ダンの家系とまだやらかしていた王様
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ダンの家系に王家の血筋の者がいる。
そう言われたダン当人は一応自分が知っている記憶を掘り起こして確認してみた。
「……やはり王家に所縁のある人が居た。とは聞いたことが無いんですが?」
それに対して魔法王が驚きの表情で答える。
『まさか。初代ダンの妻は初代クロフォード王の実の姉だぞ?』
まさかの初代様だった。
てっきり途中の世代に居たのかと思いきや、『ダン傭兵団』と名乗る前から居たとは思わなかった。
確かに王族と関りがある一族だとは聞いていたが、ダンが聞いたのは初代クロフォード1世から依頼を頼まれて動いている。との事だけで、初代が結婚をした相手が魔法剣士だったようだ。くらいの伝聞しか聞かされていなかったからだ。
『その魔法剣士が初代クロフォードの姉に当たる人物で合っているぞ』
ついでに言えば『ダン流刀術・鎧落とし』を編み出す切っ掛け&初被害者でもある。
『しかし私が西の『沼地』を封印してから、ダンの一族は『北の地』へと向かったはずだが……。いったい何年経ったのだ? それほどまでに北の土地は攻略しづらいものだったのか?』
「あ~、まあそれなりに強い魔物達は出てきますが……。攻略が進まないのはクロフォード王国からの兵站が届かなくなった上に、土地の税金とやらを要求され始めたからでして」
ダンの説明に、魔法王は表情を無くして首を傾けた。
『何を言っておるのだ?』
「何を言ってるんでしょうね?」
しばし真顔で視線を交わす2人。
『いやいやいや。……は!? 誰なんだ? そんな阿呆な事を言っている馬鹿者は!?』
「あなたの子孫。今のクロフォード王の、そのまた先王ぐらいですかね?」
ヒュルリと吹くはずのない風が吹く。
静寂が『時』を支配し、その『時』に縛られたかのように動きを止める者達。
体感で異様に長い時間が経過した後、『時』は動き始める。
『ま・こ・と・に、申し訳なかった~!!』
それはそれは綺麗な土下座をする王様がそこに居た。
身なりは布一枚という貧相な物であったが。
*
「ん~? つまりどういう事態が発生したと思われるんですか?」
いきなりの土下座で謝意は感じることが出来たが、そこに至った経緯などが説明されていないので、ダンは頑固に土下座を続けようとする魔法王を無理矢理に上体だけ起こして説明してもらうことにした。
『私が『封印魔法』を更なる完成したモノとしてから息子に渡そうとしたのが、そもそもの原因だったのだ』
いきなり説明を端折られた。ダンですらそうと分かる話の出だしに、救いの手はどこぞにあるのかと周り見渡すと、王様の後ろに控えていたメイド姿のエミリーがそっと前に出てくる。
『まず我々の時代を詳しく説明いたしますと』
そう切り出した説明はこうだった。
当時のクロフォード王。目の前にいるルフ・クロフォードは王家に代々伝わっている『ある秘密』の為に若かりし頃は冒険者として自らの力を高めていた。
その際にパーティを組んでいたのがここに居るアレックスとエミリー、そして塔がダンジョン化した際には王都に居た、後にルフと夫婦となるセレスティナという4人であった。
王国内を旅して修行を続けていたルフ達一行は、その旅の途中で剣の一族頭領のダン(この時代もダンという名前だった)と出会い、互いの出自を詮索することなく(そもそもこの時点ではお互い気づいていなかった)付き合いが生まれる事となった。
それから年月が経ち、王位を継承したルフとセレスの間に子が生まれ、先王から一子相伝とされた『秘密』。初代王の意志と国の生まれてからの歴史、そして『封印魔法』を伝授されたルフの元に、王国を陰で支えてきた剣の一族から『封印魔法』の行使の打診が届く。
その頃には核心に触れない範囲で、かつてのパーティメンバーにはルフから事情説明がなされていたので、なぜ若いとはいえ王族が修行の旅をしていたのか仲間達は知っていた。
そしてかつてのパーティを再結成すると、西の地で剣の一族と合流を果たし(ここでようやくルフとダンがお互い誰なのかを知る)、様々な紆余曲折、艱難辛苦がありつつも見事王国の西に広がる『人の踏み入ることの出来ない沼地』。当時は通称『姿隠しの沼地』と呼ばれる魔境の核を『封印』することに成功。
