連絡って大事と知る。(ちなみに自分の事は棚に上げている)
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「え! 何そのデッカイ『まれーばくぅ』!?」
色々と思うところがあったダンは様々な思考を飛ばしていると、聞きなれたその声に意識を引き戻してそちらを見やる。
そこにはダン達の横にあるバクゥの山を指差しながら、あんぐりと口を開けているキョーコが居た。あと何人かも興味津々とバクゥの山を見ている。
特に約3名が涎を垂らしそうな顔で見ていた。内1名は本当に涎を垂らしていた。
「バクゥを知ってるんですか? 大河周辺では割と見かけるんですけど、少し離れると平地なんかでは滅多に見かけない魔物なんですけどね」
「さすがとんでもファンタジー」とか何とか言いながら、キョーコの目が虚ろになっていく。
「はて? おおよその外観は確かに『まれーばくぅ』っぽいですが、そもそも体毛の色が違う気がしますよキョーコ。私の記録では『つーとんからー』ですね。白黒の。ただのバクゥでしょう?」とイリアがキョーコへツッコミを入れていた。
ワイワイとバクゥの山を見て感想なんかを言っているダンのパーティーに1人の兵士が近づいてきた。
その手には名簿が握られている。
「代表のダンさんという方は居られますか?」
「おうい、こっちだ」
ダンよりも先に兵士長がその兵士を呼ぶ。
『なぜ僕より先に呼ぶ?』とダンが目で訴えかけ、兵士は『なんでここに兵士長が居るんだ?』と困惑した顔で、それでも職務の為に近づいてきた。
「えっと、パーティーの方は先に確認してますので、あとはダンさんの確認だけさせていただければ」と兵士が言うので、ダンは自分の冒険者カードを取り出して兵士へと渡した。
渡された兵士はカードの名前を確認し、名簿へとチェックを入れるとダンへとカードを返却した。
そしてまだ橋を渡っている人達の元へと帰っていく兵士。名簿は1冊しかないのだ。次の橋を渡ってくる者達よりも前に戻るため小走りで走っていった。
そしてダンのカードを覗き込むように見ていた兵士長がボソリと呟く。
「ランクD、ですか?」
「? なにか変でしたか?」
「いや、その~……、隊長の実力でランクDは詐欺かと」
『詐欺ってヒドイな』と思いながらもカードをしまい込むダン。
「しかし隊長の連れは随分と人数が多いですな。冒険者パーティーとしても大所帯な気がしますよ? 何か目的のある部隊か何かですかな?」
「いえ? 普通に冒険者ですよ今は。仲間が多いのは……、なりゆき?」
「なるほど、『今は』ですか……。この後は王都にお戻りで?」
なにやら含みを持たせて言う兵士長に、ダンとしては普通に返答したつもりだったのだが、余計に深読みを相手にさせてしまった気がしてきた。
ま、嘘をついているわけじゃないから、いっか。とダンも説明を半ば放棄する。
「まあ王都にはいずれ戻る予定ですが、その前に北へと向かいます」
北。つまり川上。
そのダンの宣言を聞いて、兵士長は驚愕の表情となった。そして何やらウンウンと頷いている。
「なるほど。そういう事だったんですね」
何か納得いくことがあったらしい。
特別な事は何もないと思っているダンも目的地を告げようとする。
「ええ、これから僕達は『魔法お――」
「『狂王の塔』へと向かうのですね!」
ダンの言葉に被せる様に兵士長が言う。上気しているせいか声がデカい。
何人かのパーティーメンバーがダンの方を向いている。気のせいかその目が死んだような目つきに見えるが、まあ恐らく勘違いだろう。それよりもダンは兵士長の言葉を訂正しようとする。
「えっとですね、通称は避けましょうか? 一応、王国軍でしょう?」
ダンが目指している場所は、正式には『元貴族の保養地に建てられた魔法王の塔』という名称になる。または『魔法王の塔』とだけ呼ばれる――ことはない。
一般的には『狂王の塔』と呼ばれている。
その昔。狂った王が魔法を暴走させて、自身の住んでいた塔とその周りに作られた貴族の保養地を崩壊。その後、数カ月後にいつの間にか元の姿を取り戻した塔と保養地。
しかしそこに『生者』の姿はなかった。
保養地の中にはアンデッドが徘徊するようになり、いまや保養地ではなく亡者の住む魔境と化した。
王国軍も何度か調査隊を送り込んだが、どうも中心に再建。いや再現された塔が要となり、ダンジョンと化しているのでは? との報告後、現在に至るまで手が付けられていない場所となった。
ちなみにダンの調べた情報では、魔法狂いの王様が居て、塔はその王様が魔法の実験を行うために建てたものであり(王都には建設許可が下りなかったとか。もし降りていたら王都は今頃廃都となっていたかもしれないので、王様の権力に屈しなかった役所ナイス! とか思った)、どうも詳細はハッキリとしなかったが、その崩壊の原因は王様のうっかりが原因である可能性が一番高いことが分かっている。
昔はその保養地を守ることも行っていた兵士達の為もあって、『宿舎処』がその保養地に隣接する形で作られていた様だ。もちろんアンデッドが徘徊するようになったら安全とは言えないので、現在の『宿舎処』は保養地から見て『大橋』を挟んだ川下側の位置に建てられることとなった。
