大橋を渡る
ベタルの街を出て南下する。
目指すは大河に掛かる『大橋』だ。
その昔、クロフォード王国が出来る頃にこの橋は掛けられたという。
大量の人員が動員されたとも言われているこの橋は、石のブロックを脚にして、鉄と木材で作られた本体がその脚に乗せられている。
その長さは『橋を歩いて渡ると1日掛かる』と言われているほど長い。
「じゃ走っていくの?」
「まさか。緊急事態以外は橋にダメージを与えないために、前と後ろの間隔を開けた上で歩かせるんですよ。さすがに走るのは禁止です」
ダンならやりかねないことを聞いたファーニは、逆に常識的な回答をしたダンを凝視した。
ダンが苦笑しながら答える。
「橋の利用規約に書いてあるんです。もちろん緊急時はそんな制限はありませんが」
橋の管轄は王国で行っており、王国が雇っている兵士達が監視と管理を行っている。ここに居るのは第1、第2とも違う民間雇用をされた兵士達だ。
丸々ひっくるめて輜重部隊管轄になっている。
そんな雑談をしていると夕方頃にその橋の袂が見えてきた。
ちなみにこれはダン達の進行速度のおかげで、およそ1日という速度でたどり着いたわけだが、普通は2日ないし大型の商隊だと3日は掛かる距離だ。
最近ダンに影響を受けすぎて、自分達の体力が同じ等級の冒険者を大きく超えていることを彼らはまだ気づいていない。多少は上かなと思っているくらいだ。
「今日はここで休んで、明日の朝一で橋を渡ります」
橋の袂。そこは広く整地された広場となっており、チラホラとテントを張って休んでいるグループが居た。
「夜は渡れないの?」
「夜だと視界が悪くなってしまいましてね。ほら、あそこを見てください」
キョーコの問いかけに、ダンが橋の一番手前の脚部分から上へと伸びる構造物を指さす。
そこの屋上部分にいくつかのかがり火が備え付けられているのが見えた。
「あそこで監視をしているんですけど、やはり夜だと橋の上が見えづらいんですよね」
そういって動かす指を追っていくと、橋の向こう側は確かに確認できるとは言えないほど暗闇に消えていた。
「いちおう反対側でも火を焚いているはずですが、やはり全てを見通せるかと言われると厳しいんですよね。そんな状態で橋に細工でもされたら困りますから、夜は通行禁止になっているんですよ。ちなみに橋の両側には通信用の魔道具が置いてあって、通行したグループが向こうに付いているかどうかもチェックしてます」
「……随分と詳しいんだな?」
得意げに説明しているダンに、橋の詰め所から出てきた兵士が値踏みするような視線でダンを注視する。
実際、魔道具うんぬんは王国軍でも事実を知っている人間が少ない。
「ええ、『元兵士』ですから。第2軍に居ました」
自分のギルドカードを提示しながら答えるダン。その言葉にピクリと顔を動かす兵士。
「貴族、なのか?」
「あ~、とりあえず今は貴族ではないですね。ただの冒険者ですよ」
『第2軍』と聞いたからの反応だと理解したダンが兵士へと説明をする。第2軍は輜重部隊への態度が横柄な者が多い故だ。
だが兵士は軽く首を横に振った。
「前はそうだったかもしれないが、今じゃ俺達は『第3軍』なんだぜ?」
自信満々で応える兵士に、逆にダンが困惑する。
「『第3軍』? 僕が王国を出る時には、そんなもの無かったはずですが??」
「兄さんはいつまで軍に居たんだ? 通達はここ最近の話なんだが」
「え~っと? 約2か月くらい前かな?」
「ってことは、ほぼ同じ頃じゃないか?……名簿作成よし! 明日渡る際には詰め所でチェックをするように」
そういって詰め所へと帰っていく兵士。
ちなみに経験豊富な兵士だった場合、ここで違和感に気づいただろう。
王都から移動するのにかかる日数に。
おおよそ2か月。
王都から2か月前に出たというならば、つい最近顔や名前を見ていてもおかしくないのだ。何故ならば、ココは王都から来て大河をすでに超えた先なのだから。
