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危うい事態。判決はギルティ

 タマモに引っ張られるように連れてこられたダンはその風景に目を奪われた。


 幻想的ともいえる何色もの光の流れがあるような、空も台地もないような空間を流れる様にダンはタマモに手を繋がれて流れていた。

 ダンも初めて見る光景に「ほう」と感心しながらも、ダンの手を引くように先行している()()()()のことに意識を向ける。


『こいつ、最初は魔物とかで試せと言っておいた言葉をすっかり忘れてるな?』

 まあ、こういった()()を見れたことも悪くはないのかと、タマモに引かれる手とは逆方向の手を横へと伸ばしてみた。


『触れるわけじゃないでしょうけど』

 しかし伸ばした手には()()()()があった。正確には伸ばした腕にも感じたのだが……

「? 痒い? いやこれは――」

 視線を戻した手に向ける。しっかりと見ると、指の輪郭がわずかににじむように()()()()()()

「――溶けてる?」


 以前、消化液で溶かされた(大型にまで肥大したスライム相手にした)時とはまた違うが、自分自身の身体に意識を向ければ闘気(オーラ)が勝手に垂れ流しの様になって周りに流れているように感じられた。


 闘気。すなわち生命力。つまりは――()()()()だ!


「おおお!?」

 さすがに看過出来ない事態に、ダンは慌てて自身の闘気を操作する。それはいつもとは逆に『戦乙女の加護』を解除する時と逆方向、つまり意図的に自分で『戦乙女の加護』と同じように自分という身体の殻に闘気を押さえつけるようにしたのだ。



 しばらく闘気のコントロールを行っていると、自身の輪郭を保てていることに気づいた。

 そっと安堵の息を吐いて肩を撫でおろしていると、周囲の状況に気が付いた。


 周りの景色。

 それは()()()()()()()をもった、何かの流れで満たされた空間だったのだ。


「全て闘気? いや意思なんて無さそうだから、生命力の流れ? ということは――」

 自分なりにたどり着いた結論に驚く。

「ここは何かの生き物の()()?」


『ん? どうかしたのかダン?』

 ダンの焦りなど気づいてもいないような雰囲気のタマモ。

 それに答えることなく、ダンはしっかりと自分自身を意識しながら周りへと手を伸ばした。


『――スキル――ーツへのアクセス――』

 頭に聞こえてくる()()()()()()


 ダンは伸ばしていた手を引いて、自身の考えを修正した。生き物ですらない。


「――人の人生? それも複数――下手をすれば」

『あ~、あまりそこら辺の記憶を見ようとしない方がいいぞ。何せ、()()()()()記憶か分からんからな。ワシも多少は表面だけ撫でることはあるが、あんまり奥に行き過ぎると()()()()()()()()が曖昧になるでな』