「確かに新設の軍団には当然ながら『箔』がありませんが、今この時に軍団長が長年放置せざるを得なかった『狂王の塔』攻略などと成れば、一気に名が売れますね!」
『いや、そんな考えは一切してないよ?』とダンと兵士長の温度差が広がっていく。
ダンが考えていたのは、あくまで塔の探索だけであった。
ダンジョン化した建物や場所は当時の物も再現されている。
先の『シンジュクダンジョン』でも当時の(と言ってもイリアの証言だけであるが)物や文字などが残っていた。他にも同じような事例がダンジョン化で知られていることから、当時の王の実験場(名目は別荘だったが)にダン一族とのやりとりが記録されている書物なり何なりが発見できるかもと考えていたのだ。
だからダンジョン消滅を意味する攻略は考えていなかったのだが――
「おお!」と歓喜に震える兵士長の気持ちを削ぐのもなんだか忍びない。
「え~、とりあえず結果がどうなるか分かりませんが、最終的に僕から王都の方へは伝えますので、この話は内密にお願いしますね」
「確かに。先走って見当違いの報告を送っては、結果が違っていた時に第3軍の評価によからぬ影響を与えてしまいますからな。いつぞやの第2軍の時みたいに」
そう兵士長が言った言葉に、一体『いつ』の時の事か、ダンの頭に過ぎっていく記憶。
近年の第2軍をよく知るものは、王都内で第2軍のことを『ほら吹き軍』と心の中で読んでいる。
街中の酒場などで第2軍の兵士達が酒に酔って語っている内容がかなり誇張されていたり、酷いときには第1軍の功績を自分達のモノとして言ったりしているのだ。
当然、王都を出ない住人の中にもそれを鵜呑みにする者も居たりするが、それでも数年王都に住んでいればその話が、『話半分かそれ以下』の信ぴょう性が無いものだと知るからだ。
よくやるやらかしが――、
「『バジリスク討伐偽証事件』」
「ああ、アレね」
バジリスクと呼ばれる、ちょっとした丘サイズ(ダンの認識)の魔物が王都近郊に出没した際に、それを撃退に出た第2軍がかなりの被害を受けながらも討伐を果たした。
とされている事件だ。
『何が事件なのか』と言われれば、ここまで話が出ていればもう王都でピン! ときた者がチラホラ出てくるくらいの案件なのだが。
案の定、討伐をちゃんとした確認もせずに王都に引き返した第2軍の後、いつも通りに殿として(この時はたまたまダンが参加していた)戦場に残っていたダンほか輜重部隊が、瀕死の状態でも生きていた、怒り狂ったバジリスクと激闘を繰り広げたのである。
もはや自分の命が尽きることを悟っていたバジリスクと、殿として残っていたバジリスクにとっては憎き人間達。
迫る自身の死に全てを捨てて襲い掛かるバジリスク。そんな相手にダンは輜重部隊に槍を持たせて包囲網を敷くと、バジリスクと一対一の戦いを始める。
バジリスクは石化の状態異常を引き起こすブレスを吐き、ダンは輜重部隊に被害が及ばないような立ち回りで戦いを行った。
それは長時間に渡る戦いで、バジリスクの尻尾や爪の攻撃が何度もダンを狙っては、時に空を切り、大地を叩いた。
その大地を叩いた時の音が王都まで届いていたようなのである。
この時、第2軍が事態のもみ消しを図った時に流した噂が――
『あれはバジリスクの断末魔である』とか言ったらしい。
王都へ帰還した際に「バジリスクは我が第2軍が討ち取った!」と堂々と宣言していたのは何だったんだ? と、その場に居た住人達は全員思った。
ついでに王城にも音は届いていたので第1軍が斥候を派遣して、到着した際にバジリスクへと止めを刺したダンとバジリスクの体に何本も刺さった槍を見ている。
結果、バジリスク討伐の褒賞は第2軍ではなく輜重部隊へと変わった。
ではダンの扱いはどうだったかというと、第2軍に属していたダンを個人として褒賞を送ると言うわけにもいかず、ダンへは何も送られることはなかった。だがこういった事が幾度となくあり、輜重部隊からのダンへの評価はすさまじく高いモノへと変わっていったのだ。
*
「では『大橋』を通過したことだけ報告を――」
「いや、それもいいから」
「そうですか?――いや、極秘任務ということか。了解であります! 道中、目的地でのご無事を願っております」
そういって兵士長は詰め所へと戻っていった。
ダンも制止しようとした手をどこに持っていくか悩んだが、上手く説得できる気もしなかったのでバクゥの山近くにいるパーティーへと声を掛ける。
「では我々も出発しますか~」
「「「行き先の説明は!?」」」
先程死んだ目をしていた何人かが悲鳴のような声を上げたが、どっちにしろ目的地は変わらないのでダンは道中にでも説明しようと考えていた。
それは他のパーティーや商人に聞かせる内容ではないと考えての行動だったが、その考えを聞かされていないメンバーの顔は若干引きつっていた。
ちなみにマレーバクと勘違いしたのはイノシシも一緒。
画像検索したら驚いた。




