ベタルの祭りに参加する
「な、んですって!?」
ベタルの街の大河に面した場所。いくつかの桟橋と街中に川の水を引き入れる水路があるその場所で、ダンは衝撃のあまりによろけていた。
「普通ですからね? かなりオーバーに驚かれていますが、『この大河を泳いで渡る!』なんて言う人は、皆そう言われますから」
普通の者代表のウェンディがダンへとそう告げる。
その目つきは実に冷ややかなモノであった。
まだ朝方の、霧がうっすらと見える時間帯に大河を見に来た一同。若干睡眠を貪っていた者を除いて揃ったメンバーに、今後の旅程を告げたダンが常識を突き付けられた瞬間の出来事であった。
*
「まさか、本当に大河を渡ろうとしていたなんて……。しかも泳いで」
「いや、僕は本当に行けると――はい、すみませんでした」
反論しようとしたダンだが、種族的に浮き難いファーニとマロンに言われて再度謝っている。
現在の場所は止まっている宿『双子の座』の宿泊している部屋だった。大人数が想定されている部屋では食事が運ばれてきている。これは最大人数が止まった場合、食事処の場所が確保出来ないことを想定して、ならば部屋で食事をしてもらえれば場所の問題はないとした宿側の考えだ。その分、厨房と離れている場所への食事の配膳が大変であるが、普通ならば少し残す、出来て完食すればいいくらいの食事量を提供していた。
していたのだが――
「「「こっちにおかわりください!」」」
3人分は余計に往復が必要となった。
それでもダン達の人数が13人(食事を必要とするのが12人)なので、一番最盛期に比べれば微々たるものであっただろうが。
「そういえば皆さんは釣り大会に参加されるんですか?」
食後の食事を下げに来ていた宿の従業員に聞かれて、ダン達は頭に疑問符を浮かべる。
「つり大会ですか?」
「そうです。祭りなので屋台も出ていますが、祭り最大の目玉は釣り大会にあるといっても過言ではありません!」
「ふむ……。ちょっといいですか?」
なにやら熱のこもった説明をする従業員にダンが質問をした。
「はい。なんでしょうか?」
「そもそも『つり』ってなんですか?」
「え~、ダンさん釣りって……、え? 皆も知らないの!?」
キョーコが笑いながら何かを言おうとしていたが、他のメンバーの顔を見て驚きの声を上げていた。
「私も聞いたことでしか知りませんでした」とはウェンディ。
「えっと、釣りってアレよね? 魚を釣るやつよね?」
心配そうな顔をしながら従業員に聞くキョーコ。
ちなみにクロフォード王国やその近隣に生まれたものに釣りの文化は浸透していない。
大河に面しているベタルやその近くの村以外では、魚の豊富な川というのが少ないのがその主な要因だ。
それに頷きながら従業員が言う。
「そうです。1日目は釣り具を使用した釣り。2日目は素手に拠る釣りです。特に2日目は大物が上がってきますからね、祭りの締めに一番の大物が飾られて、可食部が振舞われるんですよ~」
どこか思い出すようにうっとりとした顔の従業員。どことなく美味しいものを食べた時のイリアの表情にも似ていることから、その大物が振舞われた時のことを思い出しているのだろう。
「なんでしょうかダン?」
「いえ特には?」
イリアの顔を見ながらそんなことを考えていたダン。その視線に気づいたイリアが問いかけるとダンは何でもないように首を横に振った。
「それで、釣り大会に参加する方は多いんですか?」
「冒険者ギルド主体だし、冒険者の方は大体参加されてるんじゃないですかね? 選手としても、警備としても」
『祭りの警備に冒険者?』とやや疑問に思うところがあったダンだが、それならば宿も押さえていることだしとギルドへ向かうことに決めた。
*
「次の方どうぞ~」
冒険者達が並んでいるカウンター。とりあえず代表としてダンが並んでいて、ダンの眼の前の冒険者が受付を済ませたのでダンの順番が回ってくる。
「すみません。『つり』大会とやらの依頼を受けたいのですが」
「依頼? あ~、警備の方ですか? すみません。あれは街の冒険者に優先的に回させてもらっているんですよ。それよりも参加の方はいかがですか? お一人銀貨5枚ですが、優勝すれば金貨1枚が出ますよ!」
警備の話は無理だった。
それよりも参加を、と流れる様に話が切り替わった。
「見たところそれなりに稼ぎのありそうな人ですし。……昨日現れた冒険者なんかは、同じD級でもそんな余裕がありそうじゃない人が居ましてね~。あの人が来ても参加費で尻込みしちゃうかも」
よく見れば目の前のギルド受付は昨日ダンが話しかけた人物だった。
「もう全身埃だらけ。流れの冒険者だったのかな? 運良く別パーティと合流して、その人たちの下働きとしてやっていけそうだったけど」
それはなかなかに苦労をしていそうな人物の話だった。
「それでも祭りに参加は無理でしょうね~。って、こんな世間話をしててもしょうがないですね。それで参加しますか?」
「う~ん? ちょっとパーティメンバーと相談して、また来ます」
そして少し離れたところに居るメンバーと合流した。そして聞いた話を皆にする。
全員、何やら簡単に頷きあうとリルが代表して言った。
「そうですか……。それじゃあみんなで受けましょうか」
「分かりました。それでは皆さんのカードを預か――」
「行きましょうかダンさん!」
グイっとダンの腕を抱え込む。
そして全員でゾロゾロと受付カウンターの列に並ぶ。
「はい、次の方――? あれ?」
そしてまた順番が回ってきたダン達の姿を見て、受付が目を丸くしている。
「「「私たちも釣り大会に参加します」」」
「あ~、そういう事なんで参加で受付をお願いします」
そして差し出されたカードを見て更に吃驚していた。なにやらしきりにカードとダンを見比べている。
「え、もしかし――」
「私達のリーダーに何か?」
受付の言葉に被せる様にリルが言った。
ダンは「まあまあ」と言いつつ、人数分の銀貨をカウンターへと置いた。
「参加費の事でしょう。これで足りますよね?」
「え、ええ、はい」
そしてダンは受付が済んだことを確認し、番号が掛かれた布の帯を受け取る。そして、まずは釣り具とやらを求めにギルドを出た。
「……ダンさん、本当に気づいていないのかな?」
「いつもの調子でしたし、普通に気づいていないかも?」
*
後日、受付に謝罪されて、ようやくダンは苦労していそうな人物が自分だったことに気づいたのだった。




