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見張り台へと舞い降りる

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……力尽きなきゃ達成できるはず

 ピョーン! ピョ-ン! と表現すれば可愛らしいものだが、実際は……、


 ドン!

「うお? なんだ魔物か?」


 ドン!

「うひぃ! 飛行系魔物の襲来ですか!?」


 橋脚部で待機して待っている冒険者や商人のグループを躱して着地、すぐさま跳躍を繰り返して前へ前へと進んで行くダン。

 いちおう人などを踏みつぶさないように、空中で『鞘』を出してわざとバランスを崩したり、闘気(オーラ)で滞空時間を調整して着地ポイントを制御しつつ進む。

 それなりに橋の上に混乱を招きつつ、ダンは最後に大きく跳躍して()()へと降り立った。


 闘気で着地の衝撃を弱めてたどり着いたのは、ダンの進行方向からしてみれば『大橋』の最後の橋脚部に設けられた見張り台の上だった。そこでは複数の兵士が右往左往している様子が見て取れる。


 ダンは途中からポーチから抜きっぱなしの鞘を肩に担いで見張り台の縁まで進んで行く。

「門は閉めたか!? 対象魔物の動向をよく注意して見ておけ! 場合によっては狼煙の信号を変えるぞ!」

 そこには周りの兵士に指示を下す兵士の姿が見えた。おそらくここの見張り台における兵士長だろう。ダンはその兵士長へ声を掛けることにした。


「状況はどうですか?」

「ああ!? どうもこうも、どっかの冒険者がバクゥの集団を刺激したらしい。それもよりによって退避をこの『大橋』にしやがって……、って誰だ?」

 兵士長が文句を言いながら説明する。ふと自分が話している相手は誰だと横を見る。そこには鞘を肩に担ぐ男の姿があった。まあ所見では大剣を担いでいるようにしか見えていないだろうが。


「どうもダンと言います」

 軽く返事をしたダンは下の様子を見て呟く。

「ふむ。しかしバクゥですか? それほどウマミのある魔物だった覚えはないんですが?」



 バクゥ。やや長い鼻を持ち、体高は大人程の背丈がある4本脚の雑食性魔物だ。全体的に黒い皮は多少の水を防げはするがそれだけ。肉もまあ、ダンの()()では食用可ぐらいのものだ。そう積極的に狩ろうかとなる魔物ではないはず。なのだが――



「どうも『黒い革』が欲しかったようであります。()()!」

 ダンの鞘を見て、みるみると顔を変えた兵士長が敬礼しつつダンの質問に答えた。


「隊長は止めてください。僕、ただの兵士ですよ? それに今は……」

「そうですね、この事態を素早く収めることが重要でした! おい、2人1組で殲滅するぞ! ワシも出る!!」

 ダンが困ったように「そうじゃなくて」と言った声も聞こえていないのか、兵士長は気合をみなぎらせて他の兵士を連れて階段を駆け下りていった。

 残されたダンと狼煙役として残った兵士数人が手持無沙汰にその場に取り残される。

 ダンは困り顔。残った兵士も『誰なんだこの人』といった顔で、その場に妙な空気が漂っていた。


 *


「まったく、バクゥくらい自分達で倒せってんだよ」

 槍を使って攻撃を加える兵士の1人が愚痴る。1匹のバクゥに2人ないし3人で対処をしている状態だ。

 なぜか後ろの方で「素材が!」とか言っている冒険者が居るが、そんなもの自分達の()()()()()()()()

 確かに槍で突きまくっていると、素材としての『皮』の商品価値は著しく下がるだろう。


 だがそれがどうしたというのだ。


 こちとら()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 冒険者が魔物を討伐する理由は得られる素材の為だろう。兵士としては自分達が守ろうとするものを守りたいのだ。具体的には自分の命と勤務先である。

 今の兵士長が王都から出戻りで戻ってきてから叩き込まれた槍と戦い方は、時間こそかかるものの安全に魔物を倒すことを主眼としている。ここで言う『安全に』とは、なるべく無傷で戦いを終わらせることだ。

