進化していたサニー
その日の夜営は無事に何事もなく過ごすことが出来た。
魔物の襲撃も一切なく穏やかな時が流れ、問題は何一つなかった。
そう、夜営については。
*
「やだ」
ようやく開口して出てきた言葉がソレであった。
「そこを何とか」
「やだ。私はポーラと一緒に歩きたい」
ダンが頼み込むも、あっさりと拒絶の言葉が帰ってくる。
先程から拒絶しているのは白い髪を肩から流し、女性物の服を着ているすらりとした手足を持つ長身の女性だ。その背丈はダンと同じくらい高く、ピッと伸びた背筋もあって尚更と背が高く感じられた。
そう、魔法王ルフの変身魔法掛けられて、人種の姿をしている馬のサニーだ。
頑として己の意志を曲げようとしそうにないサニーの様子を見て、ダンがため息を吐いた。
「……はぁ、仕方がありませんね。確か掛けた魔法は、お昼ごろには解けるのでしたよねルフ王?」
魔法をかけた張本人、ルフにダンは再度確認をとる。昨夜寝る前に聞いていたのだが、念のためにと再度質問した。
「ん? ああ。私の掛けた魔法は、おそらく今日の昼ぐらいには解けるはずだ」
何かを考えていたのか、ダンの言葉に若干遅れて反応したルフがそう答える。とっさの魔法とはいえ、自身が掛けた魔法の魔力量を忘れるほどの緊急事態では無く、ルフは自身の感覚からそう断言することが出来た。
サニーは人の身になれてポーラに抱き着くことが出来たのがよほど嬉しかったのか、ポーラの顔に頬擦りを繰り返している。
馬の姿時にもサニーに頬擦りされていたポーラだが、自分と同じ人種の姿のサニーから頬擦りされてやや困惑気味ではあったが、それは別に嫌そうな雰囲気というのではないので問題は無さそうだ。
実際ポーラは動物達とのスキンシップは慣れたものだが、人とのこういったやり取りは慣れていないので戸惑っているだけのようだ。相手も見知らぬ相手というわけではなく、目の前でその姿を変えた愛馬なので抵抗感は特に感じてはいないのだった。
そしてサニーの願いというのも、「ポーラと(同じ目線で)一緒に歩きたい」というものであった。
いつも馬の姿でポーラを背に乗せてはいたものの、人と馬では体高が違うため、仮にポーラが地面に立ってサニーと並んで歩いたとしても、今と同じ目線の高さ(それでも今のサニーとポーラが並ぶとサニーの方が頭1つ分はズレているのだが)にはなりようがなかった。
それが人の姿になったことで願っていたことが叶うと分かってから、サニーはポーラから離れる様子は一切見せなかった。
とりあえずルフの言葉もあり、ダンは朝食を済ませると昨日に引き続き草を払いながら西へと進んで行く。
ちなみに今朝からルフ達3人はその姿を変えていた。とはいえそう大きく変えたわけではない。
「しかし随分と人っぽくなりましたね?」
「そうだろう? ちなみにステータス自体も変装しているのだ。かなり上位の神官かステータスの詳細を調べられる魔法具でもなければ、今の我々は『人種』と出るはずさ」
青白かった肌は肌色をした肌に、微妙に反響した様な声も普通の人が話す声のレベルまで落ち着いている。
変装魔法とルフが名付けた魔法だ。
詳細な説明は理解出来なかったが、どうやら魔力を薄い膜上にして対象を覆い隠すように発動している魔法らしい。戦闘などの激しい行為をすると解けてしまうが、日常的な動作ぐらいであれば継続して掛けることが出来るようだ。
そして今朝の朝食で判明したのだが、どうやら『不死人』は魔力を多く含んだ食材であれば味を感じ取ることが出来る様だ。
ちなみに判明した理由は、朝食の食材にとマジックバッグに死蔵されかかっていた牛型魔物の肉を提供したことで判明した。
今日の草刈りメンバーはダンとキョーコ、それとルフとアレックスという組み合わせだ。
ダンとキョーコは持ち前の武器を使って。
そしてルフとアレックスはというと――
「う~む。やはり実戦から離れていた空白期間のせいか、魔法の狙いがわずかにズレるな」
「私の氷の魔剣も造形が甘くなってしまっていますね」
ルフは風魔法や水魔法などを中心に各種属性魔法を使って草刈りをし、アレックスは塔で見せた魔法剣である氷の魔剣を1本生み出して、それを手に草を薙ぎ払っていた。
ちなみに2人はダンとライの予備の服を着ている。
「器用なものですねぇ」
ダンも草を刈りつつ、そんな2人の魔法を見て感嘆とした声を上げた。
「いや、そんなダンさんも大概だと思うけど?」
キョーコのやや呆れたような声に首を傾げるダン。『自分はそれほど変な事はしているつもりはないのだが?』と思いつつ、左の鞘から抜き放たれた右手の刀で草を刈っていく。
1回切る毎に刀を鞘に納刀しては、再度抜刀を繰り返す。
ニアラの街でヒドラに溶かされた1つ前の鞘と同じように作ったがわずかに寸法が違ったようで、刀を抜くときに本当にわずかだが違和感を感じていたのである。
コクシン・テットウサイを幾度となく抜き差ししていけば、鞘の内側の違和感部分を刃で削り落としてくれるだろうと考えての行動だ。
そんな考え事をしつつも草を刈るダンに、アレックスが何やら納得するように頷いている。
「さすがあのダンの子孫だな。是非とも手が空いたら私と手合わせをしてもらいたいものだ」
