迷いの森を歩く
ネット小説大賞にエントリーしてみました。
……たぶんエントリー出来てるハズ?
ウルスラの街とベタルの街の間には1つの森が広がっている。
いつからか『迷いの森』と呼ばれるその森は、木型の魔物。代表的な木型魔物や、歩く木などの木に擬態する魔物や、食肉植物に惑わし草などと言った危険植物の宝庫といってもいい植生を誇る森であった。
「いや~、すごいですよねぇ」
「「「全然すごくないから! 危険だってことですから!」」」
呑気に感想を述べるダンに全員が突っ込む。
前述の通り、普通の木に紛れて木に擬態した魔物が居るおかげで、目印となるものが確定出来ないのがこの森だ。
歩く木など正にそれで、今もダンがスッパリと胴体の心臓ともいえる部分を切ることで倒しているが――
「全然普通の木と擬態しているヤツの区別がつかない!」
ファーニもウェンディもキョロキョロと周りを見ながら、おっかなびっくり歩いている。
「もうちょっと肩の力を抜いて、リラックスしながら見れば、ハッキリ分かりますよ違いなんて?」
ダンがズンズンと進みながら振り返って説明する。
そんなダンの背中に一本の木の枝がスルスルと近づいてくる。
「ダンさん!」と慌てる声に、しかしダンは気負いなく右手の剣を振り向きざま横薙ぎに振るった。近づく枝とその枝を伸ばす木の幹を切り裂く。
『アアアアアア~』とトレントが木の胴体に浮かべた顔を軋ませながら声のようなものを上げた。
「ね? 簡単でしょ?」
「「「んなワケない!」」」
*
それでも人間慣れるもの。
ダン以外のメンバーも、徐々に普通の木と魔物の木の違いを見つけ始めた。
「あ~、落ち着けば枝とか木の肌とかが違和感がある。かな?」
「そうですね。色でも違いがあったり、揺れ方とかに生き物っぽさが出てるような?」
目の前に実物が居るからこそ分かる違いを、実際に体験していく一同。
仮にヤバそうな場合でも、ダンが傍に居ることによる安心感から、その違いを観察することに比重を置けることも要因のひとつであろう。
「お、コイツは魔物! お~、ヘニャッた」
マロンが見つけた歩く木の瘤のように膨らんだ胴体部分を槍で突く。すると核を破壊された歩く木は、普通の木ではありえないほど曲がって倒れた。確かに一撃で倒すことは出来たが――
「ソレ、魔石が壊れたんじゃないかな?」
「へ?――あ、嘘!?」
ダンの指摘に槍を手斧に持ち替えて歩く木の胴体を縦に割くマロン。開かれた幹の中には破片として散らばった魔石があった。ガックリと膝をつくマロン。
ここまでヘニョリと曲がる歩く木は木材としての買取りは無く、唯一魔石だけが換金対象となるからだ。
ダンがマロンの肩に手を乗せる。
「どんまい!」
「なんですかソレ?」
「『気にするな』って意味の言葉らしいですよ? 意味はキョーコさん辺りに訊ねてください」
「『気にするな』か」と口の中で繰り返してみるマロン。しばらくすると、フン! と気合を入れて気持ちを切り替えた。
なにやらキョーコが「あの弟は他にナニを言ってるのやら」と頭を抱えていたが。
「ここでは弓は向かない。山刀を使うしかないか」
「私も手よりもこの斧かな」
クローディアやリルが予備武器を取り出して振るっていた。一応ダンが付きっきりで教えていただけあって、普段使わない武器でも問題なく振るうことが出来ていた。
予備武器ではあるが、主武器が効きづらい魔物に遭遇した際に、取れる選択を増やすためにダンは複数の武器の使い方を教えていた。ちなみに格闘、つまり徒手空拳も教えている。最悪の事態にも攻撃できる手段を持っておく。それがダンの基本となる考えだった。
各々、木というある程度の硬さを持つ外皮持ちの魔物に効きそうな武器に持ち替えていく。
「ちなみにキョーコさん。火の魔法は禁止ですからね?」
「ちぇ~」と火の玉を浮かべようとしていたキョーコは、若干の不満の声を上げながら、小ぶりなツルハシのようなものを手にした。戦鶴嘴と呼ばれる武器だ。使用方法は普通のツルハシと同じ。
「これも魔物か~。てい!」
キョーコは近くに居た普通の木に擬態していた歩く木に向かって、手にしたモノ大きく振り下ろす。尖った先端を持った頭が柄の端に付いていることで遠心力と重りの役目も果たして、歩く木の胴体にめり込むように突き刺さっていく。
「これ、けっこうエグイわね?」
「でも結構有効的なんですけどね~。なんでか嫌がる人が多かったんですよ」
ダンはなんでだろうと首を捻る。
その答えは単純に見栄えの問題であった。
キョーコが刺さったウォーピッグを抉りながら抜いていく。
『ッギ! ギ、ギギ!』
かなりの威力があるが、やはり皆心のどこかで格好良さを求めてしまうようだ。ギコギコと刺さった部分を抜くキョーコの姿に、何人かは『ないわ~』と胸中で呟いていた。
ちなみにその一人のウェンディは、もはやメイスを2本つなぎ合わせたような棒をトレントにぶち当てている。棒を旋回させて、更に当たる直前に体も回してぶち当てることにより、棒の先端の最大速度はかなりのものとなっていた。
バコンッ! といい音がトレントの幹から発せられると、メキリ! とその外皮がめくれ落ちてくる。
『やはりこのくらいの優雅さも欲しいですよね~』と本人は上機嫌だが、そのエルフが振るう武器の出す音じゃない光景をみたメンバーはやはり『ないわ~』と思っていた。