 数人で連携して牽制と包囲を行うことで、各個撃破と標的を1人に絞らせない戦いが兵士達の戦闘方法だ。


 堅実に戦う兵士達に後ろから声が掛けられた。

「よし! 左右に展開して殲滅速度を上げるぞ」

「兵士長!?」


 いつもなら見張り台の上から指示を出している兵士長の声に、思わず数人が振り返った。

 その振り返った兵士の視線の端に、凄まじい速度で何かが通過する。


「気を抜くんじゃない。まだバクゥは居るのだぞ?」

 兵士長の言葉に慌てて前を振り返った兵士達は、やや呆然とする同僚たちの視線の先を見た。

 そこには複数のバクゥの頭にきれいに開けられた穴が、そしてゆっくりと倒れ始めるバクゥの体が見えたのだ。


「さすが兵士長! 槍を使わせれば右に出る人は居ませんね!」

 1人の兵士が兵士長を素直に称賛するが、それを言われた兵士長はブルリ! と全身を震わせるように強烈に首を横へと振った。そして慌てた口調で言う。

「ばか! 不用意な事を言うんじゃない!……今、我が()()()が見えられている」

 その兵士長の言葉に全ての兵士が妙な顔つきになった。


「「「軍団長って……、()()()の!?」」」

 それはつい最近、自分達が所属していた輜重部隊を含めて集められた、()()()軍団の事だった。


 クロフォード王国、その要所要所に配属されていた兵士達は(というか、それぞれの地方で集められて作られた兵士達の集団は、自動的に各地を回る輜重部隊の1つとして組み込まれていたのだが)、例外無くこの第3軍へと転属が決まった。

 国王の命により作られた第3軍結成という通達が王都から来たのは、まだ記憶に新しいことだったので兵士達は驚いていたのだった。


 曰く、剣を踊るように扱う凄腕剣士や、対峙している相手が気が付いた時には矢で射抜かれるほどの速さを持った弓士。何者も通さない鉄壁の盾を持つ者や兵士長の槍を超える槍兵がトップに居る戦闘集団。王都に所属する第3軍に属する兵士は更なる鍛錬を積み、彼らの2番手となるべく鍛えられているという。

 兵士長もその鍛錬を受け、惚れ惚れするような腕を身に着けて帰ってきた。


 そんな戦士達の更に上に立つものが居ると言う。それが――


「伝説の黒騎士が来てるんですか!?」

「すげぇ、噂だとマジモンの龍討伐者(ドラゴンスレイヤー)だって話だぞ!」

「王都の第3軍に居る兵士は、全員その人の弟子って本当ですか!?」


 バクゥの前に居ると言うのに、目を輝かせる若い兵士達。

 そんな兵士達を見て、兵士長はなぜか遠い目をしていた。

 が、すぐさま気を引き締めた様子に戻ると、兵士達を叱咤する。


「焦ろとは言わんが、バクゥ如きに苦戦する姿など見せるなよ!」

「「「おお!」」」

 先程よりも気合の入った様子で、兵士達がバクゥの相手を始めた。


 *


「ん~、気合があるのは大変よろしいのですけど……」

 見張り台の上から様子を見ていたダンは戦いの推移を見てそう言葉をこぼした。


 先程よりも殲滅力、速度は上がっている。上がってはいるが――

「ちょっと足並みが揃っていませんね」


 わずかな違いではあるが、上から見ていたダンは個々の能力差などの理由から、兵士達の連携が微妙にズレてきているのが見えた。


 踏み込む者、相手をよく見ている者、周りと併せようと立ち位置を調整する者。


 それは1歩や半歩の違いではあるがそうすると――

「ああベック! 前に出すぎだ!」

「ま、こうなりますか」

 微妙ながらも前進しすぎていた兵士の一人にバクゥが向いて、その身体に力を貯め始めた。おそらくは突進をするつもりだろう。

 フォローをしていた兵士長も微妙に射程の外に居る。


 ダンは自分のポーチへと手を伸ばそうとしたが、すぐそばに立っている兵士の槍が目に留まった。

「ちょっと失礼」

 あまりに自然すぎる手つきで槍を取られた兵士は一瞬気が付かなかったようだ。

 ダンが槍を軽く振るってからお手玉をするようにポンポンと手の上で槍を何度か浮かせていることでようやく気が付いた。


「おい! 何を――」

「よっ!」

 兵士の言葉は、ダンが重心を確認し終えてから投げ放った槍にかき消された。


「よっ!」なんて軽い掛け声とは裏腹に、物凄い速度で一直線に進む槍は今にも動き出しそうなバクゥの胴体に、()()()()()()()()()()いった。


「は?」

「ん~、もう少し数を減らすかな? 君、悪いんだけど予備の槍とか持ってきてくれるかな?」

 茫然としている兵士にダンはそう頼むのだった。

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