過去の王と対面する
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最上階へ続く階段は直ぐに見つかった。
3階から上がってきた階段の通路を挟んだ反対側にあったからだ。
通路を真っすぐ行けば階段に至る導線は、もうこの階からは防衛というものを考えていない造りだった。
おそらく最終防衛線は3階のゴーレムまでで、4階からは生活の為の空間だったのだろう。
「ひょっとするとこの4階だったら、簡易結界を使わなくても休めたかも?」
「いや、さすがにそれはどうかと?」
ダンの『もったいなかったかなぁ』という気持ちが見える発言に、ウェンディはさすがに頷くことは出来なかった。
「アンデッドの発生するダンジョンなどでは、やはり魔法などでの安全確保が出来ない場所での休憩は、逆に体力の低下を招くと聞きます。もしかしたらですが、ダンジョン自体に闘気が吸われてしまうことも考えられるのではないでしょうか?」
「あ~。確かにあり得ますね」
言われて得心をするダン。
肩が少し凝るくらいだが、保養地に入った頃から微妙に体が強張っている気がする。
ボキボキッ! と肩を回してコリを解す。
「あ、そういや柔軟体操してないな」
それくらいの気軽さでダンに流されるぐらいのモノだが。
「……気の持ちよう。ですかね?」
「そう、ですか?」
まさに的を得たウェンディの詠みであったが、規格外1人が居るだけで思わず考えが揺らいでしまう。
そんな真理から遠ざかりつつも、ダン達は最上階へと足を踏み入れた。
*
「これはまた、最上階だからと思いっきりましたね」
ダンの視界に入ってきた最上階の様子。
それは一切の視界を遮ることのない大きな1室だった。
塔の最上階だからと外周の壁で天井を支えているのだろう。部屋の中には一つとして柱を設けることもなく、壁から天井を支える骨を渡してある構造は、本来の大きさ以上の広さを感じさせるものであった。
そんな広間の中央。そこに1つのモノが据え付けられていた。
「アレって、イリアさんのアレに似てますね?」
「アレって言わないでください。ゴリアテです!」
そこに据え付けられているのはゴリアテの胴体部分。その乗り込むところが剥き出しとなった、例えるならばゴテゴテとした大げさな椅子だ。
そのゴリアテの胴体には何かの管や紐、さらに言えば足元には怪しげな模様も刻み込まれている。
やや離れた位置には足の長い燭台のようなものが立っており、本来の燭台部分には魔石を利用したであろう光を放つ魔道具が付けられた照明が4本立っていた。
明らかに『なにかありそうだ』と言わんばかりのオブジェだった。
全員がその怪しげな物体に目を引かれていた。
「で? 誰かそろそろ突っ込まない? あのおかしな3人組の事」
誰もが目を逸らしていたことに業を煮やしてキョーコが言った。
そこに居たのは、まず豪華な鎧を着ている青白い顔をした騎士。
同じく青白い顔をしたメイド。
そして青白い顔をした豪華な服を着た人物が居た。
その3人はゴリアテの胴体部分を中心に踊り狂っていた。
『とうとう私はやりとげた! これこそ魔力集積器だ!』
『さすが王様!』
『おお、これで王国の力はまた一つ強くなるというもの!』
やんややんやと浮かれてゴリアテの胴体を中心に踊り続ける3人。
見れば1周すると同じことを繰り返しているようだ。
「ん? よく見ればゴリアテの後ろにも誰か居ますよ?」
ダンがそう指摘した。指さした方を見ると、ゴリアテの胴体に隠れるような位置に、何やら光の筒のようなモノの中に人影が見えた。
身長はダンほどはないがイリア以上。長い髪の毛は腰までありそうな、女性の体つきの輪郭が見える。
「気のせいでしょうか? 光ってるせいなのか、髪の毛が白く見えますね。あの人」
『……だ』
「何か言ってる? リルさんかロウキは聞こえますか?」
ダンに言われてリルとロウキが耳をピコピコと動かして音を聞き取ろうとする。
「なぜワシに頼まんのじゃダン?」
ダンの頭の上に居たタマモが何か言っているが、それをスルーしてリル達の結果を待つ。