だがダンの口調があまりに自然すぎて(そもそもダン自身はちゃんと答えているから、不自然になりようもないのだが)あっさりと流してしまったようだ。
とりあえずダン達はマントや毛布を出して、ある程度固まった状態で一夜を過ごした。
翌日。
大橋の入り口が開けられて、この広場に到着した順番に詰め所から呼び出されて大橋へと進んで行く。
ダン達も軽くパンと作ったスープを飲んで時間を潰していた。
「次! リーダーダンのグループ!」
「「はい!」」
と呼ばれたダンともう一人立ち上がる青年。
お互い顔を見合わせると自分を指差して「呼ばれたのコッチじゃない?」と主張する。
割とありふれた名前なのだ『ダン』という名前は。
仕方なく詰め所へと向かうダン。向こうのダンも同じように詰め所へと向かうようだ。なぜか他のメンバーに立て立てとジェスチャーしているが。
ほどなくして詰め所に到着するダンと、もう一つのダンパーティ。
「すみませんがどちらのダンでしょうか?」
ダンが兵士へと質問する。
「ええっと」
「ちょっと待てよ」と名簿を確認し始めた兵士を止めるダンパーティのリーダー。
「俺達はもう渡る準備が出来てるんだ。俺達を先に行かせろよ」
ダンはその主張に『何言ってるんだコイツ?』と白けた目を向ける。
その時兵士が名簿を確認し終えた。
「メンバー12名のダンさんの方ですね、お呼びしたのは」
相手のメンバーは5人。どうみても12名居るとは思えない。
そもそも12名という大所帯はもはやパーティの域を超えている。それで支障が出るかと言えば、やはりパーティを維持する金が多く掛かると言うデメリットがある。よほど利回りの良い依頼をこなせなければパーティとしての維持が困難だ。マンパワーを取るか、効率を取るか。パーティの人数もまたそれぞれの考えなのである。
「じゃあ僕らですね。お~い!」
ダンが手を振ってメンバーを呼ぼうとした時、その肩をもう一人のダンが掴んできた。
「あんな大人数じゃ時間掛かってしょうがねぇ。俺達と代われ」
ダンはあきれ顔で兵士の顔を見る。
「そんなに時間は掛かりませんよ? それにもう一人のダンさんは……、4番手ですね」
「だそうですよ?」
「だそうですよじゃねぇんだよ! 力づくで分からせてやろうか?」
ダンともう一人のダンは体格的にもう一人のダンの方が大柄であった。そしてその大柄の体から力の違いを見せつけてやろうとしていた。
――もっとも、それは相手の力量を測れないと恐ろしいことになるのだが……
*
ダンからの呼びかけに、手に持っていたパンを素早く口に放り込み、荷物を纏めてカバンに仕舞っていたリルはその音を聞いた。
都合、5回。
首を回してそちらを向いたリルが見たものは、ダンの平手で宙を舞う男達の姿であった。
しばらくきりもみ回転しながら飛んでいく男達を見ていたリルは、ハッと自分の手が止まっていることに気づいて荷物をカバンへと仕舞い終わるとダンの元へと歩き出した。
*
「ふむ? とりあえず起きたら、この橋での注意事項を教え込んだ方がいいかもしれませんね?」
「そうですね。横入りとか軍でもなければ出来ない事を教えておきましょう。おそらく橋の利用は初めてなんでしょうね」
ぶっ飛ばされてピクピクとしている、おそらく冒険者の男達。
ちなみに交通の要所として、輜重部隊――今は第3軍か――のかなり腕の立つ人員が配置されているのがこの『大橋』だ。詰め所を利用した防衛ならば、上級冒険者でもなかなか突破することは叶わないだろう。
そういった事態に陥った場合、ここの兵士には捕縛から最悪致死の攻撃も認められている。先ほどの冒険者であろう男達くらいの力量であれば、今ダンの横に居る兵士一人で事足りていただろう。
ただし怪我無く。という条件が付くと難しかったかもしれないが。
それゆえ平手一発で気絶させられた男達はマシだったと言えよう。
その後ダン達全員のチェックが済むと、ダン達は『大橋』へと足を踏み入れた。
ダンは相手の首が『ネジ切れない』ように
ソフトタッチで対処しています。
良い子は真似しないでね?




