狂王の塔探索 パート4
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全員の準備が整ったことを確認すると、ダンが部屋の扉を開ける。
『オオオオオオ~』
扉の前に居たメイド服を着たゴースト。
ダンはそのゴーストの頭をガシリと掴むと、「ふん!」と気合を込める様に闘気を手の平から放出して、ゴーストの頭部を消し飛ばした。
塔内部の廊下を軽く見やったダンが後ろに伝える。
「さて、ひとまず安心かな?」
「いやいや、流れる様に倒さないで下さい。ダンさん」
割とはっきりと見えるメイド姿のゴーストであった。おそらくは王の身の回りの世話役として配属されていたメイドだったのだろう。
ゴーストは一般的にその姿がはっきりとした方が格として高いと言われている。ダンの説明と併せて考えると、負の闘気というか生命力が多い相手は輪郭がはっきりするという可能性がある。
塔の外縁部に出現したゴーストは下半身が無かったり、そもそも輪郭がぼやけていたりする相手が多かった。もしかすると生前に戦闘力などが高い場合は、その闘気量が全て反転してアンデッドとして現れるのかもしれない。
「そういった予想が出来ますね」とウェンディが言う。
元々エルフの里を出た理由が、外の世界の知識を得たいと考えていた彼女だ。目の前に現れる魔物や見たことのない植物など見かけると、時々思考の中に埋没する。
もっともダンの教えを受けた今では、
「闘気を込めて……。こうかしら?」
手にした武器に闘気を込めて、物理攻撃があまり通用しないと言われているゴーストを殴り倒す。
召使風の服装をしていることから、やはりこの塔の主である王の身の回りの世話をしていた使用人達が多く居たのだと予想される。
そんな考えをしながらもゴーストの胴体に大穴を開けて(持っている杖のメイスになっているところで叩いたら、叩いた部分から丸く消滅しただけだが)、自分の武器を見ながら考察する。
『物理があまり通用しないっていうのは、無意識にでも闘気を纏わせて攻撃している人達がわずかながらも居るから? でもダンさんの教えほどじゃなくても、レベルの高い冒険者だったら自然と出来そうなものだけども……。う~ん』
ウェンディは悩みながらも周囲を警戒する。
実際、上級冒険者と呼ばれるランクの冒険者であれば可能である。
可能ではあるが、それはあくまでも『アーツを使った攻撃に闘気が乗る』のであって、通常攻撃の際に闘気を武器に乗せることのできる冒険者は割と少ない。冒険者は大体が我流で戦闘方法を確立している者が多いため、闘気の扱いにしても感覚で使っている者がほとんどだ。
中には『道場』などに通っている者も居るが、それだってそもそも『道場』が自分の生活圏にないと通うという発想すら思いつかない。
色々と規格外だと思っているウェンディのダンへの評価だが、実際はただ凄いというもの以上の、異常事態という境遇なのであった。
そもそも一人でアレコレと武器種を越えて、複数のアーツを扱えること自体が異常なのだ。
世の中の冒険者は、その冒険者人生において自身の扱っているメイン武器のアーツを覚えて、その後予備の武器で使うアーツや魔法などを覚えるくらいだ。逆に魔法使いだと魔法を覚えて、予備的にアーツを覚えたり、また人によってはアーツなんかは覚えない人も居る。
ダンはポンポンと仲間に対してアーツ教えているから、ウェンディはその辺りの感覚が麻痺していることに気づいていない。
そんなこんなな世の中の事情などは冒険者歴の長い上級冒険者ぐらいしか知らないので、ウェンディの疑問が解消されるのはまだまだ先となる。
悩むウェンディとは別に、ダンもまた出現してきたゾンビ(服装などから察するに元冒険者っぽい)を倒しながら悩んでいた。
「う~ん」
「何か気になることでもありましたか?」
