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ようやく大会が終わる。そしてキツネやらかす

「え? すみません、良く聞こえませんでした。それでどうしたんですかダンさん」

「ん? いや、()()も振舞う食材に加えて貰おうかと」

 ダンにそう言われたメンバーは聞きたくない一心で耳が悪い振りをしたが、ダンは先程と同じことを繰り返し発言していた。

 つまり――


「その()()()を食材に出すんですかぁ!?」

 唐突に乱入してきた見たこともないワーム種が討伐されて無事に大会を閉めることになったのだが、この後の振舞い食事の素材にとダンが先程のワームを大会職員へと引き渡そうとしていたのを引き留めようとしていたのだった。


「いやいや、さすがにソレは出しちゃマズイですって」

「マズそうですか? これ結構イケそうですよ。ほら内側の肉なんてこんなプリプリしてて」

 切り開かれたワームの内側。そこから切り出したのであろう白いプルプルとした見た目の――


「あっふ」

 ウェンディがそこまで見た時点で気を失った。


「ウェンディー! 死ぬなー!」

「ほら、こんな肉の状態にすれば美味しそうに見えませんか?」

 ダンが掴んでいる肉がピクンと収縮する。


「「はぅ」」とポーラとリンが揃って気絶した。


「とはいえ食べられるか試食はしておくべきですね……。お、持ち込み食材を焼ける場所がありますね。すみませ~ん、ちょっと場所を貸してくださ~い」

「お? 兄ちゃんのソレは見たことねぇ肉だな? 食えるのか?」

「食べれそうなら振舞いますよ~。それじゃあ少し端をお借りして」

 その場に居た街の住人に声を掛けつつ、肉を網の上に乗っける。

 途端にプギュル! と肉が音をたてて――


「「――――」」声もなくファーニとマロンが倒れた。


「肉を焼くだけなのに、皆さん大仰な反応ですねぇ?」

 とその反応をした者達を首をすくめてダンが見ていた。

 肉の焼き加減を見るついでに。


「――なぜキョーコは大丈夫なのですか? イリアは感情値を最低値にして耐えているのですが?」

 やや遠く、直視しないような位置取りのイリアが、隣で平然としているキョーコに問いかける。

「え? 何故って……、アレって言えば『ホルモン』っぽいから忌避感無いわね」


 焼肉大好きな家庭育ちのキョーコは普通に耐性があった。

 他の反応しなかったメンバーも肉好きだったり、内臓食をした経験があったので割と平気だった。

 それでもワーム本体からは目を逸らしていたが。


 *


 そんな一幕もあったが、これにて無事に釣り大会が終了した。

「それはそれとして、()()()のが居るんだったら事前に教えてほしかったですよ」

 ダンは実況席があった場所で大会職員に愚痴を言っていた。

 ちなみにベタル冒険者ギルドのサブマスターだったりする。

「すみません。なにせ最後に確認されたのは3年も前だったものですから……。時同じく前街長の行方が分からなくなった事も重なり、当時の冒険者ギルドも相当混乱してましたからねぇ」


「「「「「ぶー!」」」」」


 その言葉が聞こえてきたと同時に噴き出すメンバーが居た。「なんですか唐突に。汚いなぁ」とダンはワームの串焼きを食べつつサブマスターと会話を進める。


「え? もしかしてコレ」とか

「あ~、既にいくつかは腹に納めてしまいました」とか

「共ぐ――おぇ」とか

 何やら青ざめているメンバー。


「仮に食われてたとしても3年も前ですよ? 既に跡形もなく消化されてると思いますが」

「ダンはデリカシーという言葉を知っていますか?」

 手に持つ串焼きを見て「肉は、肉」と言うダンに、イリアから冷え切った視線と言葉が投げかけられる。


「よくは分かりませんが……、ウチでは()()も亡くなった相手を供養する意味があるんですけど? さすがに食われた直後の場合、相手の腹から遺体を引き吊り出して、その上で食えるヤツだったら食い、食えなさそうなヤツであれば燃やし尽くすのがウチの流儀だったんですよ。なんていいますか、『やり返す』という感じで」

