いつのまにか決まっていたことを知らされる
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あの後ダンの援護射撃もあり、バクゥの群れは無事に討伐されて『大橋』の通行が再開された。
「とりあえず『宿舎処』は大丈夫でしたかね?」
「はッ! 念のために確認として1人向かわせましたが、バクゥが狙っていた冒険者は『大橋』に逃げ込んできたことから問題ないと思われます!」
ビシッ! とした姿勢でダンの質問に答えているのは兵士長と呼ばれていた男性だ。ダンも薄っすらとした記憶に覚えがあった顔なので、王都で会ったことのある兵士の1人なのだろう。
たぶん。
それよりもそのガチガチの姿勢の方が気になった。
「そんなに改まった格好しなくても良いですよ?」
「いえ! これがいつもの格好ですので!」
あまりにビシッ! としているその恰好が普通かと言われると、どう考えても普通ではないし、いつもしているとは思えない。式典の時くらいじゃなかろうか? とダンは思った。
「あ~、休め」
ダンの言葉に肩幅に開いた脚と後ろ手にした格好へと変わる兵士長。
とりあえず話は聞いてくれた。
命令という形であるが。
「ん~、このバクゥはどうしますか?」
「そう旨い肉ではありませんが、非常食用に干し肉に変えようかと思います」
「ま、妥当ですかね」
ダンの目の前に積みあがったバクゥの山。合計16体分がちょっとした丘の様に積みあがっていた。
バクゥ掃討が終わった時に、逃げ込んでいた冒険者達が「そのバクゥを譲ってくれ!」と願い出ていたが、ダンも兵士長も「無理」の一言で断っていた。
コレに味をしめた冒険者が、『『大橋』の兵士達に魔物を討伐させる』。などといったトンデモナイ考えを持たれないように、一切の素材交渉を受け付けない方針としたのだ。
恨めしそうな顔をした冒険者に、ダンが軽い殺気を当てると、顔を青くしてそのまま王都方面へと姿を消していったのであった。
そして、その結果が先程のダンと兵士長の会話である。
自分の所で消費するにしても、使用用途が余りに少なくて頭を悩ませていたのであった。
2人して頭を悩ませるダンと兵士長の元に、川下方面から1人の兵士が駆け寄ってくる。
「兵士長! 『宿舎処』は無事でした。今回の件で一切の被害も発生しておりません!」
「ご苦労」と兵士長が、その報告を持ってきた兵士にねぎらいの言葉を掛ける。
先程から出ている『宿舎処』とは、ここ『大橋』に勤務している兵士達の宿舎の事だ。宿舎とはいっても、妻帯者などが住む戸建てや単身者の住む長屋のような住居、さらに小さな畑を持ち、その周囲を頑強な柵で覆った村のような規模の場所だった。
『大橋』から大河に沿って南下すると『宿舎処』が存在している。
過去は大河に沿って川上側にあったのだが、諸事情により現在の『大橋』より川下側に建設されることとなったのだ。
「おや、なかなかに体力が有りそうですね彼。そこそこいい速度で走ってきたんじゃないですか?」
バクゥ討伐から1時間とちょっと過ぎているくらい。今の橋の袂から『宿舎処』は確か歩いて1時間ほどの距離だったはず。
ちなみにダンは昔その距離を僅か10分で駆け抜けたことがあるのだが。
「戦うにしても逃げるにしても体力は必須。でしたな?」
「お~」とダンは昔自分が教えた言葉を違えずに覚えていた兵士長を称賛した。
「そういえば団長は何故に大橋へ? しかも王都方面へと渡っているということは東にいらっしゃったのですよね? いったいいつの間に?」
兵士長の疑問は至極まともだった。
普通、大河の西と東を行き来するとなれば『大橋』を渡るのが一般的だ。
決して、大河を泳いで渡るという、まともじゃない方法を選択する等とは考えもしない。
そしてそのまともじゃない思考回路を持ったダンは普通に返答する。
「かれこれ2カ月くらいは前だったかな? 大河を越えたのは。その時は1人でしたからね」
「なるほど。1人だけでの移動でしたら見落としていても不思議ではありませんな!」
「「ははははは」」2人して笑っているが、実際はお互いの頭の中の想像は、双方食い違っていることに気が付いていなかった。
だがダンの笑いが止まる。
「ん? 団長?」
「ええ。あ、ひょっとして極秘でしたか?」
「極秘? いえいえ、そんなことはありませんよ? それよりも僕は――」
「そうでしたか? いや~、王都で鍛えていただいた後、ここ『大橋』でまた隊長に会えるとは……。あ、すみません。隊長の方が言いやすくてつい。申し訳ありません第3軍団長殿!」
ビシッ! と敬礼しつつ兵士長はダンへと敬意を込めてその肩書を言う。
『ん~、やっぱりコレって僕のことを言ってますよね? はて、第3軍ってなんだ?』
ダンは『言い間違いか? いや、間違いなく僕に向いてるよなぁ……。言い間違いだと良かったなぁ』と、まだかすかに残る希望のような何かに願掛けして聞いてみる。
「ちょっと連絡が途絶えてましたかね~。 第3軍のこと、どう伝わってますか?」
答え合わせをするようなダンの質問に、兵士長がにこやかな笑顔で答える。
「はっ! かねてより役割を十分に果たしていなかった第2軍に代わって、辺境及び緊急要請をされた場所へと派遣される新設軍。それが第3軍と心得ております」
確かに現在の第2軍が満足に活動しているかと問われれば、首を横に振るしかないのはダンとて分かることだ。
それはいい。
問題は、第3軍とやらがいつ創設されたのか。
「う~ん、どうも僕のいないところで『旗揚げ』となったのかな?」
「はっはっは! 確かに隊長は1人で王国内のあちらこちらに向かわれてましたからな。……え? まさか本当に?」
ダンの言葉がボケかと思った兵士長は盛大に笑うが、いつまでもダンが返事を返さないことに気づくと目を丸くしてダンへと聞き返す。
それにダンは無言で頷いた。
どうやって答えていいモノか窮する兵士長と、遠い目をしながら額に青筋を1本立てているダン。
二人は無言のまま、ダンの仲間達が到着するまで並んでただ立っていた。
傍らにバクゥの山がある光景は、どこかシュールなものとなっていた。