「聞こえました」
「うむ。我にも聞こえた」
「それで? なんと言っていたんですか?」
「「五月蠅すぎる。殺してくれ。『えんどれす』で繰り返されて頭がイカレそうだ」」
どうやらあの3人は延々と同じ行動を繰り返し続けているようだ。
*
干渉しなければ話が先に進まない事態だと理解したダン達。
「あ~。おそらく話しかけると戦いになる可能性が高そうなんですけど……。誰がどれを相手にしますか?」
車座で相談をするダン達。ちなみに本来はあの3人の視覚に入っている気もするのだが、予想通りというか向こうから襲ってくることはないようだった。
「ん~、あたしは騎士かな」
「あ、ウチも今度は参戦したい!」
積極的に騎士の相手をしたいと言うのはファーニとマロンだ。
「私はあのエミリーさんと勝負してみたい!」
「うむ。リル殿に賛成だ。我もあの女子とやりあってみたいな。あの足さばき、只者ではないだろう」
危険な雰囲気漂うメイドの相手をしたいというリルとロウキ。
「私は王様かなぁ。どうやら魔法使いの方らしいし」
「私もそちらに回りましょう」
キョーコとウェンディが王様の相手、と。
「それでダンさんはどうするんですか?」
リルに問いかけられたダンは腕を組んでしばし黙考する。
「……とりあえず僕はしばらく様子見をさせてもらいます。正直なところ、アンデッドって強さが読み難いんですよね。一撃加えて、それで相手を倒してしまっては本末転倒ですから」
『そういえば話を聞きにきたんだっけ?』と、ほとんど全員が思い出すように「ああ」といった顔をしていた。
「……忘れてましたね? 皆さん」
ダンに白い目で見られると、全員がそっぽを向いて誤魔化そうとした。
「では残ったメンバーはポーラさんがメイドへ、クローディアさんは王様を、ライとリンは騎士の方に行ってください。イリアは――」
「私はあそこに囚われている『仲間』を助けに向かってよいだろうか?」
ダンがより組み合わせが良いと思えるように相手を決めていると、イリアが自身の考えを割り込ませた。
「まあ助けるのは別に問題にはなりませんが、もし戦いとなった場合にあの3人を素通りできるとは思えませんよ? それでも行きますか?」
強さが読み難いとはいえ、ダンは王様を含めて3人がそれなりの実力者だと見ている。そんな相手の目を盗んで『行動出来るか?』と問われれば『大丈夫、出来ます!』とダンならば言ってしまうが。
とは言え、それはダンがそれだけに集中して動ければという条件があってこその話であって、まだまだ仲間達の技量がそれほど高いとは贔屓目に見ても言えない。
しかしイリアはしっかりとダンの目を見ながら言った。
「イリアは『イ号』。これは最初という意味がありますが、あそこで捕らわれているのは私からすれば『妹』のような者なのです。正直、私より後に生まれたはずの相手が先にこの世界に来ていたという矛盾にはツッコミたい気持ちがたくさん、ええそれはもうたくさんありますが! それでも『姉』として『妹』を助けたいという感情は否定すべきとはイリアは思いません」
自らの意思を持って救出に向かうと言うイリアに、ダンはその意思を曲げて止める気にはならなかった。
「分かりました。ではイリアさんは隙を伺いつつ彼女の元へ向かってください」
「のうダン。ワシはどうすればよいのじゃ?」
頭の上でそう言ったタマモを持ち上げると、ダンはそっとサニーの鞍の上へと乗せた。
「よし! では話しかけてみるとしましょうか」
「こら~! ワシは戦力外か~!?」
実際、戦力外だった。
抗議の声をあげるタマモの言葉をスルーして踊り狂う3人へと近づいていくダン。
「あの~、ちょっとよろしいでしょうか?」
ダンの声掛けにやる気満々な面々は肩を落とすが、そもそも最良の結果は戦闘をすることなく話し合いが出来ることなのでダンの行動は何ら間違ったものではない。
時々戦闘狂なダンの行動に引っ張られてしまっているようだ。
『む? 何者じゃ?』
『王よ。お下がりを』