それから数年が経過した年がエミリーたちの最後の記憶だと語った。
*
「……えっと、それで先程の魔法王――ルフさんの言葉とどう繋がりが?」
『詳細な口伝内容は私も存じ上げていませんが、王様が当時の坊ちゃ――んん、王子に伝えていたかと問われますと――』
エミリーが言葉を投げた相手、ルフはバツが悪そうに横を向いている。つまりはそういうことなのだろう。
「つまり伝え忘れていた。と?」
『いや、そう! タイミングが合わなかったというヤツで!』
ルフがなにやら違うというように言うので、ダンも言葉を改める。
「失礼。『まだ言うべき時ではない』と思っていたら、実験で爆死したと?」
ダンの言葉に黙り込むルフ。
「しかしそれにしても妙ですね? 詳細な事が伝わっていなかったとしても、セレスティナ皇后はまだ生きてらっしゃるのですが?」
『――なんだって!?』
「いえ、夫婦だったら知っているでしょう? セレスティナ皇后の種族を」
疑問符を浮かべるルフに、ダンが『なんでそこで疑問を持つ?』と言う顔をする。
『あ! そういえばセレスはエルフだった!』
『更に言えばハイエルフだったかと? まあ自己申告が正しければですが』
なぜか驚くように思い出したルフと、自然な流れで毒を吐くエミリー。
「なぜ言われるまで思い出さなかったんですか?」
『いや~、私はセレスの魔力の強さに魅かれたからなぁ。顔だの種族だのはあまり意識してなかったから、言われるまですっかり忘れてたよ』
さすがにルフの発言にダンの顔も引きつる。ここまでくれば筋金入りの『魔法馬鹿』と言ってしまってもいいだろう。というかセレスティナはこの事実を知っててルフと結婚をしたのだろうか。
『ここだけの話、いつか我が王がうっかり喋ってしまって死ぬことにならないか? と、近衛達とメイド達の間でひそかな賭け事の対象となっております』
こっそりとアレックスから耳打ちをされるダン。聞かなかったことにしようと思った。
『――そういえば王様。こちらに来る前、王子が親しくされていた商家のご息女との事はお認めになられたのですか?』
ふと昔の記憶を辿っていたエミリーが最近の(とはいってもエミリーたちにとっての時間だが)出来事を思い出してルフへと尋ねる。
『うん? 『友人』として付き合うのは問題ない。と、ちゃんと伝えてきたぞ?』
『……アレは遠回しに『恋人として付き合いたい』という王子の言葉だったかと思いましたが?』
『……まあ人の恋愛に親だからと口を挟む気は私はないから、あいつの好きにすればいいんじゃないか?』
そう言ったルフの言葉に、エミリーははっきりと落胆した顔で盛大な溜め息をついた。そしてダンの方を向いて『たぶんに推測が入りますが』と前置きをしてから話し始める。
『おそらくセレス様はアレックスや私と同程度の説明しかなされていなかったと思われます。そしてダン――失礼、我々と会った事のある昔のダンの事は、多少の縁があって冒険者または傭兵として参加していたと考えているでしょう』
『え? そんな認識?』
エミリーの説明にルフが思わず確認する。どうやら自分の中では詳しい説明をしていたと思っていた様だ。
『はい、そんな認識です。そもそも西の地で合流した時に『我々に協力してくれるダンとその一族だ』としか説明を受けてません』
『……確かに。そんな記憶しかないな』とアレックスも言う。
『いや、しかしあんな大事に来てくれた――』
『それは昔のダンと初めて会ったのが西の地だったならばの話でしょう。我々はその前に会っているのですから王様がその時の縁を頼り、何らかの伝手を使って呼んだ援軍だと思いました』
エミリーの説明にダンも「ああ、なるほど」と頷く。
確かに既に出会っている者がその場に現れた理由としては至極まっとうな理由だ。詳しい説明もなければ、そういった理由が想像できるだろう。
『更に言えば、ダンの一族がその後『北』の方角へ向かったという事実を我々は知りませんでした』
『それは、まあ、王家の秘密のようなものだから――』
『それらを含めてセレス様もご存じなかったとなれば、王様亡き後の王子の行動を特に縛ることなく成長を見守ったかと思われます』