『どこの蛮族だ』とイリアは思ったが、ダンなりには気を使っていたのかと「それは知りませんでした」と謝罪の言葉を述べる。


「それに皆さん、()()かなりの量を食べてますよね?」

 そう言われて首を傾げるメンバーに、ダンは「ああそうか」と手を打った。

「以前の拠点近くに居た『黒い熊』。あの中には()()()も何頭か居ましたよ?」

「「「あ、ああ~」」」

 言われて人種の3人が「そういえばその可能性があった」と肩を落としていた。


 元狼の2人は、先程反応したのはダンの目の前で間接的に人食いをしてしまったかと思っての反応だったので、今のダンの言葉には反応していなかった。


「私はセーフですね」

「え? 道中出した料理、それに使った熊肉は判別出来ませんよ?」

 一人『セーフ』を宣言したイリアに『アウト』と告げるダン。

「というか、そんなことを気にしてたら食事できなくなりますよ?」

「うう、頭が痛い~……。あれ、ダンさん()()()()美味しそうですね?」

 ようやく気絶から復活したのかウェンディを筆頭にゾロゾロと続くメンバー。


「一応、皆さんの分も確保してありますよ。そちらです」

 人数分の皿の上にタレを塗られて焼かれた肉の塊が乗っかっていた。飲料用の桶から水を汲み、皿の肉を食べ始めるメンバー。

「え? 説明しないんですか?」と先ほどの反応を見ていたイリアが効く。

「お、これ美味しい」などと舌鼓を打つメンバーを見て、ダンが頷く。


「つまり美味しくいただければ、他は些細なことだって意味ですよ」

「「「同意するのが怖すぎるので、保留とさせてください」」」

 なぜかダンに向けて腕を交差させているメンバーをウェンディ達がキョトンとした顔で見ていた。


 *


「で、話が脱線しましたけど、つまり3年前からベタルの街は代表者不在だったと?」

「まあ、元々街長の方は冒険者ギルドのギルドマスターや商業ギルド、衛兵詰め所との連絡役とか街の調整役だったので、街長不在の間は各所の代表が連絡をしつつ、それぞれの分野で街の治安維持をしてました。当然その前に王国への代わりとなる代表者の派遣も依頼してますよ?」

「それで3年経っても代わりが来ない、と?」

「いえ、途中に1度は来たんですけど……」


 そこまで言って言い淀むサブマスター。


「なにかあったんですか?」

「それが、ダンさんが行ったように水神様の島での権利書を持って宣誓するという儀式を断られまして」

 なぜ宣誓が必要なのか? まあ十中八九、ミズチというかあの祠との契約が絡んでいるだろうという事で一先ずそちらの質問は保留する。


「……ちなみに理由を聞いても?」

「曰く『とんでもない姿の魔物の報告があった島に足を踏み入れるなんてしたくない!』と」

「割とまともな理由ですね!?」

「ですので毎年行われる釣り大会、その素手釣り大会優勝者ならば腕っぷしもあるだろうから、優勝者へ権利書を持たせて島に送ろう、と」

「でしたら余計に事前説明は徹底しておくべきでしたよねぇ!?」

「いやぁ、ノリでつい。……大変申し訳ございませんでした」

 あははと笑ったサブマスターであったが、ダンが本気の表情を見せたのでそれは綺麗な土下座を見せた。


「あとは後日、契約のこととか詳しい事をギルドにて聞かせてくださいね」

 そういってダンは宿屋へと足を向けた。


『ちょっと待ってくれんかダン』

 そんなダンを呼び止めるタマモ。


「どうしたんですか?」

『精霊が居るほどの土地じゃ、ここならば龍脈がありそうでな? しばらくワシはここに居させてもらっても構わないだろうか?』

「あ~、以前に言っていたヤツですか……。まあ大丈夫ですよ。宿の場所は覚えていますよね?」

『それはバッチリじゃ』というタマモを置いて宿へと帰っていくダン。


 大会会場も熱気が徐々に冷めていっているのか、人がチラホラとしか見受けられない状況であった。

「とりあえず体を洗ったら今日は寝るとしますかね」

 疲れたなぁとダンは宿へと到着すると、宿泊している部屋ですぐさま寝息を立て始めた。

 置いてきたタマモの事は頭から抜けていた。


 *


『ダン、ダン! 起きるのじゃ!』

 宿の部屋で気を抜いていたダンが、唐突に揺さぶられて意識が覚醒する。

 気を抜いていたといっても、さすがに自分の傍に近づいてきたのが誰かは分かっていたが。


「なんですかタマモ。……まだ朝日が出たばかりの時間のようですが?」

 欠伸をして大きく息を吸って頭を起こす。視線を横にずらせば窓から見える外の明かりはまだ弱いものであった。まだまだ朝方であった。


『龍脈の移動法を考え付いたのじゃ! 実験したいから手伝ってくれ!』

 さすがにタマモの声に周りから起き上がってくる気配が感じられる。

 ほどなく全員が起き上がってくると、ダンはタマモに連れられて宿から桟橋の辺りまで移動してきた。


「それで、実験ってどうやるんですか?」

 ダンの問いかけにタマモがヌフン! と胸を張ってその小さな腕を差し出してくる。

 フリフリと動かして、『握れ』と催促されていると分かったダンがその手を取った。


『論より証拠じゃ! やってみせよう』

 そういったダンとタマモを中心に地面から湧き上がる光があった。

「? ちょっと待てタマモ。まさか――」


『龍脈よ、我をかの地へ送り給え』

 さらに光が強さを増す。

「最初は動物か何かで」

龍脈移動(ジャンプ)!』

「試してって言ったで――」

 そこまで言ったダンとタマモの姿が、その場から消え去った。


 後に残されたメンバーは茫然としていた。



「――最初って、なにかで試してみるのではなかったかしら?」

 リルはダンとタマモの会話を思い出してポツリと呟いた。

タマモ。あうと~


流れるようなウカツキツネであった。

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