釣り大会終了
大会職員に促されて川から上がったダンは、皆についていくように桟橋から川岸に設置された大会会場へと向かっていった。
『どこか行っちゃうの?』
後ろからミズチの声がする。ダンは振り返って答えた。
「いえいえ、あそこに見えてる場所に移動するだけですよ? ミズチもついてきますか?」
『え~、水の上きら~い』
「そうですか」とダンがミズチから会場へと振り返ると、何故かその場の全員が首を横に振っていた。ダンは首を傾げつつ「会場に向かいませんか?」と促して会場へと向かう。
*
『1日目の釣り具部門の優勝者は――見事、突撃鯉を釣り上げたウラージミルさん! いや~、これで3年連続の釣り具部門優勝者となられました~!』
ワアアアアアアア~!
そう大会実況者から説明されて、会場から声援を浴びつつ自分の釣果を両手に持って現れたのは、なかなか良い体つきの中年冒険者だった。
やや浅黒い肌は日焼けによるものだそうで、ここベタル在住のベテラン中堅冒険者らしい。さらに続く紹介を要約すれば、ここ大河の魔物専門の冒険者で、装備の大半は釣り具で占められているとか。
「特化装備ですか……、融通が利かなそうですね」
確かにその身に着けている装備も大河で見られる魔物素材の装備がほとんどだった。
ちなみにダンは魔物素材装備というものがあまり好きではなかったりする。とはいえ身に着けている革鎧やインナーなどに使われている素材は魔物由来のものだったりするのだが……。
しかし武器に関してはコレクション的なものを除いて、ダンの持っているほとんどが黒鉄鋼製の物を使用していた。
というのも金属製の物であれば、素材として同じ金属が流通している大体の街での補修が行えるという観点からの選択であった。もちろん魔物素材であっても補修を行えないことはないが、その素材と同じものが無ければ完全な補修が行えないというのが、ダンに魔物素材の武器を倦厭させる理由の一つである。
防具の方は攻撃を受けるたびに削れていくのでダンとしては消耗品と捉えていることと、動物の皮や植物の繊維等の耐久力の低さからどうしても魔物素材と成らざるを得なかったという2つの理由があった。
「まあ、定住している場所で素材確保出来るんだからこその選択ですかね」
そういえばダンは釣り上げた剣魚と呼んでいた魔物の口も武器素材に向いている。とか言われていたことを思い出していた。
「作ってみて、欲しい人にあげましょうかね」
『はい! ありがとうござました~。続きまして釣り大会本番2日目、皆さまお待ちかねの素手釣り大会の結果発表の時間です~!』
そういった瞬間、会場から声が消えた。
誰が優勝なのか皆が興味津々なのかなとダンは思った。
『え~、例年ですとここでも会場が沸くんですけどね~……。それでは、皆さま分かっているかもしれませんが、発表します! 素手釣り大会優勝者は~』
何やら複数の視線を感じるダン。
『大王・ツナを釣り上げた冒険者のダン~!』
「ほう。僕と同じ名前の人ですか」
ダンが呟くと周りでガタッと動く複数の人達。周りを見れば何故か全員コケている。
「「「いやいや! ダンさん本人ですよ!?」」」
それから立ち直ったメンバー全員からツッコミが入った。
「え? 僕ですか?」
「そうですよ!……いや、釣り上げたあの魚の名前にもツッコミ入れたいんですが」
キョーコが言うには、ダンが放り投げた獲物が桟橋に上がった時点でダンの成果として判定されたらしく、アレ以上の大きさの魔物が他には存在していなかったことから、結果を発表する前から優勝者はアレを釣り上げた者で決まりだなと全員が思っていたそうだ。
「いや、でも僕そのすぐ後にミズチとやりあってて確認してもらった記憶がないんですけど?」
「あんだけデカイ相手とやりあってれば、誰でもダンさんを見ることになりますって……」
言われてあの時の状況を思い返してみる。
ほとんどの参加者が桟橋の上に上がっていて、川に入っているのはほぼダン1人。
そこからダンのタウントでおびき寄せられた大王ツナ。
飛び上がって空中にいる大王ツナを爆散しないように打撃してキャッチ。
そこをミズチがパックン。
「確かに視界を遮るようなものが無いような状況ですね」
おまけに、その後のミズチとのやり取りを会場に居た全員が目撃していた。
というかさっきまでやっていた事だった。
「さあ、ダンさん。ソレ持って向こうへ」
ソレと指示されたのはダンが釣り上げた魚型魔物であった。
余談ではあるが、大王ツナと言う名前はツナと呼ばれた魚と姿形が酷似していて、なおかつサイズがけた外れに大きいことと、頭頂部に王冠にも似た突起があることから名づけられた過去があるらしい。
後日ベタルの冒険者ギルドでその説明を聞いたキョーコが、「絶対、転生者が絡んでるわね」とぼやいていた。
引きずってきたのか桟橋からここまでの地面に跡が残っていたのを見て、「悪いことをさせちゃったなぁ」と呟きながらダンは大王ツナを持ち上げた。
なぜかどよめきが上がる中、先程の冒険者が紹介されていたところまで、他の人に当たらぬように大王ツナを頭よりも高く上げて歩いていくダン。到着すると全員に見える様に振り返った。
『? なぜ顔が引きつってるんでしょう?』
先頭、ダンにほど近い人たちの顔が引きつっているように見える。
『お~、さすが水神様と殴りあってた人だ……。あ、いけない。こちらが冒険者ダンだ~! え~、資料によりますと外部から来て滞在している冒険者で、そのランクはなんとDラ――D~~~!?』
近づいてみると分かったが、先程から大会会場に声を飛ばしているのは今ダンが居る場所のすぐそばであったようだ。その場所で何やら読み上げている人物の驚愕した声が聞こえてくる。
「Dランクって」
「ウソだろ?」
「ランク詐称?」
「バカ、なんでわざと低くランクを申請する必要があるんだよ! 大会参加にはギルドカードも使ってるんだろ? わざわざDランクのギルドカードを偽造するヤツなんか居ねーって」
なにやら様々な憶測が飛びかう囁きが聞こえてくる。
「正真正銘のDランクなんですけどね? というかコイツは最後何処に持っていけばいいんですか~?」
ダンはとりあえず答えるが、自分達の話に夢中になっている他の参加者の耳には届かなかった。あとそろそろ持ち上げているのも面倒になってきたので、すぐそばの大会職員、つまり驚愕の声を上げた方へと聞いてみる。
『え? あ~、ギルドにて買取りを行いますよ。その大王ツナはほとんど可食部らしいですから、ギルドに納めてくれる部位がこの後皆様に振舞われることになりま~す!』
そこで、ワアアアアアアア~! と会場から歓声が上がった。
「……これって「納めない」なんて言ったら暴動が起きるんじゃないですかね?」
どうにも大王ツナをギルドに買い取ってもらわなければならないような状況に、ダンが『したたかだなぁ』と感心するように内心で頷いていると、参加者からどよめきが聞こえてきた。と同時に頭上から影が落ちてくる。
『わあああああ~。――ところでお話まだ?』
待ちきれない子供のようなミズチであった。
ちなみに突撃鯉とは開いたままの口を持った魚型魔物で、
口の形に進化したギザギザの歯を相手に突き刺しながらその部位を抉る
非常に獰猛な魔物である。
ウラージミル氏は並みの糸では切られる突撃鯉などを想定して、
ミスリルで出来た極細ワイヤーを使うなど釣り具に大変お金を掛けている冒険者だったりする。
……たぶんベタルの街から出ることは無いだろう。
釣り特化装備すぎる冒険者であったw




