メイド長エミリーとの戦い
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リルとロウキは油断なくそのメイドの姿を見ながらその立ち位置を変えていく。
その姿は下の階に居たメイドたちと何ら変わることは無い。
しかし2人の本能はこのメイドが強敵であると告げている。
『どうされましたか? 周りをただ歩くだけでは戦いにはならないと思いますが?』
直立不動。
ただそこに立っているだけのはずなのに、飛びかかった次の瞬間には反撃されている自分達の姿が想像出来た。
2人は分かれて左右を歩いている。そしてちょうどメイドを挟んで向かい合う位置へとついた。
「やるぞリル殿! 仕掛けてみなければ向こうの手の内も読めん!」
「仕方ありませんね。同時に行かせてもらいますよエミリーさん!」
『……いつでもどうぞ』
リルに名前を呼ばれたエミリーがわずかに表情を変えたが、また普通の表情に戻って2人を促すように声を掛けた。
視線を交わしてロウキとリルが同時に走り出す。
「「!?」」
その2人の顔を目掛けてダガーが投じられていた。
さらに何処から出したのか、姿勢は変えないままエミリーの両手には別のダガーが握られている。
リルは自身に迫るダガーを籠手の手の甲部分を巧みに使い軌道を逸らし、ロウキの方は爪を揃えて空中のダガーと打ち合いコレを落としていた。
二人の足は勢いを殺すことなくエミリーへと迫る。
リルの拳とロウキの爪がエミリーへと繰り出された。
『力押しだけでは私を捉えることは出来ませんよ』
「なっ!?」
「避けられた?」
弾かれるようにエミリーを通り越していく2人。
リルの拳とロウキの爪は同時タイミングでエミリーに届くと思われたが、エミリーはその攻撃をゆるやかに体を1回転させて受け流してしまった。
目にした動作は単純に見えたものだったが、実際は手にしたダガーをそれぞれ拳と爪にそっと添える様に当てて、お互いの突進力を殺さぬように斜め方向へとずらしつつ誘導。自身はその力を受け流すように、足を軸に回転することで2人の力をそれぞれに受け流す。
リルとロウキの素早い速度に対応しつつ、その動作を2人相手に同時に行ったのだ。
『なるほど。速度も力も、それなりにあるようですね』
「それなり、とは言ってくれるな」
「『受け流す』ということは『受ける』のは避けたということでしょうか? 次はその身体の芯を捉えてみせますよ」
エミリーからの評価にロウキは苛立ったように応えるが、リルは拳に帰ってきた感触から『攻撃が当たればダメージを与えられる相手』と読んだ。
『想像にお任せします』というエミリーに、今度はタイミングを合わせることなくロウキが突っ込んでいく。おそらく頭に血が上ったのだろう。
時間差攻撃を考えたリルはこれ幸いとロウキと打ち合うエミリーを見据えて、自身が飛び込むタイミングを計る。
爪とダガーが幾度となく交差する。
さすがにその場に立ち止まったまま受けるのはエミリーでも無理だったのか、ジリジリとした動きながらもその立ち位置を変えていくのが見えた。
ロウキの攻撃をダガーでさばいていくエミリーを見る。ロウキの爪がエミリーの振るうダガーに当たる直前で――
「アーツ『オーラショット』!」
攻撃を弾いた直後、次の動作へと繋げることの出来ないタイミングで、リルは自身の拳から闘気によって作られた闘気弾を撃ち出した。
ロウキの爪を弾いたダガーでは防ぐことが出来ない。もう片方のダガーを振るおうにも体が流れてしまっているのでそれを防御に回すことも出来ない絶妙のタイミング。
だがエミリーはそれすらも躱した。
エミリーの体が倒れる様に後ろへと傾くと、エミリーの胴体を狙って放たれた闘気弾は何もないところを通過しリルの攻撃は躱された。そして床へ倒れ伏す前に不自然に空中で止まっていたエミリーの体が後方宙返りをするように回転する。
どうやら長いスカートで見えなかったが、エミリーは膝を曲げて今の攻撃を躱していた様だ。そして膝を曲げたままでも床に立ち続けて、攻撃を躱した後に床を蹴ってまた直立した状態へと戻ったようだ。
『なるほど? アーツによる遠距離攻撃も出来るようですね』
そう言ったエミリーはなぜか手にしたダガーを消した。
「む? もう終わりか?」
『いえ、あちらでアレックス様も魔法剣を披露し始めたようですし、あなた方もまだ全力で戦ってはいませんよね。でしたら私も少し本気を出そうかと思いまして』
そういったエミリーが両手でスカートを持ちあげる。
それは上品な挨拶をするように――
『では『メイド』としてのエミリーはしばし休業させていただきます』
バサッ! とスカートを一気に頭上まで持ち上げてメイド服を脱ぎ去った。
一枚の大きな布が広がるようにエミリーの姿が足元から現れて行き――