「いや~? さすがに『手が空いたら』なんて考え方じゃなくて、本気で殺りあうくらいの気持ちで考えた方がいいですよ?」
迂闊な発言をしているアレックスにキョーコが釘を刺す。
これはキョーコなりの本気のアドバイスであった。ダン相手に甘い考えで訓練を持ちかけると地獄を見る。と本気で思っているからこその発言だ。
「……普通の手合わせだぞ?」
「まあ、さすがにダンさんも命のやりとりまではしないと思うけど」
キョーコの言葉をアレックスは『加わったばかりのメンバーを和ませるためのジョークかな?』などと捉えていた。
この微妙に思い違えたことが後にどう影響するかは神のみぞ知る。
「それよりもその武器。もしかして黒鉄鋼製なのか?」
アレックスは話題を変えようとキョーコの手にした武器に目を付けた。
「ダンさんがそう言ってたし、そうだと思いますけど。それが何か?」
キョーコが呆気なく言うが、それにアレックスが食い気味に反応した。
「いやいや、君は魔法使いだろう? それなのに武器に黒鉄鋼を使っているのが不思議でね。黒鉄鋼なんて魔力を通しにくい金属の上位に入るじゃないか。だから何か理由があるのかな? と」
「は?――ちょっと詳しく教えてください」
アレックスの言葉にキョーコが反応した。
「まあ私もそう多くは知らないのだが、魔力を通しにくい、逆に魔力を通しやすい素材がある。ミスリルなどは通しやすい金属筆頭だな。その他にも色々あるが、逆に魔力を通しにくい素材として多く出回っているのが黒鉄鋼だ。おまけに普通の鉄よりも重いし武器に向いているかと言われると……。鈍器、などが素材の特性に沿った武器だな。どちらかと言えば黒鉄鋼は防具に多く使われるんだが……、例えば盾とか」
「あ~、やっぱりそういうことか」
「やっぱり。ということは実感はあったのだな? というか訓練と捉えれば、君はもしかして魔法剣士系の教育を受けている途中かな?」
「いえ普通の魔法使いを目指してます!」
アレックスは自身も経験したことのある訓練を思い出し、キョーコが純粋な魔法使いとしてではなく魔法剣士系として成長途中なのかと思ったのだが、その考えはキョーコにすぐさま否定されてしまった。
「ダンさんの訓練方針で、『魔法使いでも直接戦えるべし』って鍛えられてるだけですよ」
その訓練をあまり思い出さないように、ただ無心で手にしたナギナタを振るうキョーコ。
あまりに素っ気ないトンデモナイ答えに、アレックスは疑問符を大量に浮かべた顔をしていたが。
*
そんな雑談を続けていると、気づけば日の光が頭上から注いでくる。
正午だと気づいて一時休憩をしようと座る場所を手分けして作っている時、ダンは何気なくポーラの方を向いた。
そこにはポーラにべったりと寄りそうサニーの姿があった。
人種のままの姿で。
「……ルフ王? サニーの魔法ってまだ解けないんですか?」
「ふむ?――知識の神の座。そこにある知識の泉より紡がれし詞を我が元に届けたまえ。鑑定魔法」
ルフが詠唱を唱えて鑑定魔法と唱える。ダンの目には闘気を微妙に絡めた、複雑にして精巧な魔法の行使が見て取れた。とはいえ魔力の変質には何をどうやっているのかダンにはさっぱり分からなかったのだが。
ともあれ、ルフの魔法がサニーの姿を捉える。サニーも自分に何かが絡んできているのに気づいた様子だが、それが不快ではあるものの、敵意ある攻撃ではないと気づいて好きにさせ始めた。その辺りは動物ならではの本能か。
ルフはサニーの状態を読み終えると魔法を解除する。
「何か分かりましたか?」
ダンの問いかけにルフは自分で確認したサニーのステータスを告げる。
「ああ。サニーは『バトルホース』に進化しているな」
「ほう? 軍馬ですか」
軍馬ともなれば滅多な事では驚かないし魔物相手にも怯えることがない。普通は調教と本人(この場合は本馬か?)の素質によって成れる馬と成れない馬が分かれるところだ。
だがそんなダンの思考を読んだのか、「違う違う」とルフが告げる。
「サニーがなったのは『バトルホース』。調教で作られた軍馬ではなく、れっきとした魔物カテゴリーに入る言わば『魔馬』というヤツだな」
「……え?」
「レベルアップに加えて、どこかで魔物の魔石も食べていたのではないか? 野生の馬でも時々『バトルホース』に進化しているのも居たことがあったなぁ」
「ええっと?――あ、そうだ魔法の方はどうだったんですか?」
とりあえずサニーの進化を横に置き、ダンは調べる切っ掛けとなった変身魔法が解けているか尋ねた。
「ああ、そっちは分かった。……現在、サニーは魔法が掛かっていない」
「ふ、む? 掛かってない? ということは馬の姿に戻っているのが正解では?」
「そこはホレ、お主の身内にも居るだろう?」
言われても頭が追いついていないダンには答えが出てこない。いや、頭では答えを認めたくないのだ。
しかし無情にも、ルフに答えを言われてしまった。
「自分で『人化』したんだよ」
「えええ~!?」
サニーの思わぬ進化にダンが驚きの声を上げた。
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