森を抜けて
あれから3日経過して、ダン達一行は迷いの森を抜けて平原へと出てきた。
「いや~、ようやく森を抜けましたね」
ダンは陽気に言っているが、他のメンバーはぐったりと、非常にぐったりとしていた。
「おや、どうしましたか?」
「「「……単純に疲れてるだけです」」」
「疲れてるって……。ああ、あの蜘蛛との戦いのあとは疲れましたね」
「「「というか、あれって災害級ってヤツじゃないんですか!?」」」
ダンがしみじみと思い出していたのは2日前に遭遇した超大型の蜘蛛型魔物だった。メンバーは全員血の気が失せたような顔をしていた。
しかし災害級とは、
「さすがに過大評価しすぎでは? 大きかったとはいえ、所詮蜘蛛ですよ?」
災害級。
それは単独で街や砦などにとてつもない被害を与えることが出来る個体につけられる呼び名だ。
ダンの認識では大型に成長したアースドレイクなどが災害級だと思っている。
「あの蜘蛛、ダンさんじゃないと致命傷を負わなかったんですけど!? それって脅威じゃないんですか??」
「ん~、とは言え『鞘』で済みましたから、そこまで硬かったかなぁ? と」
「「「そう、ですか……」」」
全員が遠い目をしていた。
ダン的には、その後に警戒や夜営の時の緊張感が増したことの方が良いことだと思っていたが。
ちなみに超大型蜘蛛の名称はタイラントスパイダー。
暴君と名づけられるほどの硬さと弾力を持ち合わせた外皮を持ち、巨体を難なく動かせる力を持った蜘蛛型魔物の中でも上位に位置づけられる魔物である。
蜘蛛ということで巣から離れて行動することが滅多にないが、逆にその巣に足を踏み入れた場合は災害級と遜色ない凶悪さを発揮する。
「それでも、もう少し皆さんが闘気を上手く使えれば、あの蜘蛛相手でも問題はないと思いますけどね。実際、少しは攻撃が効いていたみたいですし」
「焦がしたり、少しは凹ませることができたくらいですよ?」
自信なくそう言ったのはウェンディ。
普通の基準で言えば後衛職の回復要員が、攻撃の自信が無いと言えば「当たり前じゃ?」と言われてしまうものなのだが、ウェンディを含めてダン達メンバーに既に後衛職という考え方が無くなってきていた。
「ふむ。それじゃあ次の魔物はオーク辺りを狙ってみますか? オークの皮膚とその下の肉の防御力は、今の皆さんにちょうどいい相手と言えるでしょうし」
「オークですか?……まあ、負けなければいいんだし」
何やら納得するまでに時間が掛かっていたが、最終的には皆が了承してくれた。
「さて、森を抜ければ街までは2日もあれば到着予定ですから出発しましょう」
*
夜、遠目に街の明かりであろう光源が見える距離まで進んで夜営を行う。
「街に入ればスッキリ出来るんですけどねぇ」
そう言いながらダンは厚手の布を下に敷いて、髪の毛や体に粉をつけて油を落としていく。浮いていた油がその粉に吸われていく。だが全ての油が吸着されたわけではなく、身体に不快感は若干残っているが、水は顔を拭くくらいしか消費していない。
「ダンさんもこちらの『水』を使ったらいいんじゃありませんか?」
そういうウェンディの手元にはダンが作り出した土桶に貯めた水があった。
「ん~、顔を拭く水に使わせて貰います。なんというか『こういった習慣』を無くすと、水が使えない状況になった時が怖くて」
ダンはそういってウェンディの提案を断り、足元に落ちた余分な粉を布で集めると、ポーチから作業用の小さな片手鍋を取り出してそこに入れて、それを火に掛け始めた。
「そういえばソレってなんですか? 砂っぽいような気もするんですけど」
「へ? 砂っぽいというか、ほぼ砂ですよ?」
食事の時に使う鍋とは別物ですから安心してください。とダンが言う。
「焼いた貝殻とか入ってますけど。昔教えて貰ったんですよ、長期行動の際に臭いとか抑えられるという事でね。あ、そうだ。皆さんもブーツの中をコレで一回洗います? そうじゃなくても一回脱いで風を通した方が良いですよ」
ダンは教えて貰ったと簡単に言うが、それを教わった相手が熟練の斥候だということを忘れていた。
普通の冒険者は臭いなどにあまり意識を割かないものだ。
だが改めて『臭い』と言われて全員が旅の途中、滅多に脱がない履物を脱いで足も硬く絞った布で拭いていく。
無言で念入りに拭いている姿にダンは「そこまで臭いはしませんよ~?」と言ったが、メンバーのほとんどが女性であるダン一同。片足ずつ拭いては布を水で濯ぐと、両足を拭き終えて「あ、どうしよう?」という顔をした。
せっかく拭いたのに、履物に直ぐに足を入れたくなかったのだ。
仕方が無いと、まだ使っていない布を取り出して地面に引くダン。
「こちらに足を乗せてください。ブーツや靴の中はしばらく置いておけば大丈夫でしょう」
「あ、ならウチが風を送ってみるよ。まだ戦闘には使いこなせてないけど、そよ風くらいなら問題ないし」
そうマロンが提案するので任せた。ダンも自分のブーツを脱いで、サンダルを履いている。
「あ~、でも靴を脱ぐと開放感がありますね~」
リルはそういって足をバタバタと振っていた。何も言ってはいないがロウキも似たように足を振っている。
ダンはふと平原の一部を見ていた。
「よ~し、『風よ吹け』ウィンド!」
マロンがその手から魔力を流して、周りの空気に流れを与える。ブーツや靴等の履物を撫でる様に流れた風が平原へと散っていった――
「ギャン!」
突如聞こえてきた悲鳴に全員が戦闘態勢になる。
リルとロウキは咄嗟に服を脱ぐと狼形態へと変身した。
「あ~、やっぱり」
そんな中、ダンだけが平常運航であった。
「訓練された軍用犬なんかだと、あの臭いで気づかれるんですよね。でも悲鳴ですか」
地面に置いていた剣を持ち上げて、悲鳴を上げたグラスウルフを脅すように威嚇する。
そうすると狼達はすぐさま退散していった。
「さて、しばらく近づいてくるのは居ない――どうしました?」
なにやらメンバーの表情が暗い。ライは苦笑いをしていたが。
「ダンさん、私たち『クサイ』ですか?」
ウェンディが暗い顔をして聞いてきた。それにダンは首を傾げる。
「いいえ? 狼達は僕達の何倍も鼻が良いと言いますよ。マロンさん」
話を振られたマロンがダンを見ると何やら指さしている。釣られて視線を動かせば、そこには白と黒の狼が――
『待ってマロンさん!』
『待つのだマロン殿!』
ついっと風の向きを変える。
『『ぎゃああああああああ!』』
実験台にされた2頭の狼が悶絶して平原を転がった。
その後、ダンは実験台にされた2人から説教を食らっていた。
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順次公開していく予定ですが、これより先の話を見たい方は
アルファポリスでの投稿ページ
https://www.alphapolis.co.jp/novel/872180522/8274942
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