閑話 王都で蠢く闇
ダン達が『大橋』に差し掛かる頃、王都では――
「くそっ! なぜ第3軍の軍団長がアイツなのだ!」
王都にある自宅で酒を煽って気炎を上げるのは第2軍団の団長であるボスコだ。
先の第3軍の設立の際に読み上げられた人員には、そのほとんどが元々第2軍に属していた者が居たのだが、そのほとんどのメンバーはボスコが嫌っているある人物の息が掛かった(正確には性根を叩きなおされた)者達で更生されていたのだ。
過半数が元第2軍で作られた新設の軍団は、ボスコの頭の中では自分達の手足となって思いのまま動かせる部隊だと考えていたのだ。
だが実際に蓋を開けてみれば、新たな軍団のほぼ全ての団員はボスコの命令を聞かない者達で占められ、それ以外の人員も治癒士達や輜重部隊など、ボスコの貴族としてのプライドが付き合うことなど考えもつかない者ばかりだった。
1人、治癒士の中にはボスコの格に見合う者も居たが、面識はない上、今では第3軍の上位のポストに収まっているという。
思い通りにならない苛立ちは、手にした杯の中身が無くなっていることに気づくと、空になった杯を思いっきり部屋の壁へと投げるという行動に現れた。
椅子からわずかに腰を上げて、手にした杯を『砕けろ』と破壊衝動に突き動かされて壁に向かって投げつける。
人よりも恵まれた体躯で投げられた金属杯が宙を舞う。
「――やれやれ、今日はまた一段と荒れてますな」
突如聞こえてきた声にボスコの体が反応する。
今日は1人で酒を飲んでいたのは間違いない。自宅の中に召使いが数人居るが、家の主人であるボスコの許しなく部屋に立ち入ることは許されない。実際には召使いたちは余計な事をして主人の不況を買いたくないと、各々控えの部屋に引きこもっている。そして唯一ボスコと対等な者である妻は外に「友人のところへ飲みに行く」と言って外出している。
だが今の声は間違いなくボスコの居る部屋の中から聞こえてきたのだ。
そして宙を舞っていた杯を掴む手が、突如として空中に現れた。
「ボスコ殿の自慢の力で投げられては使い物にならなくなりますよ?」
そう言って緩やかにつかみ取った杯をボスコの目の前のテーブルに戻す人物。
「――貴殿か。危うく殺めるところだったぞ」
その人物を見て、ボスコはいつの間にか手にしていた剣を下ろしてから椅子へと座った。
「おおそれは怖い怖い。心に止めて、以後気を付けることとしましょう」
フード付きのマントを室内でも身に着けた人物がおどけたように言う。
「それで? 俺の前に現れたという事は例の物を入手出来たということか?」
椅子に座りテーブルに置かれた杯を手にして中の酒を飲もうとし、中から液体が口に届かないことに気づいて、そういえば空になったのだと立ち上がって部屋の中に備えてある酒瓶から手酌で杯に酒を補充するボスコ。
そんな傍若無人な態度のボスコに、一切の感情も見せずに答えるフードの人物。
「ええ、極上の酒と薬。その両方を揃えました。酒好きには喉から手が出るほどの一品ですよ。特にドワーフには、ね?」
「そうか。それは重畳。……で? 人手の方は揃ったのか?」
「そちらは少々難航しています。が、計画決行の際には間に合うよう、手配は進めさせてもらっています」
フードの人物の言い回しにボスコは不機嫌そうな顔を見せる。
「計画を完遂させるためには、是非とも間に合わせてほしいものだな? お互いに」
「――善処いたします」
それだけを言って、現れた時と同じようにフードの人物はその姿を部屋から消した。
ボスコは手酌で注いだ酒を一口で飲み込むとギチリと杯を握る手に力を込める。
ベコッ! と杯はその形を歪ませた。
「ふん。意地汚い植えた狼のような相手だが、俺がこの街を収めるためには人手が必要なのは仕方がない」
そう言ってボスコは部屋の窓へと歩み寄る。王都における貴族の屋敷とはいえ、規定で2階までしか作れないボスコの自宅。
その屋根裏部屋に作られた部屋から見る王都の景色。
貴族街と呼ばれる区画に建てられたボスコの自宅から、見上げるような高さがある建物が見えた。
王城を見上げ、手酌で酒を杯に注ぐ。
「くくく。待っていろよ、もうすぐ俺がソコに住むこととなるからな」
そして一気に煽る――
「ぐはっ! ぬう、汚れてしまったな」
歪な形の杯からこぼれた酒がボスコの服を汚した。
カッコつけようとして締まらない人っていますよねw
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