閑話 王都にて手紙を受け取った人達
王都にある王国軍の隊舎内。
大団長の執務室をノックする音が聞こえた。
「誰だ?」
「シン・ノーランドです。お呼びとのことで参りました」
「シンか。入っていいぞ」
「失礼します」
そういって執務室を開けて入ってきたのは人種の青年だ。紫色の髪を持つ青年は簡素なシャツとズボンにブーツという姿だ。確か先程外回りの任務から帰ってきたばかりだったはずだが。
「わざわざ着替えてからきたのか」
「すみません。任務中ならともかく、それ以外の時は隊長に『身綺麗にしておけ』と念を押されてまして」
青年、シンの『隊長』という言葉に大団長がクスリと笑みを零す。
「なるほどな。アイツは確かにそう言いそうだ。それで、そのアイツから手紙が来てるんだが」
そういって大団長が差し出す封筒に、シンの目が驚きに見開かれる。
「隊長から!? ってか生きて――いや、そもそも殺そうと思って殺せる人じゃないか……」
シンの的確な、それでいて当人を人外認定しているような発言に、大団長も「ゴフッ」と咳き込むように誤魔化して噴き出していた。
「ンン。とりあえずお前さん宛の手紙だ」
「自分宛ですか? えっと、他の人宛とかではなく?」
「確かにお前さんの名前が書いてある。ギルド間通信での手紙だ」
そういって再度手紙に視線を送り促す。シンはその手紙を受け取った。
「ちょっとこの場で手紙の内容を確認してもらえるか?……ああ、読み上げろってわけじゃない。実は一緒に俺のトコにも手紙が来てるんだよ」
不審な顔をしたシンに「違う違う」と手を振って、もう一通の封筒をヒラヒラと振る大団長。
『どういうことです?』という顔をするシンに、「とりあえず手紙を一回見てくれ」と大団長が促す。
シンは要領を得ない表情をしながらも封筒の中身を取り出して読んでいく。
「……! まさか、そんな!」
「ん? なにかトンデモナイ事が書いてあったか?」
「い、いえ、その、自分の家族と隊長が出会ったようでして」
「ニアラの街でか?」
大団長の目が鋭くなる。
しかしシンはそれに気づかずに普通に返事をした。
「正確には街の外で出会ったようですが……。あれ? 街の名前を言いましたか?」
「それはこっちの手紙にも書いてあった。……シン、お前はニアラの街というのが何処にあるか知っているか?」
問われたシンは記憶を思い出すように、大団長の問いに答えた。
「え~っと? 確か東の方の街だったような? 任務に赴いたことはありませんね。その手前のベタルまでしか行ったことはありません」
「正確にはベタル、ウルスラ、ニアラという順番だな。国で一番最東端の街がニアラだ」
「さすが大団長。博識ですね」
「昔取った杵柄。かつて冒険者だった時に行ったことがあるだけだ。……で? 前にベタルまで行った時に、お前さん、何日移動に掛かった?」
「えっと?」と自身の記憶を呼び起こすシン。
「2か月ちょっとは掛かったかと」
「ふむ。それで、何か気づかんか?」
「え、気づくですか? 何にでしょうか?」
「……ダンが王都を出てどれくらいだ?」
「確か、自分達があの時任務に出ていたのは……、大体2か月前。あれ?」
そういってシンは自身の手に持つ手紙に視線を落とす。
「街に着いたと同時にイベント盛りだくさんですね。さすが隊長」
あっけらかんというシンに大団長の雷が落ちる。
「能天気か! こっちの手紙にしか書いてなかったのかもしれないが、ダンは王都を出てから約1か月くらいでニアラの街に到着してるらしいんだよ! おまけにアイツの事だ、自分が大したことはないと思ったことは書いてない感じすらある!」
「ああ~、たしかに隊長ならやりかねませんね。……しかしどうやって1か月でそんな距離を移動したんだろう?」
「まともなルートならニアラの街まで約3か月ってところだ」
王都を東方面へ進むと大河が流れていて、大きく北上するか南下するかしかその大河を超すことは出来ない。王都から真っすぐ進むと、ちょうど大河が一番広くなっているのだ。
「……泳いだとか?」
「んな、ばかな。……とは言えないか、ヤツの場合」
シンの発言にさすがに反論しようとする大団長だが、ふとダンのにこやかな笑顔が脳裏に浮かぶと、その意見もあながちありえそうな気がしてくる。
のちに本人の口から語られるが、ニアラへの旅路で一番足を取られたのがこの大河だったようである。
『寝たらだいぶ流された』と本人が証言していた。
「とりあえずギルドに問い合わせたが、間違いなくニアラの街のギルドからの手紙なことは間違いない」
「そうですか……。ところで急なんですが、少し休みをいただいても?」
「よほどその家族が気になるようだが、手紙に書いてなかったか? 『王都に向かう』って?」
「あ~、そういえば書いてありましたね。それに『寄り道』もするって。……下手するとすれ違うか」
「そうだな。そんなわけで休みは無くてもいいよな? ――あ~、あと、このことはお前らのトコの副隊長とかには教えるなよ?」
シンの休みをとりあえず却下する。そして思い出したように追加で、とある人物たちの耳に入らないようにしろと告げる大団長。それにはシンも同意するように頷いた。
「というか、隊長から手紙といえどもやりとりしてた。なんてバレたら、俺、貼り付けにされてなぶり殺しにされますよ」
言った内容はとても本気に取れる内容ではなかったが、シンのその表情は真剣そのものだった。
「あ、ああ。しばらくは口外厳禁だな。俺も言わん」
「頼みますよ。ほんとーに頼みますからね」と念を押して、シンは執務室から退出していった。
一人残された大団長はポツリと呟く。
「というか、アイツ『面倒くさい』とか言って必要な事すら喋らんからな……。ニアラの街で、本当は何をしたかったんだ? 間違えても魔物行進を止めに行ったとか、バルバロ帝国の侵攻を阻止に行ったわけじゃあるまい? 『キツネに会いました』とか訳わからん!」
本当は石碑が目的だったのだが、書くと余計面倒な事態になるかと考えたダンが、その部分を『キツネに会いました』として1つにまとめたのだ。
その手紙の内容に頭を抱える大団長がそこにいた。
読んでいただきありがとうございます。
順次公開していく予定ですが、これより先の話を見たい方は
アルファポリスでの投稿ページ
https://www.alphapolis.co.jp/novel/872180522/8274942
にてお読みください。
よろしくお願いいたします。