『しかし、我が一族の使命は――』
なおもエミリーの予想に食いすがるルフに、『王様』と冷え切った目で言うエミリー。
『その使命というのを、伝え忘れたのですよね?』
『いや、しかしそこのダンが言うにはセレスティナはまだ生きて――』
『我々も聞かされていなかった話。セレス様には伝えましたか?』
『あ~、その~……。妻として迎えたがそういった大事な話というのは~、したっけかなぁ? ぐふっ!?』
何とも煮え切らないルフの頭に手刀を叩きこむエミリー。
『……当事者ではなく、あくまでも推測での話ですので、確実ではございませんが』
そういってダンへと一礼をするエミリー。
「分かりました。……う~ん。しかしそうなると『北の最前線』の攻略はそもそも不可能ということになるのかな?」
ダンもその辺りの詳しい説明を受けていたわけではなかったので、まさか攻略の要として王族の保有する『封印魔法』というのが必要になるとは思ってもみなかったのである。これが無ければスポットの攻略自体が不可能だと言われてしまえば、現在のダン一族の北の地での戦いは全て無駄な行動となってしまう。
『うむ。それについては私に良い考えがある!』
ダンの心配事を聞いて、復活したルフがそう言い放った。
『念のため』と頭で考えながらダンが問い返す。
「……どんな考えでしょう?」
『なに簡単な事だ。私がその地へ行けばいい!』
そう言われてダンは首を傾げる。
「行けるんですか?」
『私が開発した『簡易鑑定魔法』で、私たちが何者なのか? は判明している。――詳細な鑑定はまだ出来ていないが』
最後に小さく何かを呟いたが、ルフがそうダンへと言った。
「え? 自己診断魔法って昔からある魔法じゃないんですか!?」
『今ではそう言うのか? 昔は神殿や冒険者ギルドに派遣された神官が調べていたが、それでは面倒だと思い私が作成した。神属性と名付けた神の領域に有る世界のシステムにアクセスする魔法で、それを使うことによって神官が読み取っている情報へとアクセスすることに――』
「あの~。ちょっといいですか?」
何やらルフの説明が過熱し始めた時にそれを遮るように発言する者がいた。
それは珍しいことにポーラだった。
申し訳なさそうに挙手をしながら言うポーラへダンが問いかける。ちなみに話の腰を折られたルフは非常に不快そうな顔をしている。
「どうしましたポーラさん。君にしては珍しいことですけど?」
なにやらモジモジと非常に言いづらそうな様子のポーラ。しかし言わねばならぬと口を開く。
「えっと、トイレを借りたいなぁと」
そう言ったポーラに『なんだそんなことか』とルフが応じる。
『エミリー。すまんがこのお嬢さんを』
同性のエミリーを案内へやろうと声を掛けようとして、相手のポーラから待ったが掛かる。
「あ、私じゃなくて――」
ポーラが振り返った視線の先をルフも追う。その視線の先にはブルブルと震える馬体が――
『馬ぁ!? なんで? なんで馬がここにぃ!?』
人よりも大きい馬体が視界に入っていなかったわけでは無いはずだが、どうやらあり得ないものとしてルフの認識から外されていたらしい。
サニーは戦闘の開始時。いやこの階に上ってきた時から当然ダン一行の中に居た。
さすがに誰も居なかったとはいえアンデッドの徘徊するダンジョン内である塔4階に置いてくるわけにはいかなかったからだ。
一応、人用の簡易トイレ(この場合は壺など)は備え付けてあっても、馬の排せつ物の量をカバーできる訳もない。ルフや案内を言われかけたエミリーも慌てている。
『そうだ! こんな時こそ魔法で――かの者の姿を変えよ、『変身魔法』!』
ルフが何かを思いついたように魔力を練り上げて魔法をサニーへと向けて放った。
殺意を感じなかったダンはその魔法を見送り、ポーラが何事かと悲鳴をあげる。
「サニー!?」
ルフの放った魔法の光がサニーへと当たると、サニーの体全体に光が広がり、そしてその光が形を変え始める。ウネウネと姿を変えるサニーにポーラは絶句してその変化を見届けるしかなかった。
時間にして数秒だったが、その光のウネウネが落ち着くと光が収まっていき――
「――誰ですか?」
そこには一人の女性が立っていた。すっぽんぽんで。寒いのかブルブルと体を、震わせて――?
