橋は中央を歩く
投稿したつもりになっていた><
「にしても、さっきの兵士の人、全然ダンさんを咎めませんでしたよね? 何か不思議、というか違和感がありますね」
無事に『大橋』を渡り始めたダン一行。
その橋の上を歩きながらウェンディが自分が感じた疑問をダンへと投げかける。
そのウェンディにしても、事の経緯を聞いてぶっ飛ばされた冒険者達に同情する気は一片たりとも持ち合わせていなかったが。
問われたダンはその理由を答えた。
「あ~、あれは言ってしまえば簡単な理由なんですけど。――順番の入れ替えって、すごく面倒くさいんですよ」
あまりにも簡単すぎる理由に、一同の空気が硬くなる。その空気を掃うためかはらう為か、パタパタと手を振りながら苦笑しつつ続きを話すダン。
「えっとですね、兵士が昨日のうちに名簿を記録していたじゃないですか? アレ、実は同じ内容が既に向こう側の詰め所に伝わっているんですよ。それで入り口と出口の両方で確認しているんです。途中で抜けたり増えたりするメンバーが居ないように」
ここ『大橋』の構造を簡単に説明すると、橋の脚となる石の土台とそこに掛かる橋桁部分が在り、橋脚部は広く作られている。
橋を進むルールとして、前のグループが次の橋脚部へと到達してから次のグループが渡るといった進み方だ。
そして橋桁部は鉄と木材で作られたかなりしっかりとしたモノで、しかも左右に道が作られている構造となっている。
この2本の道は右側通行となっており、向こうから来る通行者と交差しないように出来ている。
唯一、待合場所となる橋脚部にはそういった仕切りがない。
確かにダンの言う事を考えてみれば、人数だけ数えている方法だといかようにも誤魔化せてしまえる。それでどれほどの悪事が行えるかは分からないが、上手く誤魔化せば1人くらいは橋の途中に隠れることくらいは出来てしまえるかもしれない。
「実際、昔の出来事として橋桁の一つを『燃やされた』なんて事もあったそうですよ」
ダンの言葉にメンバーは自分の足元を見る。要所で鉄を使って繋いでいるが、橋桁のほとんどの部分は木材で出来ていた。確かに油と火種を持ち込めば燃やせるかもしれない。
「そうなると1月以上は足止めになるでしょうね」
「そんなことをして得をする人なんて居るんでしょうか?」
「ふむ?」とダンは腕組みをして考え込む。
「……可能性としては帝国のやつらとか? まあ、それですら意味があることを出来るとは思えませんけどもね」
そうこう言いつつも足は動かしており、メンバーは次の橋脚部に到着した。
「よっと」と声を出して、ダンも橋脚部へと着地する。
そして次の橋桁の上に同一方向に進むグループが居ないか先を見ていたダンに、お互い目線を交わしてからメンバーの代弁としてウェンディが質問をする。
「……。ダンさん、一つ聞いてもいいですか?」
「ん? なんですか?」
「なんで先程から、橋の中央の仕切りの上を歩いているんですか?」
そう、ここに至るまでダンは左右の通路を仕切る頑丈な柵の上を歩いていたのだった。
人の背丈はある柵は幅があるとはいえ歩くには不向きだ。というかそもそも歩く場所ですらない。また何かの鍛錬かなにかを始めたのかと思ったのだ。
しかしダンは珍しく苦い顔をして答えに窮する。
「あ~、それは、ですね」
歯切れの悪いダン。
まさかと数人が頭上を警戒するように見張り始めた。ダンは「違う違う」とその行動を否定する。
「単純な話、僕、結構重いんですよ」
一瞬の間が空く。ほぼ全員が『ん?』という表情になった。
「え? 重い?」
「正確にはコレが、ですけどね」
ポンポンと腰のポーチを叩くダン。ほぼいつでも身に着けているポーチだ。例外は宿などでの休息している時間帯くらいである。
「え? でもそれもマジックポーチですよね?」
その言葉に頷くダン。
「確かに。収納する能力は間違いなくありますね。ただ重さは変わらないんですが……。武器が嵩張らないのは助かるんですけどね」
「「「ええ!?」」」
ダンの言葉に全員が困惑の声をあげる。明らかにおかしいからだ。確かに宿の中などでは外していたかもしれないが、冒険者ギルドや他の場所では身に着けているところを見ていたからだ。
そんな表情から言いたいことを予想したダンが種明かしをする。
「ま、原理としては単純ですよ。そういう場合は、闘気でポーチ部分を浮かせてただけですから」
