死の森に入る パート4
「あ~、とりあえず試験合格だ」
試験官バルザールの気が抜けたような声に、さっきまでの勢いはどうしたんだろうとダンは首を傾げた。
実技試験の最後に闘気を操れるかどうか聞かれたようなので、とりあえず出しても良さそうな分の闘気を放出したあとバルザールは気が抜けてしまったようなのだ。
ああ、あれか。修練場の中を荒らしてしまったから、その片付けで憂鬱なのかな? だったらその片付けの手伝いを申し出よう!
「修練場の件ですが」
「いえ! 大丈夫です。こちらでやっておきますから!」
「しかしこちらも破損させ――」
「いえ! ほんとうに! 大丈夫ですから!!」
言葉を被せて喋らせてくれない。割とこちらがしでかした割合が多いはずなんだけどなぁ。ただここまで気を使ってくれるならお言葉に甘えよう。とダンは思った。
「わかりました。試験ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げて後ろに居るリルを促してギルドのロビーに向かう。ん? なんでリルの尻尾とか耳が逆立ってるんだろ? とダンは首を傾げた。
≪ニアラの街 冒険者ギルド職員サイド≫
・バルザール視点
「……死んだかと思った」
「私ちょっと……」
バルザールはミニーに視線を向けて、「ああ」と納得した。
「着替えてからカウンターに行けよ」
「そういうギルマスのデリカシーのない発言、ドン引きです!」
そういうなりミニーは駆けだしていった。あっちは職員ロッカーのある部屋だ。いけね、マジで漏らしてたのか。
しかし自分も闘気を放ってなければ、似たように体が反応してたかもしれねぇなとバルザールは心底思った。というかバルザールの人生経験で、あのような闘気が爆発するような相手を見たことがなかった。闘気と言ったがそれは先輩冒険者から聞いた言葉であり、バルザールなりにこの力の本質は本人の命のエネルギーだと思っている。つまりレベルを上げて、人の枠に収まらなくなった力を操る。
それが闘気だと。
その力を使えば身体能力を底上げしたり、射程を伸ばしたりなど様々な使い方ができる。
だが先ほどのは違う。そういった方向性を一切考えず、ただを闘気を放出したのだ。普通それで何かに干渉するのは困難なはず。それを量だけでなしえたのだ。尋常ではない。
「ん~、ちょっと最後に聞いてもらうか」
≪ニアラの街 冒険者ギルド職員サイドアウト≫
「え? 前職があるかですか?」
「はい、簡単なアンケートだと思ってください」
冒険者カードが出来上がったので受け取りにカウンターに行くと、女性の職員がそう聞いてきた。
「特に答えしだいで、どうこう言うことはありませんから」
まあそれならとダンは答えた。
「元兵士です」
「えっと、私は……」
「あ~、ここに来るまで親元だったから、家事手伝いじゃないかなリルは」
「じゃあそれで」
答えて2人カードを受け取る。金属のカードだった。
職員は「男性が元兵士で、女性は職業経験なし」と何かに書いている。あれは最初の用紙か。
「あ、そうだ」
「ひゃい! なんでひょうか?」
いきなり声をかけてびっくりさせてしまったかな? とりあえず聞きたいことだけ聞いてしまおうとダンは手短に聞いた。
「死の森よりも下の難易度の狩場を教えてください」
*
「う~む、そもそも死の森は入っちゃダメってなぁ」
「それ以外はとりあえずどこでもいいそうですよ」
とりあえず南門から外に出て目の前の草むらを見渡す。ここの草むらに獲物となる魔物達が隠れているらしい。とりあえずダンはポーチから短剣と手斧を取り出すとリルに手渡した。
「それじゃあ狩りに行ってみよう!」
「お~!」
こうして東門以外の狩場を見て、大丈夫そうだと判断した場所でリルに狩りをしてもらう。
その間ダンは東門から出た死の森で伐採した箇所から続きを始めた。まだまだリルは死の森では厳しいようだったから別行動だ。
ガツガツと伐採して、時々魔物を落として(物理的に首を)森を進むこと3日。
ダンは森の中の開けた場所にたどり着いた。
ポーチの中から巻物を取り出すとそれを広げる。
そこには地図のようなものが描かれていて、その上に光る球が浮いていた。
「こっち? いやこっちかな?」
ダンはその巻物の光を見ながら草だらけの広場を歩き出す。ところどころ建物の残骸と思わしきものもあるが、ダンはそれには目もくれず光の反応を見る。
『おい』
「ん~」
『この場所をどこだと思っているのだ』
「こっちか?」
『貴様、この我の言葉を聞かんとは。痴れ者が!』
「んん~」
『我こそこの地――』
「ちょっとうるさい!」
石の門の上に居た動物をペシッ! と叩き落としてダンが巻物とにらめっこを再開した。
「あれ? 光の場所動いた?」
テクテクと歩くと光の強さが変わっていく。そして光に導かれダンがたどり着いたのは。
「……さっき叩いた獣じゃないか」
とりあえず目的のモノ? なのかどうかともかく、どうも門の上に居たせいでダンがあっちこっちとウロウロしたのは間違いなさそうだった。
この目を回している獣。さっき言葉を話したから魔族辺りに違いはなさそうだ。目を覚ますまでと辺りの景色を見てみる。
膝くらいの草だらけだが、ある一定の範囲は木が生えていない。軽く草を開いて地面を見れば土ではなく砂の地面だった。おまけにさっきから魔物が近づいてくる気配がない。
この場所がダンの来たかった目的地で合っていそうだが、ここまで何もないとは。残骸は間違いなく残骸と言えるレベルのもので、そこから何かが見つかりそうな気配はない。
とそこまで考えたところで獣が気づいたようだ。
『む? 我は何故地面に落ちている?』
そこで首を振ってダンの姿を確認する。
『き、貴様先ほどの暴力人間』
ダンとしては先ほどのはツッコミレベルだったのだが、相手から暴力だと言われたので素直に謝った。
「強すぎるツッコミでごめんね」
『どこがツッコミだ! 頭弾けるかと思ったぞ!』
「いや、本当にごめんね」
前足を器用に地面にテシテシと打ち付けながら憤慨している獣。ダン平謝りである。
『そもそも人の話聞かないし』
『かと言えば、いきなりトリイの上に上がって我を叩き落すし』
『反省せい、反省!』
ちょっとイラっときたダンが2度目のツッコミを入れたのは必然ともいえた。
「ふーん? とりあえず勝負、ねぇ」
『そうだ、おぬしの持つ巻物と武勇を示すのだ!』
頭にタンコブを作りながらも偉そうだ。
「もう一発ツッコミ入れようか?」
『キューンキューン』獣――キツネというらしい――はその言葉に尻尾を抱えるようにして身を低くした。
絶賛交渉中である。
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順次公開していく予定ですが、これより先の話を見たい方は
アルファポリスでの投稿ページ
https://www.alphapolis.co.jp/novel/872180522/8274942
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