 おそらくは、

「闘気が動いた時の残滓?」

『ワシも詳しく説明出来るわけではないが、そのような時の記録のようなものじゃな。ほれ、そうこう言っているうちに到着じゃ♪』

 タマモの言葉に進行方向(タマモの顔が向いている方向)に光が見えてきたかと思えば、またダンの視界が全て真っ白に染まっていった。


 *


 最初に鼻が空気の匂いを感じ取り、ついで自分の足が地面の上に降り立ったことを感じさせる感触が足裏に感じられた。

 一拍置いて視界に周りの景色が認識されていく。

「うぐ!?」

 ダンは感覚がほとんど戻ってきた瞬間、身体が急激に脱力して片膝をついた。


『さすがのダンでも目が回ったかの?』なんていう軽い口調のタマモの言葉を聞き流し、ダンは素早く自身の状態を確認していく。

 その結果、

「抑えたつもりだったけど、結構、闘気が流れたなぁ」

 全快状態の時から考えれば、現在の闘気量はおよそ6割ほどになってしまっている。

 行動に支障は無いが、急激な脱力感は自覚していない闘気の消費、というか漏洩が原因だ。


 深呼吸して、全身の闘気バランスを整える。

 手足の方が希薄になっていたのを、身体の中心に濃く残っていた闘気を循環させて手足の力を確認した。


 数秒確認してからダンは立ち上がる。

 改めて周りを見回せば特徴的なトリイとログハウスが見える。


「本当に死の森の中にまで移動してきたんですね」

 ダンは空を仰ぎ見る。太陽の位置からすると――

「それほど時間も経ってないかな?――っとと」

 空を見上げたからか、ダンは少しよろけた。腰を落として踏ん張る。自然と顔も下を向いて気が付いた。


「――タマモ?」

『どうした?』

この地に居る狐姿のタマモ本体がダンへ聞き返す。

「なんで、()なんですかね、僕!?」


 一切の服を着ていないダンの姿がそこにあった。


『あ~、お~?……そういう趣味じゃったかの? いやいや、まてまて! あ~、恐らくアレじゃ。この移動は生き物を対象としているから、無機物は運べなかったんじゃろう』

 タマモがボケを言ったが、ダンが拳を握りしめていることに気づいて、慌てて自分なりの見解を伝えた。

 言われたダンもジトリとタマモを見ていたが、自分でも先程の空間にモノを持ち込めるかと考えて、ソレが難しいことだと納得した。

「……は~、ちょっと残していった服を着てきますね」

 たっぷりと無言の抗議を視線で行ってから、ダンは若干の脱力感が残っている体を動かしてログハウスへと入っていった。


 残ったタマモはトリイの下に前足を着きつつ、自身の感覚を生かして検証を始めた。

『ふむ、やはり人が通るほどの穴が開くのは特定の場所だけそうじゃな』

 その後も自身の腕に通した繋がりを感じつつ、あーでもないこーでもないと考えていく。


 そこに足音を消した一人の男が近づいているのを気づかずに。


『う~む、これは何度か試してみない――と?』

 するりと胴体に何かが通った後、タマモの体は急激にトリイに向かって浮き上がった。


『な、なんじゃあ!?』

 狼狽するタマモに、ゴトリと何かを置いた音が下から聞こえた。

 特に拘束されていない頭をそちらに向けて音の正体を見る。


『鍋に、……あぶら?』

 そこには大きく開いたやや深い鉄の鍋と、パチパチと音をたてる液体が満たされていた。

 タマモもダン達が生活していた時に見たことがある。


 調理用の油だ。


 そして吊られた状態のタマモの体がゆっくりと回転する。

 そこには非常に良い笑顔の人物が居た。

『こ、こ、これはどういうことじゃダン!?』

「タマモ――よーく思い返してみましょうか。ここを出る時にした()()を」


 ニコリと笑うダン。

 よく見れば右手が持ち上がっており、そこから極細の光る糸のようなモノが上へと伸びているのが見えた。タマモはそれを追う様に視線を上げていく。ソレはトリイの横木に掛かってから下へと下がっていき――


『闘気の糸とは。また超絶技巧の技術をサラッとこなすのぉ』

「そんなことを気にしてないで、思い返してみましょうか?」

 常人の技ではないダンの腕に冷や汗を垂らしていたタマモであったが、ダンの笑顔のまま底冷えのする声に倍の汗が出てくる。


 間違いなくキレている。


『ええ~!? なんで怒っとるんじゃ? 最初は上手くいかんかったが、移動には便利な術じゃろう? ダンにとっても悪いことではなかろう?』

「ふむ……。一回()()()

 その声と共に、ダンの手から伸びている闘気の糸が更に伸びてタマモの体が下へと落ちる。


『ワシのこの身ならば多少の熱さは感じてもヤケドなどは――あっつい!!』

 多少なりは暑さ寒さを感じるが、そもそも自然から発生した精霊族の身体。

 普通なら、たとえ溶岩の中に叩き落されても熱い湯ぐらいで済む(とはいえ山の活動としての現象である溶岩相手だとしっかりと熱さを感じるが)はずが、尻尾の先が使った瞬間に鋭いとげで刺されたように、身の奥まで暑さが伝わってきて思わず悲鳴が口から出るタマモ。


『なんでじゃ!? 普通の油じゃろ』

 タマモが悲鳴を上げると同時に闘気の糸が収縮したのか、先程と同じようにダンの目線の高さまで浮き上がったタマモはダンへと抗議の声を上げる。

 それにチョイチョイと残った手で下の鍋を指し示すダンに、タマモはその視界を改めて下の鍋へと向けた。すると鍋の持ち手の部分に薄っすらと光るものが見える。ジッと見つめたタマモは気づいた。


 ダンのもう一つの手から鍋へと闘気の糸が伝わっていることに。


「闘気で油を思いっきりかき回して、油の温度を上げてみました。ついでに油全体に闘気を流してあります」

『闘気の無駄遣いが酷すぎる!』

 タマモのツッコミを受け流して、ダンは改めてタマモに向き直る。


「さて――。そろそろ頭もはっきりしてきたかな? ちょっと時間が経っているけど、()()、思い出してくれたかい?」

 言葉にも怒気が混じってきたダンに対して、タマモもしっかりと記憶を思い返す。

 そしてゆっくりと丁寧に記憶を呼び戻していくと――、『あっ!』と声を上げてガタガタと震え始めた。



『とりあえず『地脈』とやらを使った瞬間移動の実験は、まずは適当な魔物を使って行いますからね?』

 ね――、ね――、ね――

 タマモの記憶の中で、ダンのセリフがリフレインされる。


「そう。思い出してくれてうれしいですよタマモ。――出来ればもっと前に思い出してくれたら良かったのに」

 冷ややかな視線に変わったダン。タマモはしどろもどろに言葉を紡ごうとする。

『いや、その~』

「『もしかしたらバラバラになるかもしれない』とか言われてましたけどね。――一歩間違えたら全身あの()()に溶かされてたかもしれなかったんですよ?」

『えっと、それは、じゃな』


有罪(ギルティ)


 その声と同時に、油にドボンされた一匹の精霊族の声が森の中に木霊した。 

イメージはトワイライトゾーンとかワープ空間とかです。


体が溶けるとか、ガチ恐怖。

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