「前が空きましたね、進みましょうか皆さん」と、また身軽な様子で柵に飛び移るダン。
「「「せめて説明してください!」」」
*
「――様は闘気で作った腕で物を持ち上げている状態ですよ。簡単でしょ?」
「だからサラッとトンデモ発言しないでください。それだったら『自分で、自分を掴んで持ち上げる』ことが出来ちゃうじゃないですか……。ああ! 触発されたんでしょうけど、橋の途中で考え込むの止めなさいウェンディにマロン!」
サラリと笑顔で説明するダンに、キョーコがもはやツッコミ疲れたという表情で肩を落とす。それでも他のメンバーへのツッコミは忘れていなかった。
「ふむ。僕は得意ではないんですけど、可能は可能ですね」
『はぁ!?』という顔でダンを見るキョーコ。その顔は『当たり前だけども?』という表情をしていた。つまり可能だということを伝えていた。
「いやいや……。無理でしょ?」
と言ったキョーコの目の前で、ダンが柵の上から直立した姿勢のままフワッと浮き上がった。
滞空時間1秒ほどでまたフワリと柵の上に戻る。
キョーコは目を真ん丸と開いてダンを凝視していた。
「ふぅ。やはり慣れていないからちょっと疲れますね……。でも簡単でしょ?」
「どこがですか!」
疲れていてもツッコミを入れざるを得なかったキョーコであった。
「でもソレと今のように橋の中央を歩くことが、どう関係するんですか?」
ダンと同じように、ダンの後ろを歩き始めたリルが聞いた。両手を左右に開いてバランスを取りながらも危なげなく歩いている。
「さすがに浮かせるのは短時間しか出来ませんけど」
「いや、短時間でも浮くのはおかしいから」
「重さをほぼ無くすくらいに浮かべるなら、そこそこ長い時間はいけます。でもあまりに長い時間だと、その、ですね」
「あ~、続かないのね?」
「――闘気が溢れすぎてしまって」
ツッコミと会話の流れから予想したキョーコは、しかしダンの申し訳なさそうな、照れ隠しのような言葉に表情を消した。
「――溢れる?」
「そうですね」
「どのくらい?」
「街中でだと、ちょーっと騒ぎになるくらい?」
「それは確実に大騒ぎになる話に繋がりそうね?」
少し控えめに言ってみたが、キョーコの予想に他のメンバーも全員頷いていた。もちろんダンも心の中で頷いていた。
「ははは。とりあえず長時間は向かないと覚えておいてください。それで、まあソコソコ重い僕が普通に通行部分を歩くと、こう、沈むんですよ」
手で下向きの湾曲を描くダン。
「ダンは『ケージドーシャ』並みですか?」
「それってトンあるかってこと?……無い。って言いそうになったけど、ダンさんならありえそうよね」
イリアとキョーコが何か話している。どうもダンを何かに例えているようだ。
「それで、ここの『大橋』をポーチを付けた状態で渡るときは、橋の中で一番硬くなっている真ん中の柵の部分を渡るようにしているんですよね。ここが一番、橋として分厚い部分ですから」
板の面よりも側面の方が、厚みとして見た場合はより厚くなる。縦に強いか、横に強いかだ。
ダンの言いたいことを理解したメンバーは(1人、「実際のところダンの重量ってどのくらいなんだろ?」と興味を持ってしまったのがいたが)次の橋脚部へと進む。
「!?」
次の橋脚部へと到着した時、ダンが何かを凝視するように見つめていた。
「どうしたんですかダンさん?」
問いかけに厳しい視線のまま答える。
「どうも向こう岸の詰め所で戦闘が起こっているようですね。狼煙が上がってます」
そうダンが指し示すが、それがかろうじて見えたのはリルとロウキとイリアの3名だった。
「向こう岸の最後の橋脚部は、こっちの最初の橋脚部と同じで見張り台の造りになっているんですが、その上で狼煙が焚かれているんです。色としてはまだ緊急事態では無いようですけど……」
「うん」と何やら納得した様子のダンが身構える。それを見ていたタマモがダンの後頭部へと飛び、しがみついた。
「ちょっと様子を見てきます! 皆さんはここに居てください」
「『戦乙女の加護』解放!」
そう言ったダンは、ドンッ! という音と共に跳躍して、次の橋脚部へと飛んでいった。
その後、見ている分にはピョンピョンと次々に跳ねていくダン。
「……なんとなく、だけど。ダンさんには、やっぱりこのペースが遅く感じてたと思う人、手を挙げて」
その質問に半数以上のメンバーが手を挙げて、ダンを見送るしか出来なかった。




