特殊魔法を覚える
トリイを見上げつつ、ダンは腕組をしながら思案をしていた。
「ふむ。さて、どうしたものか」
『まずはワシの尻尾の心配をせんか!』
首を回して文句を言ってくる相手を見る。
そこには自分の尻尾を抱え込みながら、ふーふーと自分の息を吹きかけているタマモが居た。
「いや、ソレはタマモ自身の招いた結果でしょうが?」
『か、かといってワシのふさふさ尻尾を揚げて良い訳にはならんじゃろうが!』
タマモの尻尾の先は水分が飛んだかのようにパリパリになっていた。とはいえ先端部分のことであり、毛の部分までしか油に入っていなかった。ダンもさすがに寸止めをしたらしい。
それはさておき――
『捨て置くな!』
「ん~、ちょっと確認したいことがあるんですけども、いいですかタマモ?」
『なんぞ聞きたいことがあるんかい?』
機嫌悪そうなタマモの声を無視して、ダンは地面へと指し示しながら先ほどから考えていることを質問した。
「龍脈移動、でしたっけ? ソレってまた同じようにココからベタルの街に移動出来るんですか?」
『ふん。造作もないわ! 向こうから引っ張ってもらえばいいのじゃからな』
ダンの質問に「むふんっ」とキツネ胸を張って答えるタマモ。
更にダンが聞く。
「引っ張る。誰が?」
『そりゃもちろん向こうにいるヤツじゃ』
「だから誰が?」
『ん? 決まっとろう、ミズチじゃよ』
「……それって、ミズチは知ってるんでしょうね?」
『そりゃ――あ』
涼しい風が流れた。
その反対にダラダラと汗が流れ始めるタマモ。キツネ顔がヒクヒクと引きつっているのがよく分かる。
「はぁ」と溜め息一つ吐いて、ダンは手をゴキリと鳴らす。
『まてまて! 向こうに引っ張ってもらわんでも、なんとか探せばたどり着くわ!』
「……ちなみにどれほど掛かりそうですか?」
『少なく見積もって……、小一時間くらいかの?』
コテンとあざとく首を傾げながら言ったタマモに対して、ダンは両手に闘気を込め始める。
『ちょ! 怒りの沸点が低すぎじゃろ! 少し時間が掛かるのは仕方なかろう!?』
そこでダンがタマモと自分の温度差に気づいた。
もしかしてと、ダンはタマモに先程の空間で自身が体験したことを語ると――
『申し訳なかったのじゃ~!』
とタマモが頭を深々と下げた土下座を披露した。
更にその隣にはダンをこちらまで連れてきた分身体のチビ人型も揃って土下座している。
『まさか龍脈の中で、人間は生存出来んとは知らなかったのじゃ~!』
「正確には生存が困難なだけで、生存出来ますからね? それだと僕、人間じゃないみたいに聞こえちゃいますから」
『いやいや、聞く限り普通の人間じゃと形を保てそうにないんじゃろ? 人間かどうか怪しいダンはともかく、他の者達には使えん術と言うしかなかろう?』
「おい?」とタマモにツッコミを入れるダン。
とはいえ、確かに闘気の操作を常日頃から行っているダンが咄嗟のことだとしても、半分近くの闘気を消費した現実を踏まえれば、常人が使った場合の命の保証が出来ない方法だと言っても過言ではないであろう。
「う~ん、ベタルまで走っていくとして、何日で着けるかな?」
ダンが現実的に取れる方法として、やはり通常の移動手段を考え始める。
『……よし! ダンよ、ワシに1時間くれ。ワシだけで向こうの地点を割り出してこよう。そうすれば先程と同じように迷いなく最短の時間で向こうにたどり着けよう!』
そういうタマモの足元でチビタマモがフリフリと手を振っている。
『なるほど』とダンは思った。
確かに先程の認識のすり合わせを行った際に、精霊族であるタマモは先程の空間である龍脈の中で体力の消耗は一切しなかったらしい。ならばここで時間を多少使ったとしても、ダンが走っていくよりも早くベタルに戻ることが可能になるかもしれない。
「ではタマモ。頼めま――ん?」
フンスッと鼻息荒くやる気に満ちているタマモに頼もうとしたダンは、トリイの足元の地面が波を打ったのが見えた。
軽く警戒するように自然体となったダン。そしてタマモもソレに気づいたのか視線を地面に向ける。
シュ!