しばらく森を進み、そろそろ日も落ちそうな時間になってきた。
「さて、初日という事で距離は稼げませんでしたが、本日はここで野営をしたいと思います」
「……あの、ダンさん? こことは?」
「え? まさにここの場所の事ですけど?」
木々が周りに生えている中で立ち止まったダンが言う。どうみても野営のできそうな場所ではない。というか普通に森である。
「その、視界とか悪そうな場所でしたので……」
見渡せる範囲も広くはない。こんな場所でどうやって野営をするのか? 皆が疑問を浮かべた顔で困惑していた。
そんな中、おもむろにダンが剣を構える。
ダンの視線の先を見て、全員その場でうつ伏せになった。
「いきます! 模倣アーツ『ロングスラッシュ』」
全員が伏せたのを確認した後に、ダンが構えた剣を横薙ぎに振り切った。
剣身から闘気を伸ばしてリーチを伸ばした斬撃が木々を切り裂いていく。
そしてダンの前方にちょっとした広場が出来上がった。
『グアアアアアア』
どうも普通の木だけでなく、トレントも切り捨てたようだ。
「では改めて野営の準備をしましょう」
剣を地面に突き刺すと、ダンは倒した木やトレントをマジックバッグにしまい始めた。
地面に伏せていたメンバーがその光景を見ながら起き上がってくる。
「あ~、やっぱりこうなったか」
「ま、ダンさんのすることだからなぁ」
気にしてもしょうがないといった表情で、広場の大体中心と思われるところに即席のかまどを用意すると食事の準備を始めた。
食事以外のメンバーは簡易の寝床としてシートとタープを広げている。タープを結んでいるのはマロンの槍とキョーコの薙刀を地面に突き刺して立てた柱であった。
リンとポーラがサニーへ飼料を与えている。サニーもこの森の草が危険なものだと、動物の本能的な勘のようなもので感じ取っていた。
とりあえず食事は食材を詰め込んだスープで済ませて、夜の交代の順番を決めていく。
「一応の目安として、大体1時間の砂時計を置いておきますね? とりあえず僕とタマモで組みますので、2人1組で1時間毎の見張りとしましょうか。あ、僕達は真ん中、4番手にしますんで」
14人(タマモは数に入れる)居ると7組出来上がる。6時間休憩を取れれば、野営での休みとみれば上出来だろう。
1時間くらいに調整した砂時計を取り出して地面へと置くダン。
ワイワイと組み合わせを話し合って決めたのを確認して、早々に厚手の布に包まって寝息を立て始めた。
「早すぎる」とか何とか聞こえたが、ダンは仲間を信頼して寝た。
どれくらい時間が過ぎただろうか。
寝ていたダンは、呼吸していた自分の鼻が独特な甘みを感じる匂いを嗅いだことで、その意識を浅い眠りから引き揚げて意識を覚醒させた。
布に包まったまま鼻に意識を集中させる。
すると森の中から匂いは漂ってくるようだった。
それと仲間の内、2人が立ち上がる気配がする。
ダンは寝返りをうつ振りをして薄目でその人物を確認した。
リルとロウキだ。
だが2人ともその目がトロンとしている。
『これは、もしかして引っかかったか?』
ダンがそう思っていると、2人が甘い匂いのする方へとゆっくり歩き始めた。2人が通り過ぎてから、ダンもゆっくりと上半身を起こして2人の歩みを見守る。
そして2人が森に入っていき、しばらくすると――
「ひぎゃああああああ!」
「ぐぎゃああああああ!」
と2人の悲鳴が聞こえてきた。
ヤレヤレと起き上がり、地面に突き刺した剣をつかみ取ったダンは2人の後を追った。ダンが森の中に入って割とすぐにその現場へと到着をした。
大きな花弁。そこに付いた牙のようなものに足をガジガジと噛まれつつ、鼻を押さえている2人を見つけた。
2人も近づいてきたダンに気づいた様だ。
「助けてダンさん!」
「助けてくれダン殿!」
「「凄くクサイ!」」
涙目になっている2人。腐肉のような香りに鼻が刺激されているのだろう。
ダンが剣で花弁を切ると、中から溶解液があふれ出した。更に増す臭い。
「はうううううう」
「ぐぬううううう」
溶解液をもろに浴びてしまった2人が更に鼻を押さえる。溶解液といっても強い酸ではないので、応急処置として底無しの水筒から水を掛けていくダン。水で洗い流された臭いが若干残っていたが、2人は無事に抜け出すことが出来た。
「甘い匂いで、食べ物かと」
「甘い果実のような匂いだったのだが」
「あ~、惑わし草ですねぇ。たぶん嗅いだのは花粉ですよ。惑わし草の花粉を鼻で吸い込むと、花弁が美味しそうに見えるらしいですよ? 僕は見たことが無いので分かりませんが」
2人はなまじ戦闘能力が高かった為に油断していたのだろう。
実際、かじられていた足は大して怪我を負っていなかった。しかし――
「気のゆるみが大きな怪我に繋がる場合もありますからね? その辺り、明日以降気を引き締めなおしましょうか。訓練でね?」
にっこりと笑うダンに、2人は揃って震えていた。
読んでいただきありがとうございます。
順次公開していく予定ですが、これより先の話を見たい方は
アルファポリスでの投稿ページ
https://www.alphapolis.co.jp/novel/872180522/8274942
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よろしくお願いいたします。




