私には理解できない」


 と、天井を眺める知子。


「大佐のセリフと同じだと思うんだけど、やっぱりよくわかんないや。へへへ」


 と、舌を出しておどける星子。


「ごめん。本当に熱が出そう。むむむ」


 波里は頭を抱えて座り込んでしまった。


「いわゆる『シュレーディンガーの猫』とは、密閉された箱の中に猫を閉じ込める。この箱は、猫が二分の一の確率で死んでしまう装置が取り付けられている。一定時間を経過した後、猫が死んでいる確率は二分の一だが、量子論においては、観測者が確認するまで、つまり箱を開けるまでは死んでいる猫と生きている猫が同時に存在しているとする考え方なのです」

「猫は死んでいるか生きているかのどちらかだから、死んでいる猫と生きている猫が同時に存在しているってのは矛盾していないか?」


 知子の質問にトリニティは笑顔で頷いている。


「そう。その通り。矛盾しているでしょ。つまり、シュレーディンガーは量子論における矛盾を、この思考実験で導き出したのです。要するに、同時存在できないものはできないのだと」

「でも、理論的にはそうなるって話なんだろ」

「そうなんですよ。理論的には正しい。しかし、現実には可能性が幾つあっても結果は一つだけしか出てこない。では、何度も繰り返すことができたら?」

「あ、タイムリープって事か?」

「そう。その通り。今回はタイムリープを使って有馬記念をもう一度開催したのです。その結果は御覧の通り。幾つもある可能性の一つが結果となって表れた。それは、当初の予定と違う結果だった」

「わかりやすく二択で例えるんだけど、有馬記念で勝ったキタサンは確率的には八割くらい勝つんだろうけど、つまり、10回レースすればキタサンは二回は負けるって話なのかな?」

「そう考えてもらって結構です」


 知子の問いにトリニティが頷いている。


「競馬に例えると理解がしやすいですね。今回の有馬記念において、僕たちが見たのはその一端です。何回タイムリープしても同じ結果が得られることはないと思います。競馬においては一つのレースにおいて相反する結果が複数内在しているという事なのです。通常、我々はその中の一つを見ているにすぎないのですよ」


 トリニティの言葉に義一郎が付け加える。しかし、まだ納得していない波里が食い下がった。


「じゃあ中山の10Rはどうなの? 結果は同じだったんでしょ」

「それは偶然1~3着が同じだったのでしょう。勝ちタイム、上りタイム、着差など全て異なっていると思いますよ。着順も4着以下は違っているはずです」

「そういうことか……やっと理解できた気がする」


 これでやっと波里も納得したようだ。

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