『こん!?』
何か細長いモノが地面から飛び出してくると、タマモの額を打ち、そのままの勢いでダンへと飛んできた。
ダンはそれを左手一本動かしてキャッチする。そしてキャッチしたものを見て首を傾げた。
「んん? 契約の巻物、ですか??」
それは土地契約の巻物だった。しかしダンの記憶にある限り、この巻物はダンの腰のマジックポーチ辺りに突っ込んでいたハズのモノだった。少なくともここに置いていた記憶はない。
トリイとダンの間に居たタマモが、自身の額を前足で擦りながらダンへと言った。
『その巻物、どうも物質的な存在と、闘気や魔力といった霊的な存在の二重存在のようじゃの』
「……。それはどういうことなんでしょう?」
『ん~、詳しくはワシも分からんが、どうもワシのような存在に近い雰囲気が感じられるな。ほれ、今の状態ならダンも注意して見れば分かると思うぞ』
タマモの言葉に疑問符を浮かべるも、そのタマモの助言に従いしっかりと手の中の巻物を見る。すると確かに手に持った巻物の輪郭とは別に、闘気のようなモノが輪郭から揺らいで見えた。とその闘気がダンの闘気に混ざりこんでくる。
『システム構築。固有魔法、帰宅の座標登録が2点以上があり、条件を満たすことから術式を登録いたします』
「ほへ? あああああ、いったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
巻物からダンの中へと入ってきた闘気のようなモノがダンの頭部の中へと侵入してくると、思わず口に出すほどの頭痛というか強烈な刺激がダンを襲ってきた。
ダンの経験からすると、精神系魔法の直撃をもろに食らった時と同じくらいの衝撃が襲ってきた。どこが痛いかと表現しづらい痛みがなんとも言いづらい。とにかくあまり経験が無い類の痛みだ。
しかしソレは1分も経たずに落ち着いた。
『だ、大丈夫かダン?』
いきなり「痛い!」と騒ぎだしたダンを心配するタマモ。
「あー、あ~とりあえず?」
『と、とりあえず? まあ無事ならよいが……。それで今のはいったい?』
「えっと、ちょっと待っててくださいね。あんまりスキルとかシステムって馴染みがないもので……。うん、もしかしたらタマモの協力は無くても大丈夫。かも?」
右手の人差し指でこめかみ辺りをトントンと叩きつつ、ダンはあまり慣れていない自分のステータスへと意識を向ける。そして自身の『鍛冶魔法』の次にあるものに気が付いた。
「『帰宅』? どうもコレが目標まで案内してくれそうですよ」
手にした巻物を振ってアピールするダン。
そして巻物を開いてみる。
そこにはいつの間にか継ぎ足されたのか地図図面と、魔法なのかその地図上に光点が2つ映っている。地図もそんなに正確ではないが、一つの光点はここ、もう一つの光点はベタルを指し示しているようだ。
「さて、後の問題ですが……」
『帰るだけじゃろ? なにか忘れ物でもしたのか?』
「単純ですけどね。ようはコレを使って、僕が死んだりしないかの確証が、ね?」
『あ~』とタマモも唸る。
先ほどダンに説明された生命力たる闘気の流出が起こる龍脈、そこを移動するだけでもダンが死にかけたというのにここに来て別の方法の掲示だ。確かに警戒しても仕方が無い。
「とはいえ、あんまり別行動するのもなんですからね。というわけで」
なにが、「というわけ」なのかは分からないが、タマモはダンが何かをするのを察して、チビタマモをダンの背中へと貼り付ける。
「固有魔法『帰宅』発動!」
ダンは広げた巻物へ魔力を流して魔法発動の合言葉を唱える。
するとダンの姿がトリイへと吸い込まれるようにして消えた。
後に残されたタマモがその消えていく姿を見てボソリと呟く。
『ああいう風に消えるのか……。向こう、結構大事になってそうな気もするのぉ……。やめよ、深く考えるのは』
タマモは考えることを放棄した。後に再開した面々に、このことで相当絞られることになるのは仕方のない事である。
*
一方、固有魔法『帰宅』を唱えたダンは行きと同じ光景を見ていた。
唯一違うのはダンの周りに魔力で作られた膜のようなものがあることだった。
ダンは自身と周りを観察して考察していく。
「なるほど、闘気と魔力が混じりにくいことを利用してるのかな? 魔力で包んでいるからか、闘気の流出は来るときよりも抑えられてる感じですね」
完全にシャットアウト出来ているわけではないが、自身で闘気の操作もせずに過ごせるのは割と快適である。
魔力にこんな性質があるとは知らなかったとか考えていると、行き先に光の点が見えてきた。
そのまま突き抜ける様に光を抜けると、そこは今朝の場所だった。
「「「ダンさん! おかえりなさい」」」
仲間達に迎えられたダン。そんな仲間たちを見渡してダンが返事をする。
「おお、ただいまです皆さん。ご心配かけましたね」
しかしダンの言葉に全員がこう返した。
「「「ダンさんですから心配しませんでしたよ」」」
「ええ~……」
謎の信頼感にダンが思わず遠い目をしてしまった。
カムバック、ダン。