何はともあれダンの言葉に反応した3人はダンへと向きなおり、王様を庇う様に騎士が前に、メイドはそっと王様の横へ控える様に移動した。控えるとはいっても、その手にはいつの間にかダガーが握られていたが。
「時の世に『魔法王』と呼ばれるクロフォード王国の王様。で合ってますでしょうか?」
『おお? 私はそんなふうに呼ばれているのかね?』
ダンのよいしょ全開のおだてるような質問に王様がウキウキした様子で答える。
やはりダンの予想通りに、やらかして、塔を含めて周りごと吹っ飛ばした当時のクロフォード王国の王様で合っているようだ。
まあ、実際にやらかしてしまったのかは、今現在のところ重要視する点ではないのだが。
ウキウキ気分で前に出ようとする王様を騎士が『お下がりください王』と止めているので前に出ずにその場に留まる。
どうやら集めた情報の『魔法狂い』という点は合っていそうだ。この王様が生前当時に『魔法王』と直接呼ばれたことは無いはず。だがダンにそう呼ばれて嬉しそうにしていたことから、『魔法』に対して並々ならぬ興味や関心持っている人物であることは間違いなさそうだ。
「ええ。それで王様に訊ねたいことがありまして、無礼を承知でこうして塔まで押しかけさせていただきました」
とりあえず興味を引いている今の内にと質問をすることにしたダン。
『ほうほう。それで? 私になによ――』
唐突に会話が途切れたので何事かとダンが王様の顔を見る。
その王様の顔はナニかを凝視するように一点を見つめていた。
その視線を追うダン。
そこには――
「――イリア?」
なんでか一同の中のイリアを見ているようだった。意味が分からないダンは再度王様の顔を確認しようと振り向こうとして――
『――白いゴーレム! また見つかったのか!』
喜色を浮かべる王様がそこに居た。いや、それは喜色というよりも――
「あれ? ちょっとイっちゃった顔してませんか、王様?」
『なるほどなるほど! 私に研究用として、その白いゴーレムを買い取ってほしいということだな!?』
ダンの声も耳に届いていないのか、王様はそう一気にまくしたてる様に言う。
「あの? このイリアさんは仲間なので売るとか、そういった話をしに来た訳ではありませんので……」
『むう? さらに値を釣り上げようという気か!? だがついこの間にもゴーレムを買い取ったばかりで金がないのだが……』
どうも王様の感覚ではゴーレム買取りの記憶は『ついこの間』の出来事らしい。
実際には50年近くは経過しているのだが。
「あの~? お話を聞いていただけます――」
『……そうだ! 一時的に接収させてもらうか!』
何やらとんでもない事を言い出した王様。
『この塔は王家所有の建物。そこに無断で侵入したとなればそれ相応の罪となる。しかし罪だとは言ってもあくまでも方便。とりあえず実験を優先するために接収するという形を取るが、なぁに、王城へ戻ればセレスを言い含めて何とか国庫から支払おう! そういうことでどうかな?』
確かに無理矢理な理論の話ではあるが、一応は話の筋は通っている。
ただし現実には実行できそうにない話ではあるのだが。
何せ今の治世は目の前の王が収めているわけではないのだから。
『そうとなったらさっそく実験したいな! アレックス、エミリー。彼らからゴーレムを受け取ってきてくれ!』
やはり無茶苦茶な発言だ。どうやらクスリを過剰摂取したハイテンション状態まで当時から継続して残っているらしい。
しかし王様の発言に騎士もメイドもやる気満々といった戦闘態勢をとっている。
「やはり戦いは避けられませんかねぇ。皆さん! くれぐれもやりすぎには注意してくださいよ?」
ダンの呼びかけに全員が「おう」や「はい」と答える。
『我が王の命だ。恨んでくれて構わんぞ?』
『ええ。久々に体を思いっきり動かすとしましょうか』
『……エミリー。あまりやりすぎるなよ?』
『あら? そういうアレックス様も肩に力が入っている様子ですが?』
騎士とメイドが不敵に笑う。そこには強者の風格が漂っていた。
「戦闘開始!」
『はじめよ!』
ダンと王様の掛け声と共に双方が動き出す。
狂王の塔、最後の戦いの幕が上がった。