『おーっほっほっほ! さあ、遊んであげるわ小猫ちゃん♪』
現れたのは別人だった。
黒革で作られた上下に分かれた革鎧を見に包み(しかしその下に肌着は無く素肌が大きくむき出しで)、足元も腿の辺りまで覆う黒いタイツのような防具とこれまた黒革のブーツを履き、腕周りはいつのまにやら身に着けていた二の腕まであるロングサイズの黒革で出来た指出し手袋を身に着けている。
しかしよく見ればその顔は先程まで相手をしていたエミリーのものだった。
ニコリどころかニヤリという笑みを浮かべていたが。
「「うわぁ」」
2人はその変化を見てそう呻くしか出来なかった。
正直な気持ちを言ってしまえば元が人ではなかったリルとロウキですら、もしも街中で同じような格好をした人物とすれ違ったら10回中10回とも引く服装だった。
すなわち『やべぇ人』だ。
『あら? 言葉も出ないほどかしら。これは伸縮性の高い高位の魔物の皮で出来ていて――』
装備ではなくその姿に言葉が出なくなっているのだが。
『そして武器も』
パッ、ピシッ! と空を切る音と床を打つ音が同時に聞こえる。
エミリーがその手に持っているのは防具と同一の素材で出来た黒革製の鞭であった。
『冒険者時代、『自在槍』と呼ばれたコレの前に、あなた達がどれほど頑張れるかしら?』
「「槍?」」
リルとロウキはダンから訓練ということで、世に出回っている武器を大体は見せて貰った記憶がある。その記憶からすればエミリーの持つ武器は間違いなく鞭で合っているはずだし、槍といえば普段から槍を持っている仲間が居るからその形状を間違えるはずもない。
しかし疑問を浮かべる2人に対してエミリーが笑いながら声を掛ける。
『そうよ。見せた方が早いかしら、ねッ!』
そう言ったエミリーの腕が横に振るわれた。
ダンから武器の特徴を聞いていたリルとロウキは、鞭が『腕の延長』に振るわれる武器だと説明を受けていた。武器を持った腕の振るわれた動きをわずかに遅れてついてくるものが鞭だと。
ゆえに横に振るわれたのなら上下に躱す。
リルがジャンプして飛び上がり、ロウキはすばやく両手をついてしゃがみ込んだ。
その行動は鞭使いを相手にするならば最適な行動だっただろう。
しかし――
『言ったでしょ? 『自在』だって』
エミリーの言葉に合わせる様に鞭が空中でその動きを止める。そして鞭の先端だけが生き物のように動くと、鞭は空中に居るリルへと突き刺すように伸びていった。
鞭とはいえばその武器としての長さの分、始点となる腕の速度をさらに増して、その速度で相手へ裂傷を与える武器である。決して先程のような動きをするものではない。
それを可能とするならば――
「闘気ですね?」
空中で自由に身動きできないと思われたリルだが、その両手で鞭の先端を捉えようと構えていることに気づいたエミリーが、鞭を持った手の手首を軽く動かすと長い鞭の全てがその手に戻っていた。手品と見間違えるくらいの早業である。
そして満足そうな顔をして頷いたエミリーが口を開く。
『そう。私は闘気を操作して、鞭の動きを完全に支配下に置いているわ。その際に鞭自体の硬度も調整して、そんじょそこらの槍にも劣るものではないと思ってる。本当は片足を潰そうと狙っていたんだけれど、あなた随分と身軽ね?』
「なるほど、だから自在槍ですか」
物質の硬度をあげるアーツはダンに見せて貰ったことがある。その時にダンが使った物は盾だったが、ダンの説明では武器でも当然使えるアーツだそうだ。
しかし先程エミリーが見せたものは鞭のしなやかさを残した動きだった。硬さを維持したまま鞭特有の柔軟性を両立させるというのは、言葉以上に実行するのはとても大変なものだと思う。
おそらくエミリー独自のアーツなのだろう。
そこまでを本能から導き出された結論としたリルとロウキに対して、エミリーは手に纏めていた鞭を自身の周りに置くように解き放つ。
ダンが見せてくれた普通の鞭の挙動とは違い、エミリーはこの状態から、まさに自分の望む通りに鞭を動かすことが出来るのだろう。攻撃にも防御にも使えそうだ。
『さ、掛かってらっしゃい?――それとも怖気づいてしまったかしら?』
エミリーの挑発に、しかしリルとロウキは更なるやる気を漲らせ、
「ふん! その鞭をかいくぐって一発入れてやる」
ロウキはフンスと鼻息を荒くして再度身構えた。
「あまり私達を舐めない方がいいですよ? えーっと、エミリーおばさん」
リルは挑発をし返そうと少ないボキャブラリーからそう言った。
『ふふふ』とエミリーは何でもないことの様に笑って――
『――ぶっ殺すぞ、このガキども!!』
青白い顔を赤くするほどの怒気を放ちながらリルとロウキに対して鞭を振るうエミリー。
さすがに『おばさん』発言は許せなかったようだ。
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