大会は終了したけど……
ダンは声が聞こえてきた後ろを振り返る。
そこにはミズチが水面から体を伸ばして、ダンへと近寄ってきていた。
「もう少しだと思うので、ちょっと待っててくださいね?」
『じゃあ、ちょっとちょうだ~い』
アングリと口を開けると、ダンの肩辺りへと噛みつくミズチ。
チュルルル~と音をたてながら、ダンの中のナニカが吸われていく感覚がきた。
「だから待てと言ったでしょう?」
そんなミズチの顔面に裏拳をぶち当てて川へと送り返した。
「ふぅ。あ、続きお願いしますね」
ダンに促されて実況者が意識を取り戻したかのように司会を続ける。
『え、え~、では優勝者のダンさんには後に金貨1枚を贈らせていただくと共に、素手釣り大会優勝者を称えての水神様の島の権利書を送らせていただきま~す』
「……え? 権利書?」
『ダン氏は外部からの参加者ですから説明させていただくと、この祭りの主旨として大河の魔物を間引くのですが、昔は水神様の島から街までの間の大河は比較的安全に魚を釣ることが出来たそうで、それに倣って安全確保に最も貢献した人を水神様に例えようと、だいたい3年くらい前から行われるようになりました~』
「なんですかその微妙に新しい風習みたいなのは? 3年?」
なにやら胡散臭い説明をされたような顔でダンが聞き返した。
『え~、とりあえず今日から1年はダン氏にこの街の名誉街長の役職を送られます~』
「いや待って? 話が急展開し過ぎで分からないんですけど……、名誉街長?」
『それでは島の権利書を前回優勝者から引き継ぎを行います』
「???」
もはやダンのツッコミが聞こえないのか、ダンだけが疑問符を大量に浮かべた表情で立っていた。
『後で詳しい事情は話します~。ではどぞ~』
そういってダンの目の前に現れたのは、先程の釣り具部門優勝者と言われていたウラージミルという冒険者だった。その彼が手にした巻物をダンへと突き出す。
「来年は俺が優勝者だ!」
キラーンと歯を輝かせてサムズアップするウラージミル。
あまりの展開にダンが『あの親指圧し折ったら、僕の話聞いてくれますかね?』とか考えていたが。
『それでは大会終了の締めとして、水神様の島までの防御網を引き直ししたいと思います』
確かに間引いたのにそのままでは魔物が入ってきてしまうから当然の処置だな。とダンは自分の傍らに大王ツナを下ろしてその成り行きを見守ろうとした。
『それでは優勝者の方、よろしくお願いいたします』
「え?」
*
「そうですか……。水神様の島の権利書を持っている人が、その権利で島に上陸して、島の方から網を引っ張るんですね……」
ちなみに現在は島と街の間の大河は魔物が間引かれている状況。魔物がウヨウヨしているわけではないので比較的素直に島へと泳いでたどり着ける。
「これ優勝者が損をしてるんじゃないですか!?」
ダンが荒ぶっていると拡声された声が聞こえてくる。
『島にあるちょっと細いヒモを手繰り寄せる様に引っ張ってください~!』
「なんか騙されてる」と文句を言いつつ、ダンは言われたとおりに島にある細めのロープを掴み上げると、ぐいぐいと引っ張り始めた。
しばらくロープを引っ張っていると、どんどんと負荷が重くなってくる。
『あ、コレ鍛錬にいいかも』とかやや横に逸れた感想を思いつつ、段々と太さを増していくロープを引っ張っていく。ふと手元の延長戦上を見れば、朝大会が始まるときに街に巻き上げられた防御網とやらが島まで引っ張られてくる様子が見える。
『そのくらいで大丈夫です~! 反対側もおねがいしま~す』
「は~い。……たしかに素手で釣り上げる。その優勝者ならロープを引くのもお手の物なんだろうけどなぁ」
実際、例年は優勝者以下上位者を複数島に送り、優勝者を除くメンバーが川の中でロープを引くのを手伝って、島の上で優勝者が引くという方法を行っていた。ただしその方法では川の中に居る者達が、いくら間引いたとはいえ残った魔物の襲撃を受けて怪我をしていたりしていたのだった。
ただ今回優勝者のダンは並々ならぬ怪力の持ち主(大王ツナは普通1人では持ち上がらない)だったことから、大会職員がアドリブでダン1人を島に送ったのだ。
ダメだったら従来の方法に戻せばいいや。くらいの気持ちで。
うんしょ、うんしょとロープを引っ張るダン。そんな思惑があることを知らずに反対側の防衛網も引き直すことに成功した。
『ねえねえ、ソレな~に?』
唐突に聞こえてきた声に振り返ると、またしても背後からミズチがダンの懐を覗いていた。
ソレと言われた物を取り出すダン。
『う~ん? ボクのウチと同じ匂いがする~』
そう言ったミズチの言葉に、ダンは自身が手にしているソレを見た。
水神様の島の権利書。
「もしやと思いましたが、これってアレに似てますよね」
契約の巻物。
タマモの居た土地契約の巻物とそっくりなソレを広げてみる。
書いてある文面に多少の差はあるものの、ダンが以前に見た契約の巻物とほぼ同じような内容が書かれている。そしてここだけが違った。
「やっぱり」
そこには『ミズチ』の名前が書かれている。
「とすると、これも王家からの流出? いや、街長が元々持ってたって言ってたような?……これは詳しく話を聞かないと分からんな」
手にした契約の巻物の出自を考えて、後で大会関係者に詳しい話を聞くしかないと結論付けたダン。そこに首を傾げて(体ごとの)いたミズチが聞いてきた。
『ん~、ダンが今度の契約者なの?』
「その言い方だと、ミズチは以前の契約者の方を知っているんですか?」
『うん。まだ僕は居なかったけど、ボクのウチと契約していたおじさんが居たことは知ってるよ~?』
ミズチの言い回しを読み解けば、まだ精霊族としての体を持っていない時の知識として知っているらしかった。
『それでおじさんが来なくなってからしばらくして、ボクのウチが住み難くなっちゃったんだよね~』
「住み難くなった?……ということは、その頃から外を出歩いて魔物を食べてたってことですか?」
精霊が住み難くなった。ということは自然界の生命力が豊富に湧かなくなったということか?
『ううん、それは最近だよ~。住み難くなった頃は、まだ周りがおいしかったんだ~』
周りがおいしい。ちょっと言葉がアレだが、まだ周辺の生命力が豊富にあったということだろうか?
『それで、契約する?』
「まあ契約するくらいならいいですよ」
軽い口調でミズチに言われて、ダンも軽い気持ちで返答する。
『それじゃあ、契約するね~』
ミズチの声と共に契約の巻物が宙に浮かび、巻物が開かれる。そこには今いる島と街の一部、おそらく桟橋辺りの地図が浮かび上がっていた。
その浮かび上がった地図の島の辺りにミズチの鼻先がつけられると、契約の巻物が光を帯びる。
『僕はミズチ~。契約はダンとするよ~』
そう言うと契約の巻物がひときわ強い光を放ってから、ひとりでに巻き直ってダンの手に戻ってきた。
『それとダンには祠にも力を込めて貰いたいんだ~』
ミズチがそう言いつつ顔を向けた先には島に唯一ある建物の祠があった。流れ的にタマモの所の結界と同じものかとダンがそちらへと歩み寄った。
それは人の背丈と同じ大きさの木で出来た祠があった。そこにダンが手を伸ばす。
『キュルルルアァ!?』
唐突に聞こえてきたミズチの悲鳴にダンが振り返る。そこにはミズチの胴体を半分覆っているナニカが居た。