ゾンビは相手にしたくなかったリルが、ゾンビを相手にしていたダンへと問いかける。ちなみに距離はちょっぴり離れている。
「やっぱりこの塔の中では、僕は戦わない方がいいような気がしてきました」
「「「え!?」」」
戦い好き。酷い言い方をすれば戦闘狂としか言えない普段のダンからすればあり得ない発言に、周囲を探索していたメンバーが驚いた顔でダンを見た。
それにダンは手を振って答える。
「いえね、皆さんに戦ってもらって楽がしたい訳じゃないんですが、どうにも力を込めて触れただけで倒せる相手はどうかなぁ、と」
先程倒したゾンビは核となる霊体が弾き飛ばされたのか、ただのモノ言わぬ死体に戻っている。
「え~、安全『マージン』は取りたいなぁ」
「ちょ、バカ!」
不用意なキョーコの発言に勘が働いたのかイリアがツッコミを入れる。
「よし! ちょうどアンデッド相手の経験も積めることですから、僕が手出しするのは最低限としましょう!」
「「「あああ! キョーコのバカ!」」」
「みんな揃って言うのは、ひどくない!?」
「我がとばっちりを受けた時と似たような状況だな」
キョーコが焦ったように返すが、ロウキが言えば『そう言われれば似てるかも?』と考えたのか、誰もそれ以上余計な事は言わなかった。
「とりあえず一通りの部屋を見て回りましたが、この階は使用人達の居住階で間違いなさそうですね」
こんな会話のやり取りをしながらも、1階部分の探索を終わらせてダンが確認するように言う。
いくつか部屋を回って出てきたアンデッドの服装や、部屋の中に置かれていた物などから全員がそう結論付けた。
「まあ実を言うと、塔の情報は持っていたんですけど」
「「「あるなら先に言ってくださいよ!」」」
ダンの発言に全員がツッコミを入れた。
「いえ、これはダンジョン化する前の情報でしたから、余計な先入観を持たせると良くないかなぁ、と」
一応ダンとしても言い分はある。いくらダンジョン化すると以前と同じようなものになるとはいえ、実は内部が変化しているなんてこともあり得るからだ。
具体的には無限ループする通路など。
そういった事もあり、言うのを差し控えていたのだ。
決して忘れていたわけではない。
「では改めて」
ダンはメモに書き込んだ塔の情報を伝える。
1階 使用人達の居住階
2階 護衛の居住階
3階 実験・倉庫の階
4階 王・傍付き女中・近衛の居住階
5階 最重要の実験階
「という情報です」
「え~、建物の図面とか無かったの?」
ダンの情報が思った以上に少ないと感じたキョーコが思ったことをそのまま言うと、ダンがジト目でそんなキョーコを見ながら言う。
「……キョーコさん、ここがドコだと思ってるんですか?」
「え? 『狂王の塔』――って、ああ! 王様居る場所か!」
言われて気づいたキョーコが声をあげるが、そのキョーコの言葉に反応したのはファーニとイリアだけだった。他のメンバーは全員が『?』と首を傾げている。
「隠し部屋とか隠し倉庫とか。ドワーフが作った部屋のそういった秘密は、そこを作ったドワーフが大体墓まで持っていくしね」
「重要拠点の見取り図などは戦略上の最重要機密です。要人が住む場所となれば、その機密性はより高くなるでしょう。ダンが調べたことだけでも、随分と脅威度が高いと思われますね」
実際、この情報を入手するためにダンは王城へと侵入している。正確には内部の人間に手引きしてもらって正式に入城しているのだが、内部に入った理由とその対価が釣り合っていたのか……。
ダンはいまだに対価の方が多く払わされた気がしていた。
思い返すと実際の重さも思い出されたので、頭を振って今は忘れるとする。
「とりあえず狙いは3階、4階でしょう。さすがに5階ということは考えにくいですからね」
ダンの発言に、思わず『それフラグ!』と言いそうになったキョーコだが、先程の一件があったために発言を控えた。
ダン一行は1階の探索を終え、2階へと向かった。