『早くトイレへ案内するのだ!』
「サニーですか!?」
ルフの言葉にダンは驚き、エミリーは自分の変化を分かっていないサニーの手を取って、ポーラと共に下の階へと小走りで向かっていく。さすがにこの階には簡易トイレはないのだろう。
あまりに驚愕の展開に仲間達も連れ立って下の階へと移動していた。
ルフは? と言えばエミリーのもう片方の手で耳を引っ張られて連れていかれた。おそらくは事情説明要員だろう。あんな魔法はダンも聞いたこともない。アレックスはそんなルフの後ろについていった。
ついていっても目的は『サニーのトイレ』なのだが? と思いはしたが別に止める必要もないだろうと、ダンはとりあえず先程破壊してしまったアレックスの鎧の破片を拾い集める。複雑な鎧関節は不可能だが、簡易な胸当てなどの鎧として打ち直せるかと思ったからだ。
「あ、私のゴリアテ……」
「ん? そうでした、あなたのゴリアテでしたよね。とはいえマロンは行ってしまいましたから……、ダン! ちょっと手を貸してくれませんか?」
鎧の破片を拾っているダンにイリアが声を掛けてくる。顔を上げればイリアの『妹』を背負っている姿のイリアが何かを指さしている。その先には先ほどまでルフが座っていたゴリアテの胴体がある。
あらかた鎧の破片を拾い終わったダンは下で戦利品を入れていたマジックバッグに同じようにしまい込むと、イリアと共にゴリアテの胴体の前へと移動した。
よく見ればゴリアテの胴体の下は塔の床と強固に接続されていて、ちょっとやそっとの力では転倒しないようになっている。当然、移動させるのも困難だ。
だがダンはそんなゴリアテの胴体へと両手を伸ばして掴み腰を落とす。そして――
バキバキッ!
「ふん!」と掛け声一発で床から引っこ抜くようにゴリアテを持ち上げた。
「ふう。これでいいですか?」
そして『ちょっと力仕事をした』という感じに額を拭うと(汗などは一切かいてはいない)、自分の持っているマジックバッグへとゴリアテをしまう。
そんな光景をイリアに背負われながらも見ていたイリアの『妹』は、力がない表情でも唖然とした表情を浮かべていた。
そんなに自分が変なのか? と視線でイリアに問いかけるダン。
当然ながらイリアは『妹』を背負っているので、その表情を視界に入れることは出来ない。だから別の解釈をして返事をする。
「大丈夫。ダンの非常識はこれが最初ではありませんから」
何はともあれ『妹』の気にしていた事に決着したので、イリア達も皆を追って下の階へと歩き始めた。
ダンも納得いかない顔をしつつも皆の後を追う。
その背後で1つの小さな石片が床に落ちたことに、まだ誰も気づいていなかった。
面白かった、続きを読んでみたいなと思っていただけたら、
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イノシシが踊ります。




